22.子供じゃないですよ。
シャワーを終えたアルベルトとトーストしたパンに目玉焼きを乗せたラピュ〇パンを食べながら、今後の予定を話し合った。というか、強制的に決められた。
①歩きで迷いの森を抜けるのは困難なため、馬を連れて改めて明日迎えにくるので本日中に準備しておく。
②もしアルベルト以外の者が迎えに来ても絶対に結界の中に相手を入れず、自身も外に出ない。
③持ち物は着替え2日分と邪魔にならない程度の食糧のみ。
私の意見はほぼスルーだったよ。
唯一認められたのは、食べ物を持っていくことだけ……お菓子沢山持っていこう。あと水でお腹壊すといけないからミネラルウォーターと胃腸薬、こっそりスマートフォンも持っていくつもりだ。
神様だけあって、いっくんはとても物知りだ。これからは、分からないことや困ったことがあったら、いっくんに最良の選択を教えてもらおうと企んでいる。
いっくんと連絡取れないとか……不安すぎて死ぬ。
「いいですか、もう一度確認しますよ」
物置小屋にしまっていた鎧と剣を身に着け私が渡した携帯食セットとミネラルウォーターのペットボトルが入ったナップサック(十数年前私が小学校の家庭科の授業で製作した可愛いサルのイラスト付きのモノ)を背負い、旅支度万全のアルベルトが真剣な表情で私を見詰める。
「知らない人が訪ねてきたら」
「家から出ない」
「私の名前をだされても」
「本人以外は全部無視」
「お出かけ準備は」
「今日中に」
「家に入ったら」
「すぐに鍵を閉める」
なんだろう初めて留守番を任せる幼児を心配しする母親のようなこの対応。
私これでも25歳なんですが。
しかもこの会話3回目だよ。さっさと出発してくれないかな、昨日殆どゲームできなかったから早くやりたい。
はやく行けー。と心の中で叫ぶがアルベルトは動かない。
「やはり1人で残すのは心配ですね…………あの、肩に担ぎますので一緒に」
「無理です。胃の中のモノがリバースします」
女性としての尊厳が色々失われそうなので断固として拒否だ。
だいたいアルベルトが来る前、私ずっと1人だったんですがね。何が心配なのやら。
「抱っこでもいいですよ」
「両手ふさがった状態で戦えるんですか」
両腕を伸ばしてきたので、後ろに下がり首をぶんぶん横に振り嫌ですアピール。
しかし、アルベルトは諦めない。くるっと回り背中を見せしゃがみ込み、どうだ! と言わんばかりの表情で振り返り。
「背負います。そうしたら剣で戦えますよ」
「しがみつく筋力が私にあるとでも? 絶対に嫌です。行きません。待ってます」
全然名案じゃないよから。
右腕の服を捲り上げアルベルトの目の前に突き出します。
見るがいい。この病的に白く筋肉の無いちょっとぷにっとした腕を。
そんなやりとりを2度繰り返しようやく諦めたアルベルトが、結界の外へ出る。
「それでは、明日には迎えにきますので」
「別に2、3日遅れても大丈夫ですよ」
「いえ、明日には絶対に迎えにきますので、準備しておいてくださいね」
「……はい」
笑顔が怖い。圧力が……。
素直に頷く私を見て満足そうに微笑み、頭をぽんぽんと撫でた。
微妙にガントレットが当たり痛かった。
アルベルトは身を翻し、木に近づくと大地を蹴り上げ枝まで飛び上がると、そのまま次の枝を蹴り猛スピードで駆けてゆく。
すぐに彼の後姿は見えなくなった。
……あの身体能力あるなら馬いらないんじゃ?
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