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七日目~早くひきこもり生活を送りたい~

 無駄に長くなっております。

 削ろうとすると増えていく不思議……。

 リッチを俺が撃退したことになった翌日、俺はとてつもなく悪い予感に駆られて瞬間的に覚醒した。

『マスター、起きられましたか……』

「どうしたフォン。なにかあるのか? すごいヤな予感がするんだが」

 俺はとりあえず何かを察しているフォンに質問すると


 コンッコンッ


 という、俺からすればまさに地獄からの使者が迎えに来たかのようなノックが部屋の中に響いた。

 さらに、それに続いて

「ネランさーん。いますかー?」

 という、俺からすればまさに地獄からの(以下略)声が外から聞こえてくる。

『マスター、どうやら勇者が来たようです』

 ほぅ、そうか。うん、全く意味がわからん。

「なぜだ……。もう俺には用がないだろうが。そもそもなぜ俺のいる場所がわかったんだ……。え? 認識阻害、きちんと働いてるよね?」

『マスター、ご安心ください。マスターの認識阻害魔法は世界の魔法を扱う者たちにとって嫌味な程に完璧です。恐らくリスティさんから報告と一緒に聞いたのではないでしょうか』

 リスティ? え、誰?

『マスターが獣人女と呼ばれている方です』

 へぇー、いやそんなことはどうでもいい。

 今現在最大の問題は俺の部屋の前に勇者がいるということだ。

 俺は寝起きのため一昨日勇者と挨拶をしたネガティブモード(ネラン)になっていない、つまり魔質が違うのだ。

 その時点で俺=ネランではなく俺=だれ?という等式が成立するため俺は即刻ネランになるため生命魔法の【魂源変化】を使用しなければならない。

 が、ここで問題が発生する。

 それは、俺の精神の弱さだ。

 自慢ではないが俺の精神力はニンゲンの一般人の四分の一。

 勇者(死神)がドア一枚隔ててとはいえ傍にいる状態で落ち着ける訳がない。

 しかし【魂源変化】には多大な集中力が必要となる。

 つまり結論として

「う、そ……だろ? 詰んだ……?」

 もしかして、こんなところで、詰んだの、か?

 この俺が?

 えっえっ?

 は? えっと、あばばばばばばばばば?

『マスター、落ち着いてください』

 あはは、なーんだ、俺、死ぬのかー。

『マスター、落ち着いてください』

 もう、いっそのこと俺の最大攻撃自爆魔法で華々しく散ってやろーか……。

 いや、でも俺のキャラじゃないしなぁ……。

『マスター、落ち着いてください』

 あっはっはっは


 コンッコンッコン


「……いないのかな」

「!!?」

 そ、そうか! 簡単なことだったんだ!

『はいマスター、認識阻害魔法が完璧なら居留守で解決します』

「フハハハハ! 勇者め! 貴様の幸運もここまでだ!この魔王が滅ばされる運命すらも滅ぼしてくれるわ!!」

『マスター、布団の中で丸くなって震えながら枕に顔を押し付けてかつ小声で言っても迫力がありません。むしろ萌えます』

 うっさい。

 そうやって30分ほど居留守を続けていると(勇者ってかなり我慢強くて鬱陶しい)ドアの前の気配が遠ざかって行く気がした。

「やった……。やったぞ、勇者に勝った!」

『マスター、生き延びただけです』

 そうしてしばらく小躍りしているとまた勇者の気配を感じた。

「おかしいなぁ。宿屋の人の話じゃ出て行ってはいないはずなんだけど」

 な、んだと?

『宿の人に話を聞くとは……盲点でした』

 くそ! 貴様それでも勇者か! 人に頼るとは何事だ! 自分の力で道を切り開いてこその勇者だろうが! 見損なったぞ! 元々見損なうほど関心があったわけでもないがな!

 などと俺がゴチャゴチャ考えているうちに勇者は

「じゃあ、まだ寝てるのかな。うーん、あ、そうだ。もう朝だし、起こしてあげようかな……」

 などと言い出した。

 まずいまずいまずい!!

 つーか、え? なに?

 起こしてあげよう? 君、余計なお世話って言葉知ってる? というよりもいくらまだ幼いとはいえ女の部屋に勝手に入ろうとするか普通?

