30.リガルの砦、到着。
空が茜色に染まる頃、グリフィンはようやくリガルの砦に到着した。
ゆっくりと降り立ったのは中庭のようなところで、中庭といっても花壇のような華やかなものは無く、木が数本生えているだけだ。
アルベルトとフォルスは、グリフィンの手綱を待機していた兵士さんに預け、そのまま4人で話をし始めた。
私は放置されている。
暇なので、少し離れたところに落ちていた木の棒を拾って地面に落書きでもしていよう。
ガリガリガリ。
「――できた」
二頭身にデフォルメしたアルベルトとフォルスが巨大なスプーンを振り回し特大サイズのオムライスを格闘しながら食べるの図。
我ながら、なかなか上手く描けた。
「サキ」
名を呼ばれたので顔を上げると、アルベルトにおいでおいでと手招きされたので小走りで駆けよる。
「お話終わりましたか」
「はい、お待たせいたしました」
「さて、お嬢ちゃん。これからこの砦で一番えらーい団長に挨拶行くぞー。そんでその後は、お待ちかねの飯だーイェーイ」
「いぇーい」
両の掌を差し出されたので、ノリでフォルスとハイタッチ。
偉い人に挨拶するの短時間で終わるといいな、お腹すいたし肉食べたい。厚切りステーキ、和風おろしハンバーグ、焼き肉もいいな。
食べたい物を思い浮かべ、ぼんやりしている私をアルベルトが真剣な表情で見下ろし、
「面倒ですし挨拶は明日に延期して食事に行きま――」
「ダメに決まってんだろっ」
フォルスがアルベルトの後頭部を叩き言葉を遮った。
「あのなぁ、明日朝一から砦を離れるて暫く留守にするから到着次第迷い人と話をって、昨日団長が言ってたろ」
「いやですね本気にしないでください。冗談ですよ」
「前科持ちが何言ってんだ」
「なんのことでしょう」
にっこり笑っておどけたように肩をすくめるアルベルトにフォルスが深々と溜め息を吐く。
前科持ちって……サボったことあるのか。
心労お察し申し上げます。
ストレスで禿ないように今夜いっくんに願っておくよ。頑張れフォルス。
「あー、とにかく挨拶行くぞ」
「はい」
前を歩くアルベルトとフォルスの後を追い渡り廊下から城内へ入る。
城内に入るとひんやりとした空気に身を包まれる。
石造りの壁には白漆喰が塗られており所々白漆喰剥げてしまっているが、そこがまた趣があっていい。
螺旋階段を上っている途中でフォルスが「そう、そう。伝え忘れてた」と肩越しに振り返り、
「団長以外にも2人いるから、簡単な自己紹介よろしくな」
「げぇっ」
とんでもない爆弾を放り投げてきた。これ以上ないって程に眉間に皺がよる。
なんたる無茶振り。
私人前で話すの苦手。発表会とか、国語の時間の朗読とか勘弁してって感じですよ。
胃がキリキリしてお腹痛くなって、よくお手洗いお世話になりましたから。懐かしい。
「いるのは、おっさんと、爺さんと、筋肉ですからそんな緊張しないで下さい。自己紹介も名前を名乗るだけで大丈夫ですから」
どんよりと落ち込んでいる私の頭をよしよしとアルベルトが撫でながら言った。
なんだ、名乗るだけでいいのか、自己紹介なんて言うから就活の時みたいに3分間スピーチしないと駄目かと思って焦ったじゃないか。
それにしても、おっさんと、爺さんと、筋肉って……アルベルト、もう少し言い方があるのでは。
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