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ヌーヴォー・アヴェニール   作者: 龍槍 椀
ヌーヴォー・アヴェニール 本編 物語の始まり
1/111

クロエ 奮闘する

本編 始まります。


クロエの旅が始まりました。



 


「すまぬ、クロエ、此処で待っていてくれ。 パウエル様の具合が良くないのだ」





 そう言って、偉そうな おじさんが、私を大きな部屋に残して、去って行った。 ほんとにデカくて綺麗な部屋。 うちの家がこの部屋の中に何件も建つぞ? ホントに。






 *************






 故郷のロブソン開拓村を後にして、二週間。 ゴトゴトくっそ遅い馬車に揺られて、やってきました、ここ ハンダイ龍王国、王都シンダイ。 めっちゃ人がいる。 うん、初めてこんなに人を見た。 馬車の窓から見てるだけでも、クラクラする位に、人がいた。


 お爺ちゃん達とおっちゃんの三人が、代わる代わる、馬車の中で、割と色んな事をしゃべってくれてた。 一番のお爺ちゃんの名前が〈パウエル〉、もう一人のお爺ちゃんの名前が〈アレクサス〉、おっちゃんの名前が〈ウラミル〉って云うんだって。 みんな家族なんだって。


 親子三代して、なんでロブソン開拓村なんかに来たのか、今ひとつ、”ピン”とは来なかったけど、エミール=バルデス伯爵様 (あっこの人、父様のお友達で、領主様)とか、エミリオ村長とかがめっちゃ頭を下げていたから、きっと偉い人なんだろうなとは思ってた。


 でだ、なんか私を探し……違う、うちの爺様、探してたって言ってた。うん、そのパウエルお爺ちゃんがね。 やっと見つかったって、泣いてた。 死んでから見つかるってな、そりゃ泣くよね。 なんでも、爺様は、そのパウエルお爺ちゃんの息子で、アレクサスお爺ちゃんの兄弟なんだって。 フーン、そうなんだ。 そんで、父様も……この人達の家族なんだってっさ。 父様の父様がアレクサスお爺ちゃんで、ウラミルおじちゃんの兄弟…… 


 わけわからん。 つまり、父様と母様はいとこ同士だって事? ……まぁ、そんな話は開拓村の中じゃありふれてるけどねぇ……突然、我が家の血縁者がむっちゃ増えて、よくわからなかったよ。 で、一緒に王都に来いとか言われてねぇ…… 嫌だよ。 私は、爺様、婆様、父様、母様の傍を離れたくなかったよ。 小さい家の中で、デカい男の人がみんな、”行け”だの ”来い”だの……私の意思は無視ですか……


 でも、パウエルお爺ちゃんがあんまり泣くんで、仕方なく、渋々、嫌々、頷いたよ。 エミール様に、後の事くれぐれも《お願い》したし、此処にいつ帰って来てもいいように、しといてくれるってんで、王都シンダイに行く気になった。 うん、ほんとに嫌々だった。


 でだ、王都に着くとまず目に付く、デカい、本当にデカい建物。 王城ドラゴンズリーチ。 高い尖塔とか城壁とか。 真っ白な壁に、青い屋根。 こりゃ、凄い。 よく見とこ! 放り出されて、ロブソン開拓村に帰ったら、自慢しなきゃね。 うん、ほんとにデカい。 まぁ、なんと、そんな王城に馬車は向かっている。 北門?がどうとか言ってたね。


 これまた、無茶苦茶デカい門から、王城の城壁の内側に入った処で馬車は止まった。 バラバラと人が大勢集まって、出迎え?みたいな事をしていたら、一番年寄りのお爺ちゃんが倒れた。 長旅で疲れてたんだろうねぇ……出迎えてた人達が、滅茶苦茶慌ててた。


 みんなして、その門にくっ付いてるデカい建物に入っていく。 私もついて来いって云われて、大きな背嚢を背負ったまま、付いてった。 なんかぐるぐる回って、大きな部屋に通されて、アレクサスお爺ちゃんに此処で待てって言われた。 ほうほう、無理矢理連れて来て、ほったらかしですか。 まぁいいや、って思って、中に入ると、一人の兄ちゃんが立ってた。




「何用ですか?」




 口調は柔らかいけど、目がめっちゃ怒っとるな。 そうか、この綺麗な部屋で、小汚い私がいる事が気に入らないんだ。 判ってるよ。 まだ背嚢背負ったままだし、二週間馬車に揺られてたし、小汚いのは、間違いないもんね。 うん、でもなぁ……




