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留守番したら異世界でした。  作者: 上城樹
第二章 リガルの砦と私
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46.一匹いたら百匹いると思え。

「サキ嬢、サキ嬢」


 ゆらゆらと肩を揺らされながら優しく名前を呼ばれ、しぶしぶ鉛のように重たい瞼を開く。

 すると口元を緩め微笑ましそうな眼差しで私を見詰める老紳士が目の前に。


「おはようございますサキ嬢」

「……お、はよう、ございます」


 寝ぼけた頭で、何とか返事を返す。


「お、起きたな寝坊助。ぼけっとしてると椅子から転げ落ちるぞ」


 声がした方へ視線を向けると、立ったまま口の端を吊り上げニヤリと意地悪く笑うフォルスと膝を折り視線を合わせ申し訳なさそうに眉が下がったアルベルトがいた。


「こら失礼ですよフォルス、慣れない環境での生活で疲れていたところにあの襲撃、眠たくなるのも道理でしょう。すみませんサキ配慮がたりませんでしたね。もっとはやく――」


 フォルスを嗜めたアルベルトがそのまま何か喋っているようだが、思考がはっきりしないため言葉は理解されず音として右から左へ流れていく。 


 意識しっかりするまで話すの待ってくれるとありがたいです。


「アルあんま口うるさいと嫌われるぞ」

「なっ」

「実体験に基づいた話だぞ。この間ガゼルが「パパ、うるさい、きらい」って娘に言われたらしくてな号泣してたからヤケ酒に付き合ったんだが、原因は熱出した時に心配で過剰に構いすぎたことだったそうだ。おまえも気を付けないとそのうち「アルベルト、うるさい嫌い」って言われて号泣することに――」

「なるかっ。だいたい俺はサキの親じゃない。おかしな妄想は脳内に止めろ」

「ほーほー、そーかそーか。ぷぷっ、めっちゃ動揺してんじゃん口調くずれてんぞ――って、いででっ、よせ、やめろ俺が悪かった!」


 フォルスがアルベルトに耳を引きちぎる勢いで引っ張られ悲鳴を上げている。

 成人男性が何をしているのやら。

 それにしても、アルベルトはちょいちょい口調が乱れると思っていたが、なるほど動揺してたのね。


 じゃれている二人から視線を外し、元にもどすと真正面に微笑むロウゼルさん。貴方ずっと跪いてた状態で待機してたんですか、足痺れるでしょうに。


 数十センチしか離れていないところにロウゼルさんの顔が……近い。

 せっかくなので眺めてみる。

 深い皺が刻まれているが端整な顔、均整のとれた体、騎士で、優しく、気が利く老紳士……ロウゼルさん若いころイケメンで絶対モテモテだよ。

 ご婦人をきゃあきゃあ言わせて取り合いされてそう。

 そして、めくるめく昼ドラ的展開が――――。


「サキ嬢?」

「はいっ」


 少々脳内妄想で意識を飛んでいた私に「大丈夫ですか」と優しく声をかけてくれたのでコクコクと頷く。


 ロウゼルさん本人が目の前に居るというのに、なんたる失態。

 でも、寝起きって通常の2割増しで想像力豊かになるから仕方ないよね。

 え、そんなことない? あれ、私だけ? そんな、まさか。


 ……とりあえず寝起き想像力2割り増し現象の有無は横においておいて、状況把握してみよう。

 

 まず、シャワーを浴び寝ようとしたところを黒い靄に襲われて、その後アルベルトに助けてもらったが部屋をはか――ちょっと寝泊りするには不便な感じに荒れて、窓と扉の無いものすごく風通しがいい部屋になったから、風邪をひく前にアルベルトの部屋に移動したと。

