クロエ 新しき未来へ 歩み始める
北のシーガイカ領を後にしたのは、イヴァン様の長い長いお話を全て、聞いた後ね。
アレクサス御爺様の事とか、ウラミル閣下の事とか、エリカーナ奥様の事なんかを、細かく話して下さった。 あのね……エリカーナ奥様…… 私の事を本当に想っていて下さったの。 私が居なくなってからね、なにかある度に、私の部屋を訪れて、横にザックリ切れた壁紙を見詰めながらね、御報告してくれたんだって……
そこに、私がいるかの様に。
誰も、……お屋敷の誰も、止められなかったんだって。
なんかね、すんごく、胸が熱くなったよ。
ソフィア様は、元気な男の子を、手にされたって。 皆が喜んだって。 で、私が渡した毛糸で、ソフィア様が、「おくるみ」とか、編んで差し上げてたらしいの。 それでね、奥様に云うんだって……
「クロエが、贈ってくれた物です」
ってね。 編んだの、ソフィア様じゃん。 でも、そう言われた奥様、その子を大事に大事に抱えて、頬擦りしながら、言ったんだって。
「クロエが護ります。 強く賢い子になります」
ってね……なんだよ、それ。 まぁ、イヴァン様には、私の事は、内緒にしておいてもらったよ。 だって、そんな様子じゃ、生きてるって知ったら、暴走するでしょ? 奥様の気質は知ってるよ、私。
固く固く口止めをしてね、交換条件に、私の所在を知らせる事を約束させられたの。
で、アルフレッド辺境伯の奥様、ソーニャ様には、お手紙を書きますって、約束して、やっと、了承してもらったよ。 まぁ、そこら辺が限界かな? だって、ほら、また、マリーの邪魔をする奴等が、出ないとも限らないじゃん。 マリーの戴冠が終わるまでは、絶対に表に出ないよ!!!
―――――
辺境の暮らしはね…… 私にとっては、楽しいモノだったよ。 フランク? 最初は戸惑ってたけど……慣れたみたい。 薬草とって、ポーションにして、売るの。 それだけ、なんだけどね。 まぁ、困った時もあったのよ。 なかなかと、魔法草が手に入らなかったりさぁ…… そんでね、色んなモノを試してみて、面白いポーションなんか出来ちゃったりしたわけよ。
薬草の薬効の成分的に考えれば、単なる回復薬なんだけど……どうも、気分を高揚させるモノが内部生成されちゃった回復薬が出来た時は、ちょっと、焦ったよ。 たまたま魔物と、小競り合いがあって、フランクが怪我しちゃってさ…… 大きな怪我じゃないんだけど、心配で、回復薬を使ったのよ。
そん時さ……その効能の良く判らないポーション渡しちゃったのよ。
でね、回復はした。 うん、確かに回復はした。 とっても、効くよ。 ものの数刻しない内に、傷口全部塞がったし、軽く ” 毒 ” が掛かってたんだけど、それも、全回復。 すんげぇ! って思ってた。 そのレシピ、ちゃんと記録とってたから、量産出来たら、いいなぁ……なんて、思ってた。
でね……夜中にさぁ……水浴びをする音がするのよ。
ザッパザッパ、水を浴びる音。 私、眠ってたんだけど、起きてしまったよ。 フランクが隣に居ないのよね。 でね、音のする方に行ってみたら、夜中に、彼が水を浴びてたのよ。 なんでだ? って思って、聞いてみたの。
マズかったみたい……
今は、来ないでくれって、言われた。 ショボ~ンとしてたら、お風呂の中から、声がするのよ。 今、私と顔を合わせたら、収まりが付かないって…… あぁ~~~~、ヤバいクスリだ…… あれ…… マジで、ヤバい薬だったんだ……
ゴメン…… 本当に、ゴメン…………
お風呂の扉越しに、謝り倒したよ。 フランクも、近くに寄って来て、扉越しに、一晩過ごしたんだよ…… 別に……構わないのにって伝えたらね、そしたらね、彼が云うのよ…… 時が満ちたら、その時にって。