「こちらで、待ちなさいと、アレクサス様から……」


 全部言う前に、そいつが口を開いた。


「何が出来ますか? 料理? 掃除? 洗濯? まだ、小さいから、部屋付きにはなれませんよ?」




 ん? なんか様子が変? 言葉が出んよ……まったく。




「私は、ウラミル閣下の執事補佐のヴェルと言う。 覚えておくように。 ……そうだな、掃除婦頭クリーナーのテオが、人を欲しがってたな……」




 小さなメモ書きに、なんか、書いて私に渡した。




「部屋を出て、右に曲がって階段を下りて、最下層のフロアに”テオ”という者がいるから、それと話しなさい。 ほら、さっさと行く!」




 このヴェルっていう奴、完全に私の事をメイドの仕事を貰えた田舎者と思っているなぁ……まぁこの格好じゃねぇ。 ここで、反論しても、時間の無駄だ。 頭を下げて、部屋を出た。 言われるまま、そのテオって人に逢いに行った。 うん、爺様から、結構”使える特技”を教えてもらってて良かった。 迷うことなく、テオって人に逢えた。




「すみません、テオ様はこちらにいらっしゃいますか?」




 なんか、色んな人が”たむろ”してる処で、大声を張り上げて聞いてみた。 デカい太ったおばさんが出て来た。




「なんの用だい? お嬢ちゃん」




 ん? 結構いい人っぽい。 めっちゃ笑顔だよ。 




「はい、ヴェル様から、此方へ来るようにと言いつかりました。 あと、この紙を……」




 さっき渡された紙をテオって人に見せた。 なんか困ってる。 ん、この顔は困ってる顔だねっ!




「増員は……頼んだけどさぁ……男の人をお願いしたんだよねぇ……力仕事あるからねぇ……どうしようかぁ……」




 うん、放り出してくれた方がいいね。 あっ、爺様の剣と婆様の珠返してもらわないと! 畜生! あいつらあれが目当てか! ……なんか、近寄れそうも無いしなぁ……どうしよう? これは、困ったぞ? 様子を見て、取り返さないと…… おばちゃんと目が合った。




「あんた、掃除と洗濯出来る? 汚い男所帯での仕事なんだけどねぇ…… みんな続かなくて、お願いされてたんだよ」


「ええ、まぁ。 開拓村では ”何でも”しなくちゃ生活出来ませんでしたから」


「あんた、開拓村出身かい! そりゃいい。 王都出身だったら、あんな所じゃ働きたくないって泣き言いう奴ばっかりだけど、開拓村出身だったら、大差ないね! んじゃ、ちょっと待って」




 ヴェルと同じように、なんか書いてた。 また、回されるな、こりゃ。




「これ持って、あそこの扉から外に出て、真っ直ぐ南東へいくだよ。 そしたら、此処と同じような建物がある。 近くを通っている騎士様に、練兵所のアリって人の処に連れてってもらいな。 きっと、良いようにしてくれるから」




 仕方ねぇ……このままじゃ、らち明かねぇし、きっとウロウロしてても、良くなる事は無いね。 そんじゃ、行きますか。 もし、そこで働けて、お金がもらえたら、暫くそこで働いて、お金貯めて、ロブソン開拓村に帰ろう。 なんか、おっさん共の言う事聞いて、疲れただけだった。 剣も珠も取り上げられたし…踏んだり蹴ったりだ!


 で、現状打破の方策を授けてくれた、テオさんにお礼を言って、頭を下げて、屋敷を出た。 おばちゃん、”頑張るんだよ” って滅茶苦茶いい笑顔で送り出してくれた。 うん、頑張りますよ。 ロブソン開拓村に帰れるようにね。 


 いい天気! 抜ける様な青空に、白い雲。 高い所を大鷹が飛んでる。風もあったかいし、空気も結構澄んでる。 散歩には持って来いだ。 テクテク歩いて、言われてた建物に近づく。 ん? なんか、デカくない? あれ? 歩いても、歩いても、なかなか着かんぞ? ……見通しがいいから、距離感が掴みづらいんだ。 結構あるぞ? おばちゃん……遠いよ。




     やっと、着いた。 ほんと、やっと。 




 なんか、格好いい”おっさん共”が。遊んどるな。 ガチャガチャ云わせて剣を振るってる。 爺様に怒られるぞ? あんな、太刀筋。 防御魔法も展開してないし……なんだこいつら? なんか、木陰で休んでるおっさんが居るから、さっき貰った紙を渡して、アリって人の事、聞いてみよ!




「あの、すみません。 あっちの御屋敷のテオ様から、此方の御屋敷のアリ様にお渡しするようにと、預かりました」




 そう言って、父様が ”昔、着てたんだ!”って言ってたチェニックと同じモノを着た人に、テオおばちゃんから渡された紙を見せた。 その人は一読すると、”うん”って頷いて、紙を返してくれた。 いい人だ。




「あそこに見える建物に、アリは居る。 行ってやってくれ」


「はい、有難うございます」




 丁寧に頭を下げて、その場を後にした。 そうそう、父様に教えてもらった、「騎士の挨拶」ってやつだよ。 なんか、おっさん、目を丸くしてたなぁ…… まぁいいか。 云われたままの建物に向かって、歩く。 テクテクテク……・ また、結構あるなぁ……


