27.旅立ちの時
フォルスに汗を流してはどうだと風呂をすすめたが断られた。
曰く、日が暮れる前にリガルの砦に到着するのが望ましいため、すぐにでも出発したいとのこと。
私がすぐに家から出てこなかったから時間に余裕が無くなったと。そういうことですか。
2人には外で待っていてもらい、荷物を取りに家に戻る。
エアガンをそっと箪笥の中に戻して、のんびり階段を上り自室にるスマホポシェットにスマートフォンを入れ紐を少し短くして首にかけ服の中へ。
結界の外でいっくんと連絡をとるためには欠かせない大切なスマートフォンを服の上からぽんぽんと軽くたたく。
よし、これで多分落としたりなくしたりしない……はずだ。
直射日光対策にラフィアハットをかぶり、玄関脇に置いてある斜め掛けショルダーバックを掴み外へ。
「おまたせしまし……」
玄関を出た瞬間、荷物をアルベルトに奪われた。
なんたる早技。
「重いでしょう。荷物持ちますね」
「……ありがとうございます」
荷物を奪う前にその言葉が欲しかったよ。
事後報告、良くない。
「アル」
フォルスが右手をアルベルトに差し出すと、アルベルトは何も言わずに私の荷物をフォルスに渡した。
「落とすなよ」
「落とさねぇーよ」
くるりと方向転換しグリフィンに歩み寄るフォルス。その逞しい背中を覆う服に綺麗についた足跡。
足跡?
「待ってください。フォルス、背中に足跡が……」
スタスタと歩いて行くフォルスに駆け足で近づき、汚れた所を手で掃う。
どうしたら、こんなくっきり足跡がつくのか。
「あ、あー、ありがとな」
フォルスは引きつった笑顔でお礼を言うと、私から素早く距離をとり逃げるようにグリフィンに飛び乗った。
何故に。
さっきは頭撫でてくれたのに。
もしや自分からは触れるのはOKだが、他人から触られるのはNOな方ですか。
心が傷ついたので、後で仕返しとして背後から抱きついてやろう。
……嘘です。そんな度胸はないです。
せいぜい「あ、白髪発見」と言って髪の毛を1本抜く程度ですよ。
「じゃ、俺先に行って周辺偵察しとくな。アル、お嬢ちゃんを頼んだぞ」
フォルスを背に乗せたグリフィンは力強く翼を羽ばたかせ、あっという間に上空へ舞い上がる。
その幻想的な光景に見惚れていると、突然後ろからひざ裏に腕を通され、そのまま抱きかかえられた。
親御さんが小さい子供を片腕で抱っこする通称、子供抱っこである。
「ふぉっ」
「失礼します。グリフィンに乗る為に抱き上げますね」
事後報告第2弾。
子供抱っこされた……25歳にもなって子供抱っこ。
いい年の大人が子供抱っこな現状に茫然自失だ。
そんな私の腕をアルベルトに自分の首にまわす様に誘導され、いつのまにか彼に抱きつくような状態になっていた。
恥ずかしいので、アルベルトの肩や服を掴んでバランスを保とうと考えたのだが、実行する前にそっと腕に手をそえ彼は耳元で囁いた。「しっかりと掴っておいて下さい。私が貴女を落とすことなどありえませんが、万が一ということがあります。低いところからであっても、打ち所が悪いと死ぬ可能性が……」と。
無言でアルベルトの首に縋りついた。
片腕で抱きかかえられたまま、グリフィンの背に飛び乗り、鞍の上に跨がされる。すぐ後ろにアルベルトが跨り、彼の左腕が私の腹部を抱え込んだ。
人間シートベルトの完成だ。
「では、出発します」
アルベルトの言葉を合図に羽ばたくグリフィン、ぐんぐん小さくなっていく我が家。湧き上がる外への恐怖心。
今更ながら、やっぱり外に行くの嫌だなと思いました。
行くけどね。いっくんとの約束だし。
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