何でって聞くとね、マリーの戴冠式が終わって、龍王国に安寧と平穏が確立しないと、君が納得しないでしょって…… ちょっとね……胸がね……痛いよ。
―――――
ゆっくりと、辺境地域を回って、西の辺境の辺りを旅してた。 イヴァン様が言ってた、「カヤーマ修道院」にも、行ってみたのよ。 ポーション捧げにね。 精霊様への御奉仕がてらね。 受け付けてくれた修道女さんに、見覚えがあったの…… エリーゼ様だったよ。
なんかね……憑き物が落ちたみたいだった。 私の事は、判らない感じだったけど、ポーションを捧げると、ものっそいいい笑顔をしてくれたよ。 あぁ、フランクは、修道院には入れないから……外で待ってたよ。
「精霊様の御加護が有らん事を」
彼女がね、笑顔でポーションを受け取りながら、そう言ったのよ。 なんかね…… だから、聞いてみた。
「辛くは、ないですか?」
寂しげな微笑みを、美しい顔に浮かべながらね、云うのよ。
「……私は、許されざることをしました…… ただ、自分の欲望を叶えたくて…… 周りが見えていませんでした。 辛くはないです。 ……あの人と、比べたら…… まったく、些細な事です」
「精霊様がお許しに成られたら?」
「自分が許せませんの……あれだけの愛情を受けて育てて貰えたのに…… 無にしてしまった。 そんな、自分が許せませんから……ここでの祈りの生活は……贖罪と希望です」
「貴女に、精霊様の祝福の有らん事を」
フードが、ハラリと落ちたの。 誰かが、脱がした感じ? きっと、精霊様だね。 彼女に許しを与えようとしたのね。 なんとなく、理解した。 私の顔を見て、エリーゼ様、なんか、目を真ん丸にされてたよ。
「く……クロエ様?」
「辺境の薬師、クーですが?」
ニッコリと笑っておいたよ。 エリーゼ様、目に涙を一杯溜めてね……深々と、” お辞儀 ”してた。 あの、頭の高い人がね…… 私も、精一杯頭を下げて置いたよ。 これからも、貴女の心に、平穏の有らん事を…… 彼女の声が、退出して行く私の耳に届いたの。
「あぁ……精霊さま……感謝いたします…………」
―――――
そんなこんなで、一年が過ぎたのよ。 そしたら、やっぱり、門の精霊様からの呼び出しがあったのよ。 お迎えが来たなら、行かなくちゃね。 そんで、フランクと一緒に行ったのよ。
私の顔を見て、天龍様はニッコリ笑ったような気がしたの。 でも、横に居るフランクの顔を見ると、途端に厳しい目付きに変わるのよ。 良くして貰ってるよ? 大丈夫だよ? 楽しいよ? ねぇ、そんな目で、フランクを見ないでよ!
そんで、鼻先に両手を捧げて、浄化の魔力を送っていたの。 心地よさげな天龍様を見ると、何かホッとするね。 フランクは、片膝ついて、騎士の礼を捧げてたよ。 なんか、定番になってるよね。
そうこうして居るうちに、マリー達がやって来た。 うん、とってもいい笑顔でね。
マリーも私の横に立って、天龍様の鼻先に手を当てて、浄化の魔力を捧げてる。 さらに、気持ちよさげに目を細めてられたよ。
⦅この地域は、加護で守られて居るよ。 何も心配はいらん…… 地龍が居る地域も、元に戻りつつあるな。 奴め、無理をして無ければ、良いのだが⦆
⦅彼の地には、グレモリー様が居られます。 ご心配は、無用かと⦆
⦅……あの時は、肝を冷やした…… クロエ、すまんかったな⦆
⦅もったいのう御座います。 彼の地の崩壊は、この地に穢れをもたらします。 これも、御役目かと⦆
⦅……この世代に、クロエがおって……良かった……本当に、よかった⦆
天龍様の穢れを浄化し、お送りしたの。 【 降臨の間 】の中がまた、薄暗くなったよ。
―――――
浄化を終えてね、天龍様が帰られた後、マリー達が、近寄って来たの。 マリーが私の両手を取ってね。 一緒に来て欲しいってさ。 それは、無理だよ。 まだ、マリーは女王様じゃないし…… なんか、食い下がるね。 そんで、ギルバート様も。
