25.羽毛ってふかふかして素敵だよね。
空飛ぶ伝説動物が地上に降り立つ前に背中からひらりと飛び降り軽やかに着地するアルベルト。
10点、おみごと、思わず拍手をしてしまうほど素晴らしい身のこなしだ。
アルベルトは昨日の鎧フル装備とはうって変わって胸部のみ鎧を身に着けている。
フル装備よりこっちのほうが好きだな。威圧感少なくて。
「遅くなって申し訳ありません。グリフィンの申請に手間取ってしまって……」
「や、大丈夫です」
眉毛をハの字にして申し訳なさそうに頭を下げるアルベルト。
森林火災が鎮火していないので来ないと思ってアニメ見てだらだらしていたのでお気になさらず。とは、言えないので、曖昧に笑ってごまかした。
空飛ぶ伝説動物の名称はグリフィンだった。
巨大ナメクジがナメークと呼ばれるように微妙にもじった感じのものだと勝手に予測していたので、肩透かしをくらった気分。
さて、大型二輪車ほどの巨体をもつグリフィンさん2匹は駐車場に仲良く並んでお座りをしている。
たまに嘴で、砂利を突いて遊ぶ姿は愛らしい。
鋭い眼光であろうと嘴が鋭利に尖っていようと、簡単に人間を引き裂いてしまいそうな爪があろうと、肉食昆虫やナメークなどと比較すると愛らしい一択である。
我が家の駐車場が無駄に広くてよかった。狭い場所にすし詰め状態とか可哀そうだからね。
砂利を突くのに飽きたのかグリフィンは嘴で互いを毛繕いしだした。
いいな、可愛いな、餌付けしたら懐いてくれるかな、あのもっふもっふの羽毛に顔埋めたい。
「グリフィンが気になりますか」
アルベルトの問いかけに大きく頷く。
それはもう。私の世界では物語の中でしか存在しない伝説の生き物ですから気になりますとも。
あぁ、首回りを撫でまわしたい。
羽毛……あぁ、羽毛が、生羽毛が私を呼んでいる。
「触れても大丈夫ですよ」
アルベルトがとても魅力的な提案をしてきた。しかし、近づくのは怖い。もし誤って爪とか嘴でザッシュとやられたら即死である。
「彼等はとても賢い貴女を襲うことはありえませんよ」
あれ、私声に出してないのに、なんで分かるの。
「貴女は表情が豊かですので」
クスリと口元に指をあて上品に笑うアルベルト。
表情で考えてることが分かるってか。
やだイケメン怖い。
隣にいるアルベルトから一歩距離をとる。すると、どこからともなく「おーい」と私でもアルベルトでもない第三者の声が聞こえた。
周囲を見渡すも私達以外に人の姿は無い。何か知っているのかと問いかける視線をアルベルトへ向けると彼は不思議そうにコテンと首を傾げた。
えぇー、私の表情で言いたいこと分かるんじゃなかったんですかー。
「おーい」
再び声が聞こえたので再度声の主を探すが、やはり見当たらない。
何コレ、ホラー?
「上だよ。うーえっ」
声の支持に従い顔を上げ空に視線を向けると、人が空中に浮いていた。
例えるなら、スカイダイビングしている人のパラシュートを開く前の一瞬を切り取ったような状態……いや、違うそんな綺麗な感じじゃない。
なんか、こう……。そう、梅雨になると窓ガラスにカエルがへばり付いている……あんな雰囲気?
とにかくカエルっぽいポーズをした人間は高さはビルでいうと10階あたりにいた。
おそらくそこに結界があるのだろう。
アルベルトを見上げる。
彼は微笑み、頭上を指差した。
「結界はずいぶん上の方まであるのですね」
「私も初めて知りました」
うふふ、あはは、と2人で笑い合う。
完全なる現実逃避である。
「ちょっ、同僚が大変なことになってんのになに呑気に話してるの! まず、助けろ!」
「…………え?」
「え? じゃねぇよっ。迷い人のお嬢さんはともかくオマエ、俺が結界通り抜けれないこと気づいてて教えなかったろ!」
「そんな、まさか」
「その笑顔が白々しいんだよっ」
結界にへばり付きながら、ニコニコ笑顔のアルベルトに怒鳴っている男を眺めながら思った。
この結界四角じゃなくてドーム状に張られていたのか新しい知識が増えたな。と。
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