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留守番したら異世界でした。  作者: 上城樹
第一章 異世界と私
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10.顔を隠して登場するキャラは大体イケメンだったりする。

 靴を履く時間が勿体ないので靴下のまま外へ。

 駐車場の砂利がチクチクして足の裏が痛いが、人命優先我慢である。



「その人離せっ」


 巨大ナメクジの前に仁王立ちし塩を掴み投げつけながら、ふと思う。

 よく考えたらいくら外見がナメクジに似ているからといって弱点が同じだとは限らないんじゃ。

 いや、でも現段階でこれが最善に思えるし、とりあえずやってみよう。もし塩で駄目だったら、炎で燃やせばいい。そのためのガスバーナーだ。

 生き物って大体火に弱いし。頭っぽい箇所燃やしたら吃驚して逃げるといいな。埋もれている人は少し熱いかもしれないけれど我慢してもらおう。


 もう一握り塩を投げつけると、巨大ナメクジは不快そうぶるりと巨体を揺らし一回り縮んだ。


 あれ、ナメクジこんなに早く縮むっけ? まぁ効果抜群なのは良いことだし気にしないでおこう。


 掴んでは投げ掴んでは投げを繰り返し、塩を半分消費した頃、巨大ナメクジは当初の半分以下の大きさに縮んだ。結界の内側から、巨大ナメクジに埋もれていた人の姿がしっかり見れるほどに。僅かだが隙間ができているので、窒息死の心配はなくなり一安心である。

 腰に剣を携え頭から爪先まで全身西洋の鎧フル装備のその人は、中世ヨーロッパの騎士のようだ。

 鞘に納められたままの剣に、それ鞘から抜いて戦えばよかったのではと思ったが、今そんなことより、このぬめぬめねばねば地獄から騎士(仮)を一刻も早く救出してあげなくては。


 もうひと頑張りだと、塩を掴むため視線を下に一瞬そらしたその時。


 ドゴッ、と鈍い打撃音が聞こえた。

 慌てて視線を戻すと。


 飛んでました。


 何が?

 

 巨大ナメクジが。


 どこを?


 空を。


 縮んだとはいえ大型二輪車ほどの大きさはある巨体が美しい放物線を描き――地面に落ちた。

 先程まで巨大ナメクジがいた場所には、突き上げた足を下ろす騎士の姿が。


 なるほど蹴ったのか。

 ……………大型二輪車サイズの巨体吹き飛ばす蹴りってなんだろう。

 どうやら異世界の騎士は巨体を軽々吹き飛ばすとんでもない脚力を持っているらしい。


 常識が違いすぎて思考回路が焼き切れそう……あぁ、目の前が暗く……。


「チッ」


 ならなかった。逆に目が覚めた。

 今「チッ」って舌打ち聞こえたよ。ガラ悪いな、この騎士。


 面倒事になりそうな予感がする……。ので、騎士を放置して家に帰り引きこもりたいが、もし怪我をしているのであれば治療した方がいいのではという思いがぶつかる。

 どうしようかと、俯き悩んでいると視線を感じた。

 顔を上げると、いつの間にやら振り返った騎士の兜の奥にある目がジッとこちらを見つめていた。

 何か話しかけようとした次の瞬間、騎士は地面に崩れ落ちる。


 騎士は倒れたまま動かない。どうやら気を失ったようだ。


 結界の外へ出るのは怖いが、騎士を放置するわけにもいかない。こちらの様子を窺がっている巨大ナメクジがまた襲ってくる可能性もあるのだ。


 この人、私が敷地内に運ばないといけない感じっすか。男手が欲しい。


 幸いにも騎士は結界の傍で倒れたため、腕を引っ張れば移動させることは可能だ。

 肩脱臼したら、ごめんなさい。さきに心の中で謝っておく。


「よいしょっ、どっこいしょっ、えっさっ、ほいさっ」


 大根やかぶを引き抜く要領で騎士の両腕を引っ張り結界内へ引きずり込む。重心を後ろにおきひたすら引っ張る。ガッガッと砂利と鎧が擦れる音と私の掛け声だけが静かなジャングルに響く。

 足の先まで結界内へ入っていることを確認し、その場にしゃがみこむ。


 非常に疲れた。

 意識を失っている人間は重たい。さらにこの騎士は全身フル装備なのでさらに重い。救助する人のことを考えてもう身に着けるものをもう少し軽くするべきだと思う。

 両腕を引っ張ったので騎士はバンザイ状態で横たわっている。


「…………」


 あまりにも滑稽な姿だったので腕を体の横に移動させてあげた。

 ついでに呼吸しにくそうだったので親切心から兜を外した。別に顔が見かったからではない。


 兜の下から現れたのは、キラキラと輝く銀色の髪と、すっきりとした顔立ち、荒い呼吸を繰り返す薄い唇は艶っぽい……わお。

 助けた騎士は色気のあるイケメンでした。

お読みくださりありがとうございます。

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