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留守番したら異世界でした。  作者: 上城樹
第二章 リガルの砦と私
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44.笑えない冗談。

 

 ハーブティーをちびちび飲みながら、目の前で繰り広げられる光景をのんびり眺める。



「以前どこぞの令嬢と勝手に婚約させられそうになったことがあるのです。もちろんすぐに御断りしたのですが、納得できない私よりふさわしい女などいないなどと、行く先々で現れ許可なく体にベタベタと触れられ挙句私物を盗まれたこともあるんですよ。国王からの紹介でしたから無下に扱えませんでしたが、なんどグレッグ峡谷に突き落としてやろうと考えたことか……。香水クサイし煩いしあのような女と婚約などおぞましい」


 若干青ざめた顔で項垂れるアルベルト。


 あ、腕すごい鳥肌たってる。かなり精神にダメージをくらっていたようだ。

 なるほど、待ち伏せ、逆セクハラ、盗難と……もう、ストーカー被害で訴えていいんじゃないかなそれ。


 ちなみにグレッグ峡谷というのはローレリア帝国内で最大の深さを誇る峡谷なそうだ。

 落ちたらぐしゃっで一瞬でお陀仏だね。


「あー、アルはその令嬢から逃げるためにリガルの砦勤務希望したんだもんな」

「もう三年たちますしあの女が新しい 出会い(えもの) を見つけていることを願いますよ」

「まぁ、行き遅れてなければ結婚してるだろうし大丈夫だろ」


 神妙な顔で頷き合うフォルスとアルベルト。


 あれ、ねぇ、結婚してなかったら大丈夫じゃないってことじゃ……。


「俺は、武術大会の決勝戦で負けたふりしてくれって頼まれたことあってよ。あ、もちろん大会は優勝したぜ命令じゃなかったから従う理由ねーし。でも腹は立ったから、いつか仕返ししてやりたかったんだ師匠がなんかやんならちょうどいい」


 爽やかな笑顔だけど目が笑ってないフォルス。

 負けたふりをしてくれ、のお願いはよほど彼のプライド傷つけたらしい。


 てか、それ八百長のご依頼じゃ……王様がそんなことしちゃいかんでしょう。


「おや、武術大会の件は初耳ですね。フォルス後で詳しく教えなさい。どうせ根の腐った貴族にでも言いくるめられただけだとおもうが……国王ともあろう者が情けない。ふむ、もう一度〝冥府の森〟にでもほうりこむか、陛下が少年の頃は一週間で音を上げて帰ってこられたが、今回は三ヶ月ぐらい帰ってこれなさそうな奥地においてこよう。そうすれば少しは精神が鍛えられ貴族に気おくれすることもなくなるだろうて」


 顎下を撫でながらが王様にとってはものすごく迷惑な計画をロウゼルさんが立て始めた。


 後にアルベルトに説明されたが〝冥府の森〟とは危険生物がわんさかいらっしゃる脳筋バトル大好き人間にとっては聖地のような場所だそうだ。


 ロウゼルさん。それ、王様のトラウマになってると思う。

 いたいけな少年の心にガッツリ巨大な傷つけてると思う。


「お待ちくださいロウゼル殿。それでは公務が滞ります」

「殿下が優秀ですから三ヶ月ならギリギリ大丈夫です」

「じゃ、王都についたらまず――――」


 なんか、本気で計画立て始めたよ。

 逃げて、逃げて王様。生命の危機が迫ってるぞ。


 シリアスな話が始まるかと思ったら、全然違った。

 関係の無いことでもりあがりはじめたよ、この人たち。

 いつのまにやら話題が国王に対する愚痴になったかと思えば、王様再鍛錬計画練りはじめるし。

 ローレリア帝国上層部が心配になってきたぞ。

 この国に保護求めて本当に大丈夫か、いやでもいっくんはローレリア帝国に迷い人に優しい国って言ってたし――――とりあえず様子見で。

 


 ……おかしいな私を狙った襲撃について話していたはずなんだけど。

 どうしてこうなった。


 酷い脱力感におそわれ、行儀が悪いと思いつつ机にもたれかかり両手でほおづえをつく。すると、フォルスが唇の端を上げニヤリと笑い、勢いよく床を蹴り上げ立ち上がり大股で近づいてくる。


「おっし、お嬢ちゃんの緊張もほぐれたことだし。冗談話は終了すっか」 

「あぐっ」


 ぼふっと頭に勢いよく手をのせられ首が少々おかしな方向へ曲がり変な声がでた。

 痛い、首が折れる。


「おぉ、いい具合に力抜けたな」


 満足げに、うんうんと頷くフォルスに乱暴に頭をかきまぜられる。


 もう少し手加減してくれるとありがたい。力強すぎ、頭捥げそうだ。


「……って、今の話冗談だったんですか」


 そっか、そうだよね。令嬢がストーカーだとか、王様が八百長依頼とか、若いとき危険生物の宝庫にほうりこまれたとか、三ヶ月いなくても公務支障ない、なんてそんなことあるはずが――


「おう、冗談だぞ。一割だけな」

「多少面白おかしく脚色して話しましたが、九割事実ですよ」


 にこやかに告げるフォルスとアルベルト。


 九割ってほぼ事実じゃないですか。

 本気で大丈夫かこの国。


 アルベルトに胡乱げな視線を向けると、満面の笑みで人差し指を唇に当て軽やかなウィンクを返された。


 いやいや、笑えないからね。 

お読みくださりありがとうございます。

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