「少しの時間を……少しだけで良いのです」
あぁ……なんか……ねぇ。 フランクに視線を投げかけると、あっちはあっちで、ギルバート様に拉致られとった……
「王城には……無理ですよ? 余りにも、目立ちますから……」
何処かに行くにしても……それだけは、無理だよ。
「王城には、向かいません。 ただ、少しお時間を頂ければと」
うん? なんだ? へんな感じだ。
「まぁ……王城に戻らなければ……」
「わたくし、お願いいたしました。 非常に例外な事ですが、天龍様、門の精霊様に誠心誠意お願いいたしました。 許可を頂きました。 どうぞ、此方へ……」
なんか、めっちゃ真剣な表情だよ…… そうだね……行ってみるか。 フランクもギルバート様が、お願い、していたよ…… 渋々だけど、了承したみたい…… そんで、手を引かれる様に、転移魔方陣に乗ったのよ。
扉を二枚抜けたところ…… 広いね。 今までになく広い。 でね、人影があったのよ。 あれ? 龍印の持ち主しか……入れ……なかった……筈……じゃぁ……
待っていた人達を見て、大きく目が広がったよ。 自分でも、判るよ。 滅茶苦茶、驚いた。 ほんと、驚いた。 そんな、私を見て、マリーが微笑んだよ。 視界の端っこでね。 なんか、してやったりって、顔してるよ。 もうね……もう……ホントに、許可貰えたんだ…… マジでか!! 天龍様になんて言ったんだ?
「クロエ様の、お気持ちを一番に気に掛けて居る者達が居りますと…… 彼らに、時間を下さいと。 そして、クロエ様が何処かに行ってしまわない様に……お願いしました。 みな、信じておりました。 さぁクロエ様……」
すっと、背中を押されたの。
一番最初に飛び出して来たのは、マーガレット。 いきなり、グーで殴られた。
「馬鹿野郎!! どこ、ほっつき歩いてたんだ!!! この、この、この!!!」
声に成らない変な音を口から漏らしてんね…… 逢いたかったよ。 マーガレット。
ガッツリと抱き締められたんだ…… そしたら、みんな側に寄って来てね、めっちゃ睨んで来る、ビジュリーとアスカーナ。 そんで、その子らも、声に成らない変な音口から漏らして、抱きついて来たの。
更に、メイドズ…… エル……、ラージェ……、ミーナ…… 抱きつかれて固まっている私に、近寄って来たかと思うと、三人が、上から抱きついて来たよ……
もう、もみくちゃだよ……
みんな、声に成らない声で、泣いてるの…… ゴメン……長い事、留守にしてたよね。 元気にしてた?
「クロエ様……」
「クロエぇ~」
「お嬢様!」
「お嬢様」
「クロエお嬢様!」
みんなの顔をしっかりと瞼に焼き付けたよ。 ウンウン、元気そうだ。 良かったよ。
「わたくしが、内々でお話しました所、是非にと……わたくしの想いも同じです。 クロエ様は、わたくし達の希望なのです…… 善き、友なのです」
マリーの言葉が、嬉しいね。 辺境で何となく頑張って、龍王国に混乱をもたらさない様に、姿を隠してたけど…… 心配はしてたんだよ…… みんなが元気だったかどうか……
そっか……良かった
「黒龍大公閣下が、尽力をされまして……」
エルが震える声で、そう言って来た。
「マリー様の戴冠式は、来年の【 降龍祭 】に、執り行うと……」
えっ?マジ? よく、体制が整ったよね、そんな短期間で……
「クーベル白龍大公翁閣下が、外務寮長官に返り咲いたんだ……もう、心配はないよ」
アスカーナ・・相変わらず、良くモノを見る目を持ってるね。
「だからぁ、もうぅ、身を隠すぅ、必要はぁ 無くなるんだよぉ クロエぇ」
ビジュリー……なんか、痩せた? そうだね……確かにね……でもさ、私がクロエで居る限り、何かしらの馬鹿な考えを持つ奴等が出て来るよ…… 私は……辺境の薬師、クー ダメかな?
