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留守番したら異世界でした。  作者: 上城樹
第二章 リガルの砦と私
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43.素敵老紳士(?)

 子供抱っこ移動でアルベルトの部屋へ連れてこられ、木製の丸椅子に座り数分経過した頃、コンコンと扉をノックする音がした。

 アルベルトが「どうぞ」と返すと、勢いよく扉が開きロウゼルさんが速足で部屋の中へ入る。その後ろからのんびりとフォルスがティーセットの乗ったお盆を抱えて現れた。

 素早く視線を走らせ私の姿をその目に捉えたロウゼルさんは、ほっと肩の力を抜き大きく息を吐く。


「ご無事でなによりですサキ嬢。どこも痛いところはありませんか」

「はい、大丈夫です。ご心配おかけしました」

「いえ、貴女が無事ならばそれでよいのです」


 目の前で膝を折りゆっくりと頬に添えられたロウゼルさんの手は、皺だらけでゴツゴツしている。

 怪我がないかの確認のためだろうが、ペタペタと顔や体に触れられるとくすぐったい。


「おーい、師匠。まずは、お嬢ちゃんに熱々の茶淹れてやってくれよ」

「おぉ、そうでしたね」


 フォルスの言葉に頷き、最後に私の頭をポンとひと撫でしたロウゼルさんはお茶を淹れるために立ち上がる。


 なんと、ロウゼルさんフォルスの師匠だったのか、知らなかった。

 是非ロウゼルさんのダンディーな魅力と美味しいお茶の淹れ方を継承していただきたい。

 ……フォルスにダンディーは無理か。見た目完全に爽やかスポーツマンだし。


 アルベルトの部屋はそれなりに広かった。

 塵一つない綺麗な床、傷一つないチェスト、木製の丸椅子が四脚、長方形のテーブルを囲うように無造作におかれており、今はその椅子にフォルス、アルベルト、私が腰掛ている。

 さらに隣の部屋への――おそらく寝室へと続いているであろう――扉が一つ。

 ……隊長になると部屋も立派になるのだろうか。


 それにしても、なんとまぁ、ここまで生活感ゼロの部屋は初めて見た。

 いや、もしかしたら寝室は生活感あふれているのかもしれない。ゴミが山のように積みあがっている通称汚部屋といわれている部屋みたいかもしれない。


 当然のように私の隣に腰を下ろしてくつろいでいるアルベルトの顔を横目で観察してみる。


 すっきりとした顔立ち、陶磁器のように美しい白い肌、夜空に輝く星々のようにきらめく長く美しい銀髪、スラリと均衡のとれた肉体。


 ……あぁ、うん。この外見で汚部屋だったらイメージ崩れるから嫌だな。生活感ゼロでもいいから綺麗な部屋であってほしい。




「さぁ、どうぞ」

「ありがとうございますロウゼルさん」


 スッと目の前に差し出されたティーカップを受け取る。


 ティーカップの中で淡く綺麗な薄い黄色いお茶が揺れている。

 一口飲むと口内にほんのりとした甘酸っぱさが広がり、ふわりと匂う柑橘系の爽やかな香りが心を落ち着かせてくれた。


 これはハーブティーかな。

 以前ハーブティーにハマっていた友人が淹れてくれたオレンジピールティーに似ているが、それよりも甘味が強く飲みやすい。


 あー、落ち着くし、おいしい。

 この世界食べ物微妙な味なのに、ロウゼルさんが淹れてくれる飲み物は何故かすべておいしいんだよね。


 体の芯から温まり気が緩んだせいか出そうになるの涙をグッと堪え、無言でハーブティーを飲み干す。


「リラックス効果が得られるハーブティーです。口に合いましたかな」 

「はい、とてもおいしいです!」


 言葉に力を込めて、ハーブティーのお代わりを注いでくれるロウゼルさんに返事を返す。


 もう飲み物毎日これでお願いしたいぐらいに、おいしいですよ。

 

 仕事ができて、紳士的で優しく、ダンディーで、淹れてくれる飲み物はおいしく、年を取ってもなお衰えない精悍な顔立ち……結婚するならロウゼルさんみたいな人がいいなぁー。





「それではそろそろ本題に入りましょう」


 全員がハーブティーを飲み一息ついたところで、アルベルトが真剣な顔で切り出した。


「今回の襲撃についてだな」

「狙いはやはり」


 椅子を淵へ移動させ壁を背もたれ替わりしたフォルスとロウゼルさんの言葉に頷きアルベルトが口を開く。


「間違いなくサキ……というか迷い人でしょうね」


 ……やっぱり狙われてたの私ですか。


「チッ、どこから情報が漏れたんだ」

「団長が王都に向かってから三週間後の襲撃ですから、漏れたのはおそらく王都でしょう。王に〝迷い人〟の報告した時傍にいた者の中に内通者がいたと考えられますね。……やれやれ、あれだけ害虫は早めに駆除するよう忠告したというのに何をやっているのやらあのバカは」


 すいません展開が急すぎて付いていけないんですけど。

 ……というかロウゼルさん、王様のことバカって言いませんでした。

 気のせい、空耳? あの紳士ロウゼルさんがそんな言葉――


「さて、次に会った時あの馬鹿()をどう絞めてやりましょうかね」


 言ってた。

 なんか微笑みながら怖いこと言ってた。


「ロウゼル殿その……」


 意を決したような表情でロウゼルさんを見詰めるアルベルト。

 さすがに王様にバカはまずいですよね。不敬に――


「微力ながら私もお手伝いします」


 いや、お手伝いしちゃダメでしょう。

 こら、フォルス「じゃ、俺も」じゃない。そこは止めるところでしょうが。

お読みくださりありがとうございます。

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