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留守番したら異世界でした。  作者: 上城樹
第二章 リガルの砦と私
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35.異世界の料理とは…。

 

 楽しそうな笑い声、注文された料理を厨房へ伝える店員が張り上げる声、酔っ払いが喧嘩する怒鳴り声、様々な声が頭上を飛び交う。

 アルベルトとフォルスに晩御飯を食べに連れて来られたのはカッツェという賑やかな酒場だった。


 あ、ゴンザレスは奥さんが待つ家に帰りました。

 所帯持ちは上司との食事よりお嫁さんが優先されるようです。ラブラブで羨ましいかぎりだね。


「ははっ、酒場が珍しいか?」

「とっても」


 所々欠けた年代物の机に肘をつき樽の椅子に腰かけたフォルスの言葉に頷き、出かける前に「その服装は目立ちますから、こちらを」とアルベルトに着せられた爪先から頭まですっぽり覆う黒い外套のフードを下ろし、キョロキョロと周囲を見回す。


 木造建築の建物で、天井が吹き抜け構造で開放感にあふれている。他の席の料理を観察してみると、ほとんど肉料理とパンだった。


 もっと野菜食べよう。肉ばっかり食べると悪玉菌と悪玉コレステロールが増えて腸内環境がうんたらかんたらって聞いた覚えがあるぞ。

 食べたい物を注文して良いと許可をいただいたので、遠慮なくステーキと野菜スープをお願いした。


「アル約束の酒、奢れよ」

「わかってるよ。おいっ、注文頼む。このステーキと野菜スープ、あと特大ステーキ2つ、あとビール2つ」

「はいよっ」


 パンは注文しないのかと尋ねたら、セットでついてくるから大丈夫だと言われた。

 注文を受けたお兄さんは人と人との狭い隙間を縫うように厨房へと歩いて行く。


 あのお兄さん、あんな混雑した場所で人とぶつからないで歩けるなんてすごいなぁ。

 ……ところでさっきから、ちくちくと体に突き刺さる視線が痛いんですが。なんで?


 突き刺さる視線の持ち主と原因はすぐに判明した。

 お店の店員さんであろう、胸元を強調したお揃いのロングワンピースを着た綺麗なお姉さん方が艶やかな流し目をアルベルトとフォルスの2人に送った後、一緒にいる私に視線を移し悪鬼のような表情で睨み付けていくのだ。


 こわっ。


 イケメンと一緒にいるのが私みたいなので気に食わないんですね。

 でも、その顔やめた方が良いよ。

 運悪くお姉さん方の悪鬼のような表情を目撃してしまった他のお客さんがドン引きしてるから。





 暫く待つと、机の上にビール2つとステーキと野菜スープ、木の枝で編まれた籠に盛られた丸いパンが並べられた。


 熱々の鉄板上で肉汁がおどっている。

 存在感を見せつける肉厚なステーキ、付け合せはフライドポテトと茹でた人参コーンが少量。

 野菜スープはしっかり煮込んであり野菜は原型を留めないほどにとろとろで、パンはこんがりきつね色だ。


 あぁ、おいしそう。


 私の料理だけ先にきたようで、アルベルトとフォルスが注文した料理はまだこないようだ。

 今日は、お昼ご飯食べていないため、とてもお腹が減っている。しかし、1人で先に食べるのも感じが悪い。

 おいしそうな料理をじっと見詰めていると、


「俺等のことは気にすんな。冷める前に食べちまえ」

「そうですよ。温かいうちに召し上がってください」


 ビールを片手に持った2人に勧められたので、遠慮なく食べることにする。


 いただきます。


 ムグムグ――。


「…………うむ」


 びみょーである。


 まず、味ですがクッキー擬きの時と同じく可もなく不可もなく。

 格別まずいことはないが、絶賛するほどおいしいこともない。

 なんとも表現しにくい味だ。

 そして、肝心の肉だが、弾力があり筋がちょっと多いため、すぐに噛み切れず口内に肉が長時間滞在。現在、飲み込むために必死に咀嚼し続けている最中だ。


 ……やっと呑み込めた。顎が疲れたので、先に付け合せを食べよう。肉はナイフとフォークで細かく刻んで後で食べることにする。


「………あー」


 ポテトは少し味気ないかなと思う程度。

 人参は……噛まずに飲み込みました。水で流し込んで胃袋へご招待したので、味の感想は無い。

 私、嫌いな食べ物は噛まずに飲み込む派なんで。

 野菜スープは、ちょっと味が薄かった。コンソメ入れたらおいしくなりそう。

 パンは、表面は固く中はもそもそでした。日本のふわふわしたパンが恋しい。

 食べたもの全部、微妙な感じでした。


 あれ、ねぇ、この世界ひょっとして私が美味しいと思えるご飯ないとか……いやいや、そんな馬鹿な。

 ロウゼルさんが淹れてくれた紅茶美味しかったし大丈夫、のはずだ。 


「どうだ、うまいだろ。この辺りで一番うまい店なんだぜ」

「…………なるほど、だからこんなに繁盛してるんですね」

「すげーだろ」


 誇らしげに胸を張るフォルスに、なんとか笑顔を作り返事をした。



 この辺りで一番うまい店なんだぜ。一番うまい店なんだぜーだぜーだぜー。



 頭の中で、フォルスの言葉がリピートされる。

 ここが、一番うまい店だってさ。一番、うまい、店。


 ガツンと頭を殴られた衝撃が全身を襲う。


 マジで。

 これが一番うまい店なの?

 冗談じゃなくて?


 もうショックすぎて何も言えない。

 いや、別に不味くないんだけどね。美味しくもないけど。

 飯マズ世界じゃなくてよかったと感謝するべきなんだろうか……。


お読みくださりありがとうございます。

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