開幕話 手紙/父から子へ
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愛する息子へ。
やあ! 父さんだよ! まずはレンマ君の優れた能力に惜しみない称賛を送りたい。
素晴らしい! ブラボー! 感動した!
よくぞ父さんの課した試練を乗り越えたね。この手紙はレンマ君への表彰状も兼ねているんだ。縁が綺麗に装飾されているだろう? 捨てたら呪いが掛かるよ! 肌身離さずの宝物にしたまえ!
で、どうだい? 父さんの特製ダンジョンは楽しかったかい? スタートからゴールまで、どれくらいの期間がかかったかな? 一年かな? 二年かな? 三年もかかっていたのなら父さんガッカリ。がっつりとガッカリ。まさか途中棄権だったり? この世界はやっぱり無能ばっかり? そんなことないよね!
ちなみに、父さん親切だから母さんには事情を話してある。だから三年以上かかっていても母さんから怒られたりはしないはずだよ。情けないとは思われるかもだけど。それは知ったことではないね!
あ、ちなみに父さんの予想は一年だ。それくらいだよね、きっと。母さんの予想は半年だってさ。はっきりいって父さんのダンジョンを舐めてるよね! どうだい? どっちか当たったかい? 父さんが当たってたら、レンマ君に二人目の妹ができます。やったね!
何にしても大したものだよ。うん。さすがは父さんと母さんの自慢の息子だね!
トラップといいモンスターの配置といい君の成長を願いつつも心を挫くべく全力で真心を込めて造ったつもりだから悔しいやら嬉しいやら悔しいやらだ。うん。やっぱり少し悔しいかもしれないぞ。
やっべ! ちっくしょ! まじかよ! 次は勝つ! あまり調子に乗らないように! 父さん、得意フィールドは雪原だしね! ダンジョンとか造っといてなんだけど、実は土属性って苦手なんだよね!
さて、ここで是非とも書いてみたかった言葉を記そう!
レンマ君がこの手紙を読んでいる時……父さんはこの世界のどこにもいないだろう。
あ、死んでないよ? でも探したところで無駄だよ。父さん、昔から隠れんぼは神憑り的に上手いんだ。鬼が諦めて帰ってしまったこともたくさんあった。小学校……この世界風にいうと幼年学問所かな? そこの友人たちなんて畏怖のあまり父さんが隠れると早々に帰宅してしまったほどだ。
あれ、何だろう。ちょっぴり涙が出てきたよ。さながら『父さん回想して涙一滴』ってやつかな。ことわざって心を慰めてくれるよね。
べ、別に郷愁の涙じゃないんだから、勘違いしないように!
上に書いたの、出会った頃の母さんの真似ね。少女が素直になれない様は宝石の輝きに似ているのさ。照れ隠しの暴力を華麗に回避、あるいは耐え切ってはじめて愛でられる宝物なんだ。だから父さん、魔法使いだけど蝿並みの回避力と象並みの耐久力を持っているのが自慢さ。愛の力だね!
おっと、話が逸れた。筆が走るったらなくてさ?
父さん、レンマ君がこの手紙を読む頃には多分違う世界にいるのだけど、昔からよく語り聞かせていた故郷へ帰ったって意味ではないんだ。その方法はまだ見つかっていない。そこのところ、母さんのことをよく諭しておいてほしい。そうしないとまた召喚儀式をやりかねないからね。
正確には……やらせかねないんだ。白獅国のお城に殴り込むとかして。
そういうのよくないって父さん思う。『苦しい時の巫女頼み』っていうけど、さすがに迷惑だと思うしね。あそこのサムライ女とか怒らせると超怖いからね。くわばらくわばら。
あ、もうやってたら、レンマ君には申し訳ないんだけど、彼女に申し訳ないって謝っておいてくれない? 父さんも戻ったら申し訳なかったって謝るから。何年後になるかわからないけど。
やあ、長くなってきた。
どうにもドキドキワクワクしていて筆が進むったらないよ!
父さん、魔王討伐の大冒険終わってからは攻撃魔法とか呪文の一節も唱えてこなかったからね。主に炊事洗濯と育児のために魔法を使ってきた。食材が足らない時にも重宝したんだよ。焼いたり盛りつけたりすれば見た目わからないからね。母さん、質より量の人だし。君は生肉でも生肝でもいける子だしね!
うん、これはこれで楽しい毎日だったわけだけど、実はこの世界の方がそうもいっていられない状況になっていてね。内緒だけど、もう一回魔王倒すくらいの覚悟を決めてたりします。そういう感じの父さん、見せたことないよね。まあ、機会があればいつか。でも惚れちゃ駄目だよ? 父さん、そっちは無理だから。
さてさて、いい加減にしよう。
残る二巻はそれぞれ母さんと妹に渡しておいてね。お互いに見せ合っても構いやしないけど、母さんのはきっと恥ずかしがって見せてくれないと思う。三十回くらい「愛してる」って書いたからね。まさに愛だね! マサラヴだね!
とにかくも元気で! 父さん、ちょっと戦争に行ってくる!
追伸
念のため人工精霊を置いてきます。赤いやつね。いらなかったらタンスにでもしまっておいて。
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