 でも無罪になるんだよなぁ、チクショウ!

 運命に甘やかされた反則存在め! 今すぐ、頼むから、今すぐ、消えてくれ!

「うーん、よし。朝は早く起きたほうが気持ちいいし、そうしよう」

 いや、別にいいです!! 本当にいいですから!! 

 と、とにかく勇者が合鍵を取りに行ってる間に逃げ

「【鍵開け(アンロック)】」

 って魔法かよぉ!!

『マスター!!』

 わかってるよ!! どちくしょー!!!

 俺は即座に魔法で音を消し、荷物を持って窓を開け、

「あい! きゃん! ふらぁーーい!!!」

 飛び降りた。(俺の部屋は二階である)

 いやまぁ、やろうと思えば本当に飛べるんだけどさ。

 スタッと気持ちいい音をたてて地面に着地した俺は通行人の怪しげな視線を受け流しながら俺の部屋を見た。

 そこからは「あれ? 本当にいないんだ……」という声が聞こえてきたので俺は安堵の溜め息をついた。

「あら? ネランさん、ですよね?」

 が、すぐにその溜め息は喉につっかえてむせてしまった。

「げっほ、ごほっごほ」

「あれ、ネランさん、じゃ、ない、のですか?」

 目の前に、不思議そうな顔をした勇者の付き人A(名前覚えてない)がいた。







 世の中には良い知らせがあると必ずと言っていいほど悪い知らせが来る。

「へー、ウランさんはネランさんの双子の姉なんですか……」

 この場合、良い知らせとは勇者達がファーストコンタクトの際に俺の魔質を詳しく覚えておらず、獣人女が俺の情報をあまり話していないうえ、フォンが事前に付き人Aの気配を察知し消えていたことだ。

「えぇ、そうなんですよー。あはは、は」

 そして悪い知らせとは今、俺の魔質をネランの双子の姉のウランと覚えられてしまったことだ。

 こうして聞くとメリットの方が多くデメリットが少ないのでマシなように聞こえるが冗談ではない。

 俺は今、こんな場所で一回しか使えない超回避術を使ってしまったのだ。

 それはさながら、人生で追い詰められた時に一度しか使えない一撃必殺技を少し強いレベルの中ボスのような存在に使ってしまったかのような喪失感である。

 くそぉ! 

 だけど、仕方ないじゃないか!! どうやって逃げればよかったんだよ!!

「それで、ネランさんはどちらに?」

 おっと、今はまず目先の危機を乗り切るか。

「はい、どうやらネランは人見知りが激しく恥ずかしがり屋なので、怪我が治るとすぐにここを出て行ったんですよ。行き先は聞いていないのでわかりませんね。お……私たちはお互いに自由行動なので。ここで会ったのも偶然なんですよ」

「そうなんですか……」

 勇者がしょんぼりとしている。

 くくく、いい気味だ。もっと苦しめ!

「珍しいですね、勇者様はどんなに人見知りが激しい人でも受け入れられてきましたのに」

「いや、そんな……。僕にもできないことぐらいあるよ」

 そりゃそうだろーが!

 魔王が勇者に懐くわけねーだろ!!

 現に俺は今すぐここから逃げ出したいし? むしろいつ気を失ってもおかしくないんじゃないかってぐらいのプレッシャーに襲われてるよ。

 早く話を切り上げてどっか行け。

「にしても、ほんとにそっくりですね。魔質もどことなく似ていますし……。魔法の得意属性はなんなのですか?」

 くそ! やっぱり鋭いな勇者の付き人A!

「えへへ、よく間違われますよ。でも、簡単に手の内を明かすのはいくら勇者様達でもご遠慮願いたいですね、すみません」

「あ、こちらこそすいません。そうでしたね。普通はそうなのでした……」

 成る程……勇者効果で多分、今までは普通に教えられてきたんだろう。

 はぁ、まったく、馬鹿な話だ。普通、他人に自分の命綱を握らせるよななことをするか?

