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留守番したら異世界でした。  作者: 上城樹
第一章 異世界と私
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5.夢と現実はたまに混じる。

 人生行路難じんせいこうろかたし。一寸先いっすんさきやみ

 ほんと人生って何が起こるか分からなくて難しい。


 敷地外は住宅地からジャングルに、我が家の小さな庭は季節感ゼロ畑へ進化した。

 ここはファンタジー世界ですか。

 ついでに今現在の私のおかれている状況も意味が分からない。


 今ですか? 空飛んでます。正式に言うと空中で振り回されてます。地面が恋しいです。 


 上下前後左右、重力に逆らう自由自在な動き。バンジージャンプなんて目じゃありません。遊園地のアトラクションとし売り出したらいいと思う。

 巨大植物(以前図鑑でみたウツボカブラに似てる)の蔦にぐるぐる巻きされてブンブン振り回される斬新なアトラクションとして。


「あらあら、さっちゃん楽しそうね」


 真っ赤に熟れたトマトを収穫しながら振り回される私を見て、母がおっとりと微笑んだ。


 ぜんぜん楽しくないので、見てないで助けて下さい。おかーさんや。


「あぁ、楽しそうだな母さん。ところで、ほら立派な玉ねぎが収穫できたよ」


 土の付いた玉ねぎを父は母に向かって誇らしげに掲げた。


 どこが楽しそうに見えるのか教えてほしいな、玉ねぎ収穫より優先することがあると思いませんかね。おとーさんや。


「まぁ、それなら今日のご飯は玉ねぎステーキに決まりね」


「母さんの玉ねぎステーキは絶品だから楽しみだな」


「いやだわ、焼いてソースかけただけよ」


「はっはっはっ」


「うふふふ」


 ギリギリと蔦が絞まる。腹部が圧迫されて、苦しい。

 ねぇ、二人とも視力大丈夫? 私の状態把握できてる?

 娘が苦しんでいるのに笑顔で会話とか。あんたら鬼か!


「ちょっ、たすっ」 


 助けを求める声も聞こえないらしく、2人は「うふふ」「あはは」微笑んでいる。 




 だーかーらぁーっ





「助けろっ! ……………って、あれ?」


 視界に入ったのは木々の生い茂る森ではなく、木目の天井。体を起こし腹部を締め付けるように巻きついているタオルケットを除け周囲を見回すと、そこは居間だった。机の上には食べかけのポテチと昨日夕食として食べた黒糖パン(残り2個)と放置された空の牛乳瓶。障子の向こうからは柔らかい日差しが差し込んでいる。


「あー夢落ち」


 目覚めは最悪。背中まで嫌な汗でぐっしょり濡れて気持ちが悪い。

 時計を見ると時刻は16時16分。


「…………いたい」


 無理な体制で寝ていたせいか体の節々が痛む。


「……………自転車に油ささねば」


 気怠い体を引きずり玄関を目指す。といっても、ふすま開けたらすぐ玄関なんだけどね。


「家の周囲ジャングルで、畑が季節感ゼロで、巨大植物の蔓ぐるぐる巻きで振り回されるって変な夢みたなぁ。まっ、異世界トリップなんて夢物語現実にある訳ないしね」


 どうせなら、甥っ子と一緒に小動物と戯れて遊ぶ夢にしてくれればよかったのに。

 スプレータイプの油を手に持ち、玄関の扉を開け、


「さて、さっさと油さしてゲームの続きや…………」


 急いで閉めた。


 見てないよ。美味しそうにつやつやした実が生ってる季節感ゼロの畑とか、木が沢山生えたジャングルっぽい景色とか……ないない。見てないったら。見てないよ。


 大きく深呼吸をし、再度そーっと扉を開いて外を窺がう。


 うん、季節感ゼロ畑とジャングルしか見えないね。


 非常に認めたくない景色である。

 念のため頬を跡が残るぐらい思いっ切り抓って見た。とてつもなく痛かった。少し涙もでた。


「マジデスカ」


 なんてこった。幻覚でも夢でもなく現実だったよ。

 本気で異世界トリップだったよ。……東京行けばよかったなぁ。

お読みくださりありがとうございます。

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