 ようやく着いた。 戸口に立って、大声で問い合わせ。 いつも通り。




「すみません。 アリ様は、いらっしゃるでしようか?」


「おう!」




 で、デカい。 巨漢。 オークかお前。 でも、肌は褐色だぞ? ……あぁ南アフィカン王国の人か……




「あっちの建物のテオ様から、これを預かってきました」


「うん」




 アリに手紙を渡した。 一読するアリ。




「出来んのか? お前」




 ぶっきら棒だな! よし、お近づきの印に、おっさんの国の言葉で言ってやるよ。




 ⦅アリ様、辺境の暮らしは、”何でも”しなくてはなりません。 年は関係ないのですよ⦆


 ⦅おまえ、……アフィカン語出来るのか? それに何で、俺がアフィカン人だって……⦆


 ⦅巨躯と褐色の肌、強くカールした御髪。 アフィカンの民の特徴でしょう? いけませんでしたか⦆


 ⦅い、いや……そうだな。 うん、なんか嬉しいな。 母なる言葉を聞いたのは。 判った。 ここで働け。 大した設備は無いが、無いものは無い。 それに、此処には、使用人は俺しかいないから、ちょっと大変だった⦆


 ⦅お手伝いします。 それで、私は……⦆


 ⦅ああ、 あの中二階の部屋を使ってくれ⦆


 ⦅ありがとう、御座います。 準備が出来次第、降りて来ますから、お仕事の手順なんかを、教えてください⦆


 ⦅ああ。 待ってる⦆




 よあっしゃぁ!、やっぱ、第一印象は大切だ! 爺様ありがとう! おかげでクロエは寝床を手に入れましたよ! 中二階の部屋は小さくて、小汚い寝床ではあったけどなっ! うん、無いよりまし。 いずれ、綺麗にするから。 旅装を解いて、背嚢を下ろして、水玉を魔法で出して。 顔を洗って、身嗜みを整えてっと! よし、仕事すっか!





 *************






 アリは優しい巨人だった。 うん。 懇切丁寧に仕事の手順を教えてくれた。 そりゃ、こんだけの仕事量を一人で回すのは無理だ。 出来る所から、手を出していくよ。 うん。 父様から、色んな魔法を習ってるから、それ使ったらかなり早く出来るしね。 アリは力はあるけど、魔法は使えないみたいだし。 水玉出して、洗濯してたら、びっくりしてたし、 風と火の魔法で温風を作って、洗濯物乾かしたら、腰抜かしてた。 そんな反応見てて笑ったよ。 開拓村じゃ、普通の事なのにね。


 一日、一杯働いたら、夕ご飯美味しいねぇ…… アリが騎士の食堂から、”かっぱらって来た”って言ってた。へぇ、そうなんだ。 何時もは、どうしてんの?って聞いたら、此処で作って食べてたって。 そんで、台所に行ってみた。 汚いを通り越してた…… 


 母様が見たら、……鉄拳の制裁だね。 うん。 ご飯を食べ終わってから、台所を片付けた。 綺麗に清潔に! 母様の信念だった。 かつて、鍋と云われていたもの……なんか、虫さんの棲家になってるね。 かつて、流しと呼ばれていた場所……うず高く食器が放り投げられて……今にも崩れるな。 


 自分の知ってる魔法を総動員して、お掃除、お掃除、お掃除。 結局、夜中までかかったよ。 ダメになった食材も土に返したし…… 明日から、優しい巨人の食事も私の当番になるんだろうなぁ……まぁいいか。 疲れたから寝る!


 私の朝は早い。 うんと早い。 爺様と婆様に仕込まれた。 お日様の出る前から起きた。 習慣って怖いね。 そうなったら、もう、眠くない。 何時ものように、爺様がくれた棒を持ち出して、昨日おっさん共が遊んでた所に行った。 着てるのは、村で着てた作業着。 アリが言ってた。 お仕着せは、もうちょっと大きくならないと貰えないらしい。 それまでは、自前の服なんだと。


 何をするのかってぇと。 型の鍛錬。 爺様が七十二通りの型を教えてくれた。 早く振るんじゃなくて、ゆっくりと正確に揺れない様に。 一年続けた。 これを教えてもらってから、魔物退治も楽になった。家の近所に出て来るような小型の魔物だったら、一撃でいけた。 もちろん、爺様の剣でだけど……くそっ! あれ……返してくんないかなぁ……


 日の出前に七十二通りをさらっとおさらいする。 うん、今日もいい出来。 爺様! クロエは頑張りますよ。 十二歳に成ったら、”オウギ”とか云うものを教えてもらう筈だったんだけどなぁ……なんで、死んじゃったんだ! 次は、朝日が出てからだねっ 婆様から教えてもらってる、鍛錬。 大きく息を吸って、太陽さんの力を取り入れて、ゆっくりと吐き出す。 吐き出すときには、体の中の悪い物をイメージして息と一緒に吐き出すんだって。


 ゆっくり大きく。 吸って、吐いて。頭の中が透き通るまでする。




          それで、終了。




 よし、朝ごはんの用意だ! ダメになってない食材もかなりあったし、お肉も御野菜もパンもあった。 頑張っちゃうぞ!




状況がクロエを追い詰めますが、気にせず、元気に悪態をつきながら、生きて行きます。

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