「ねぇ、みんな……聞いてくれないかな…… あのね、とっても嬉しいよ、そんなに思ってくれている事は。 マリーが女王陛下になって、龍王国の体制も整うんだ…… でもね、最初はやっぱり、反感持つ奴等が一杯出るよ。 マリーの施政に文句言う奴もね。 いくら、四大公家が後ろ盾に成るって言ってもさぁ…… そこに、私と、フランク……いえ、フランツ ” 元 ” 第一王太子殿下が姿を現したら……どうなると思う?」
泣きながら、みんな、沈黙してた。 みんな、それぞれ、よく勉強してるから、感情の爆発を抑える術も、見つけてるから……遠くにある、幸せを引き寄せる術も、道も見えるから……
判るよね。
「私は、辺境の薬師 クー …… 相方は、” スカーフェイス ”のフランク…… それなら……いいよ」
そういう事に、しといてくれたらね。 後は時が経てば、韜晦できるよ。礎が置かれる時には、傍らから見てるから。 天龍様の代理としてね。
みんな、言葉を失ってるけど…… マリー、貴女なら、判るでしょ。
「戴冠式…… 絶対に来てください。 多分、かなり早くに、お知らせが入ると思います」
「えっ?」
「準備も御座います。 クロエ様の御意思…… 痛い程、理解できます。 でも、この、マリーの我儘は聞いて下さい。」
真剣に見つめられると…… 迫力あるね。 流石は、覚悟を決めた人だ。 ……判ったよ。 約束するよ。 周りを、豪華な令嬢様達に囲まれて、苦笑いを頬に浮かべた私の視線は……フランクに向いていたよ。 で、彼も、少し目を瞑ったあと、頷いてくれた。
「何事にも、名聞は必要だな」
フランクの言葉に同意したよ。 わかった、承諾したよ。 マリーの戴冠式には、必ず出席するから。
別れがたかったけど……ね。 【 降臨の間 】に来る前に居た場所に扉を繋いでもらったよ。 また、来年ねって言いながらね。 みんな、泣いてたよ。 ゴメンね……でも、戴冠式が終わったら……辺境の薬師 クーは、呼び出されたら、来るから。
大手を振って、城門から入るから……ね。
一年後か……
**********
辺境に戻って、また、フランクと一緒に旅を続けたの。
西の辺境から南下して、龍王国の国境沿いの村々を尋ね歩いたの。 まぁ、色んな所有ったよ…… 病が蔓延してる村とか、魔物の脅威にさらされている村とか…… そんでも、あんまりに辺境過ぎて、冒険者組合に、要望さえ出せない様な場所……
そんな所ばかりを、狙って歩いて、繋いで……ね。
忙しかったから、時間を忘れてた。
今は、南側の辺境…… ずっと見てみたかった、南アフィカン王国との国境付近。 そこはね、もう、アフィカン様式の村々が点在するのよ。 へぇ……こんな場所だったんだ…… 荒れ地が多くてね…… ため池とか、オアシスの周りに集落とか、村があるのよ。
国境沿いの街に来た時にね、なんか、豪華な乗り物が止まってたの…… 見た事有るよ、あれ……
「ほう…… ヴィヴィ妃殿下の乗り物だね、あれは」
フランクも、知ってたよ。 という事は……
「クロエ! 何用じゃ? こんな所に居て、良いのか?」
熱い大地の上を、素足で歩いてくる、ヴィヴィ様を、ちょっと、呆けて見てしまった。 陽炎が揺らぐ、熱い砂の上を、美の女神が寵愛している様な、そんな人が、ゆっくりと歩いてくるの…… にこやかな笑顔だねぇ…… 額の宝珠……真っ赤に燃えてるみたいだし…… もうね、女性としては、勝負にならないよね……なんか、凹んで来た……
「ヴィヴィ妃殿下! 失礼をいたしております!!」