 そこで、ロウゼルさんが淹れてくれたハーブティーを飲みながら今後の話をしてアルベルトに寝るの我慢してって言われて……。


 途中から記憶がぼんやりし、最後は暗転。

 うん、我慢できずに寝たね。

 頑張っても私の力では睡魔には勝てないことが証明された。

 残念。

 そしてロウゼルさんに起こされて今にいたると。


 …………。

 皆様が頑張って襲撃犯探や砦の警備強化をして、ロウゼルさんが旅の手配をしてくれているときに一人座ったままぐっすりと寝ていたとは、我ながら素晴らしく図太神経だ。


 さすがに良心が罪悪感を訴えてきたので、一人ぐーすか寝ていたことを謝罪する私に対し「お気になさらず。さて、話を早く終わらせて寝るとしましょう。夜更かしは美容と健康の敵ですからな」とウィンクしながらロウゼルさんが言った。

 おちゃめな老紳士である。







「んじゃ、お嬢ちゃん。今日、俺とアルどっちと一緒に寝るか選んでいいぞ」


 話し合いが終わり、やっと休めると思ったら、髪の毛が芸術的に乱れたフォルスが自身とアルベルトを交互に指差しちょっと理解しがたい言葉を言い放った。



 俺とアルどっちと一緒に寝るか選んでいいぞ


 一緒に寝るか選んでいいぞ。


 選んでいいぞ。



 頭の中で繰り返し反響するフォルスの言葉。


 ――――うん。ちょっと待て、一度冷静になろう。


 大きく息を吸い込みゆっくり息を吐く動作を数回繰り返す。


 よし、だいぶ落ち着いた。

 馬鹿なことを言っているフォルスに絶対零度の眼差しをプレゼント。


「いやっ、違うから、そういう意味じゃなくてだなっ。あー、ちゃんと説明するから、その冷たい目やめよう、な? 心に突き刺さって痛いから」


 ほほう、そういう意味ってどういう意味ですかね。


 無言で睨みつけると、ポスポスと私の頭を撫でフォルスは苦笑した。


「襲撃犯まだ捕まえてないし危険だから俺かアルベルトどちらか一人を護衛として選んで一緒の部屋で休むって意味だよ。ほんと変な意味じゃなく、お嬢ちゃんの安全のためだからな。昔から一人チャイズ人の曲者がいたら周辺にもう十人いると思え。コリーヤ人も(以下同文)と言われているぐらい厄介なんだ」


 フォルスの説明で、何処からともなく現れ台所に出没しようものなら世の奥様方が殺気立ち、子供が悲鳴を上げ、家に一匹いたら百匹いると思えの、ほぼ全人類から嫌われていると思われる黒光りするヤツを想像してしまった。

 うぇ、気持ちわるっ。


「奴らは何処に潜んでいるかわかりませんし、不便だとは思いますがサキの安全確保のためです。しばらくはお風呂とトイレ以外は絶対に一人で行動しないでくださいね」

 

 ますますヤツを想像してしまう。家にあるゴ○ジェット襲撃犯にむかって噴射したら撃退できたりしないかな。


「で、どちらにしますか」


 さりげなくフォルスの体を押しのけ私の視界を占領するアルベルト。


 なにこの強制イベント。

 知り合って数週間の成人した男女が同じ部屋で寝るとかダメでしょう。

 護衛なら女性の騎士様……なんて存在しなかった。この砦在籍しているのは全員男性だった。

 よく知らない人と同じ部屋で休むよりはマシだが、男性免疫の少ない私にはハードルが高い。

 そもそも二択って、選択し少ないよ。


 視線がアルベルトとフォルスの間でゆらゆら彷徨う。


「まっ、どっちでもいいから早く選んでくれよ。俺も眠くなってきたわ」

「新しい部屋の手配は済んでますから、すぐに休めますよ」


 大あくびをしながらフォルスが結論を出せと急かし、アルベルトが期待に満ちた眼差しを私にむける。


 異性と同じ部屋で二人ってだけで精神が休まらないんですがね。

 あぁ、もう、頭痛い。

お読みくださりありがとうございます。

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