「遊びに来る前は、先触れをよこせ…… わらわは、此れより、龍王国の、新国主の戴冠式に出席するために出ねばならんのに! あぁ、我が愛しの君も居られるぞ?」
「陛下もですか……。 まだ、そちらには、お邪魔致しません。 辺境を周り、困っている方々の力添えをしております」
「知って居る。 天龍様が、我が親なる焔龍様にお話された。 ” アフィカンの地、その近くに行っても、アレらには、敵意は無い。 ゆらりと、旅をしておるだけだ ” とな。 わらわなど、おぬしに、二度も切り付けた……すまぬ」
「気にしておりませんわ。 最初は誤解、二度目は、ヴィヴィ妃殿下の御心の発露……でしょうか?」
「言うな! ……反省はしておる…… で、そちらの御仁は?」
「わたくしの伴侶に御座います」
「おお、それは!! 目出度いの! ん、そち……もしや……」
「ご内密に……ヴィヴィ妃殿下。 知れますと、厄介な事になります」
「……クロエが伴侶……そうか、それだけで良いと申したか!」
「はい♪」
なかなかに、喰えぬ御人だからね。 しっかりと、釘を刺しといた。 そうか…… もう、そんな季節になったんだ。 暑いはずだね。 もうすぐ精霊祭だしね…… 降龍祭までに、王都シンダイに到着するように、今から、出発するんだ…… 偶然って怖いよね。 まさか、此処で、ヴィヴィ様にお会いできるなんてね。
「わらわは行くぞ」
「旅の安全をお祈りいたします」
「いずれ、また、逢おうぞ!」
「はい、ご健勝で」
ヴィヴィ様が、乗り物に下がられて、北へ続く街道をズンズン進んでいったよ。 フランクと寄り添って、その後ろ姿を眺めながらね、思った。 ちょっと、早めに呼ばれるかもってね。 彼が云うのよ。
「伴侶……か。 良い響きだね」
「ええ、ずっと、自慢したかったのですもの」
まぁ、恥ずかしい言葉も、彼になら素直に言えるよ。
今朝ね、一緒に見た、夜明けの砂漠。 漆黒の夜空が、青く輝いて、地平線が、マルーンに染まるその風景…… 頭の中一杯に、ダランダールの 『新しき未来』 第四楽章が、響いてたのよ。 そん時、隣でその景色を一緒に見てたフランク……もうね、ぜってい、放さんからな!!
**********
やっぱり、マリーが言った通り、御呼出しは早かった。 【 精霊祭 】を、南の辺境の教会で過ごしていたらね、門の精霊様に、呼び出されたよ。 来いって。 マリー……戴冠式まで、まだ、一月あるよ? こんなに早く行って、どうすんのさ……
門の精霊様も、呆れてたよ。
でも、精霊様使ってまでも、連絡を入れないといけないっていう事なんだろうね。 仕方ないよね。 行くか。 【 精霊祭 】をした町はね、南の辺境の砦のある街。 街の名前は、ワーヤマ。 砦に出向いて、門番の衛兵さんに、砦の隊長さんに面会を申し込んだのよ。 怪訝な顔してたけどね。
「軍務です!」
って、押し通したよ。 ほら、こんな辺境じゃぁ、「顔」、 知られてないしね。 そんでね、めっちゃいい事、小耳に挟んでたの。 ワーヤマの街でね。 ココの砦の隊長さん、以前は、レオポルト王弟様の軍勢に居たらしいのよ。 チラチラって、話が聞こえてたのよ。 教会とかでもね。 でね、第十三部隊の割符を見せたの。 めっちゃ驚かれてた。
「レオポルト様の密命にて、巡察しております。 暫く、逗留致します故、軍馬の管理、お願いしたく!」
一発で通ったよ。
流石は、レオポルト様の割符…… 現仮王様直属だもんね。 クリーク達は、此れで、暫く、丁重に接遇されるわよね。 頼みましたよ! 大事な家族なんだから!!
で、私達は、宿屋に行ってね。 朝早く出て、夜遅く帰るから、ご飯は要らない。 部屋の片付けも要らないって言って、二月分の宿賃を先渡ししたのよ。 宿の御主人、めっちゃ喜んでたよ。 早速、部屋に入って、しっかりと施錠して……
門の精霊様を、呼び出したのよ。 そんで一路、【 降臨の間 】へね。
今回は、時期が近いからって、天龍様は御降臨されないの。 門の精霊様の一の扉の子に、そう聞いたわ。 でね、【 降臨の間 】で待ってたのが、マリーなのよ。
「お待ち申し上げておりました。 この度は、逃がしませんよ」
「なんか……強くなったね」
「あの方達の間に居れば、そうなります。 ……クロエ様は、お小さい時から…… でも、私も目覚めました。 覚悟も決めました。 龍王国の民を護ると」
マリーの目に覚悟が宿ってるよ…… そうね、王妃じゃなくて、女王になるんだもんね。 その細い肩に、龍王国の全てが掛かるんだもんね…… 凄い事だよね。 私も、精一杯、お手伝いするよ。 うん、必ずね。
マリーは、私に、覚悟を見せてから、手を取ってね、王城ドラゴンズリーチ、【 謁見の間 】に、連れ込んだのよ…… フランクも一緒に。 さっさと 【 謁見の間 】 の後ろの扉を通り抜けて、王族の私室へ向かったの。 私ね、此処初めてなのよ。 知らない場所なのよ。 フランクは……知ってるのね……当たり前か……
そんでね、旧第一王太子の間に連れ込まれたんだよ…… そう、フランツ殿下のお部屋にね。 懐かしそうに、フランク見てたよ。 私は……驚きの連続だった。 だってね、お部屋に放り込まれるようにして、入ったら、そこに、人影が沢山あったのよ……
「さぁ! ドレスの用意をしましょう。 いいですね、クロエ。 フランツも宜しいですね」
その沢山の人影の一番前に、エリカーナ奥様がいらしたのよ…… ニッコニコの笑顔でね。 ワクワクしてんの、まるわかりだよ? そんで、その後ろ、ギリーガのおっちゃんと、その手下…… あぁ…… なんか、クラクラして来たよ……
奥様の無茶振り…… 始まったよ……
「奥様……お久しぶりです」
「ええ、クロエ、久しいです。 お話は後、今は時間がありません。 みな、採寸からです!」
奥様が、ギリーガのおっちゃんに、指示を出すのよ。 御針子さん達が、手に計り糸をもって、にじり寄って来るの…… はぁ……せ、せめて……水浴びさせてほしいなぁ……
「あ、あの、これは?」
「娘の結婚の衣装を用意するのは、当たり前の事です。 フランツを伴侶と呼びましたね」
ヴィヴィ様……言っちゃったんだ。 釘……砂に刺したか……アルか? あぁ、あっちは、釘さしてないや…… あぁ…… あぁ…………
「はい…… そうですが」
「ならば、精霊様に宣誓をせねば、なりません」
「はい……」
「よもや、その姿のままで良いと、思ってはいませんか?」
「い、いえ、その……」
「シュバルツハント黒龍大公家の面目に関わります。 いくら、クロエが、シュバルツハントの名は要らぬと云えど、わたくしは、認めません。 ええ、認めませんとも! 貴女は、わたくしの可愛い娘。 その用意をするのが、わたくしの務め。 受けるのがクロエの務めです。 辺境の暮らしで、忘れてしまいましたか? 貴女が、私の愛しい娘で有るという事を!」
うわぁ……ご挨拶も満足にさせて貰えないよ……
どうしよう……
なんも、言えねぇ……
奥様の目が……
怖い……
なんか
得物を前にした
猛獣みたいだよ……
結婚式の衣装かぁ……
結婚式かぁ……
そっかぁ……
フランク
私
そんなの無くっても……
幸せだよ
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中の人、感謝感謝感謝の極みです。
―――――
もう、何も言う事は、御座いません。
もう暫く・・・暫く・・・お付き合いして頂ければ・・・
幸いです。