 いくら勇者効果でも少し実力があればこれぐらいは耐えられるはずだぞ。

『マスター、魔力にものを言わせて精神力を限界まで底上げしつつ更に私にサポートされてやっとなクセにそういうことを思わないでください』

 フォンうっさい。

「では私はやることがあるので、失礼させていただきますね」

 さっさと離れなければ……死ぬ。

 ちなみにやることがあるのは本当なのでウソを察知されることもないだろう。

「あ、すいませんでした。もしまたネランさんに会ったら伝言お願いできますか?」

 ちっ! なんだよ、鬱陶しいな。

「なんですか?」

「えっと、『仲間になってください』と」

「…………は、い?」

「じゃあ、お願いしますね」

「え? ぇ?」

 言いたいことを言って勇者たちは去っていった。

 えっと……。

『マスター、勇者が仲間になって欲しそうにこちらを見ている、ということです』

 フォン、うっさい。

「とりあえず、」

 もうネランは封印しよう。うん。それがいい。

 封印、できたらいいなぁ。






 

 さて、気を取り直して、俺は昨日の爆発によって更地になった場所へ来ていた。

「確か、このへんに……お? あったあった」

 ここの無駄に長い洞窟を進んでいる時に暇だったので地面を探知魔法で探っていると、リッチーズが造ったであろう地下シェルターがあったのだ。

 まぁ、結局アイツらがそこへ間に合うことはなかったので無意味な存在だったが。

 俺は今、その地下シェルターの入口を見つけるために地面を確かめていたのだ。

 どうでもいいけど今の絵面って幼女が地面を四つん這いでトントン叩いてるんだよな……。

 そこはかとなく嫌な気分になる。

 とりあえず、俺は地下シェルターの入口を見つけると、その上の砂を払っていった。

 勇者たちはどうやらリッチにしか興味がなかったようでこのシェルターはスルーしたんだろう。

「お、取っ手発見。よいせっと……。あぁ、うん。そっか」

 入口を開くための取っ手を引っ張ってみたが

 俺、素の筋力スゴイ低かったんだよなー。

 開かないんだけど。ピクリともしねぇ。開く気ゼロだなこのドア。

『マスター、顔を赤くして引っ張る姿はかなりの萌え度を誇っていますよ』

 フォンうっさい。

 つーか、ずっと言ってるけど、もえってなに? 意味がわからんのだが……。

『マスター、萌えに意味を求めてはいけません。ただ、感じるのですよ』

 イミフ。

「とりあえず、魔法でドアを軽くすればいいか……闇魔法【重力制御(カオスコントロール)】を使って、と」

 よし、ドアを本来の300分の1以下の重さにしてやったぞ。これなら俺のロリータボディでもいけるだろう。むしろ開けられなきゃ困る。

「ほっ………………え? マジでか? これでも、無理なの?」

『マスター、恐らくドアの重さではなく何かに引っかかっているのではないかと思われます』

 あ、うん。多分それだ。

 さすがにこんな、へたしたらキロ以下の重さになったドアを開けられないのはちょっと……。

「……時空間魔法【空間跳躍(ワープ)】」

 最初からこれでさっさと中に入ればよかった。

 まぁ、でもいちいち疲れる上位魔法を使うのもなぁ、とは思ったが。

 地下シェルターの内部はそこそこ大きくなっており、20メートル程の立方体の部屋が5つあり、それをを真ん中の部屋からの5つ通路で繋いだ感じだ。

 なので外から出入りできるのは真ん中の部屋だけになっている。

「結構、しっかりした造りじゃないか……リッチのクセに」

『マスター、偏見ですから』

 うっさい。 

 ではでは、ここに来た目的を果たそうではないか。

 俺は時空間魔法によって収納していた人骨を二セット取り出した。

「コイツら、爆発に耐えたかと思えば魔力切れで死ぬんだもんなー。丸々全部の骨残ってたし」

 そう、ここに来た目的とは、あの博士リッチと助手リッチを俺の配下として蘇らせるつもりだ。

 別に世界征服とかする気は(元々だが)無いし、戦闘メインの奴じゃないリッチは配下にピッタリだ。

 魔王はそのうち落ち着いたらあの馬鹿か変態のどちらかにでも譲ろう。

 俺は小山の大将で十分なのだ。いや、この場合研究室長のなるのか?

 と、まぁ、そんなわけでリッチーズ復活のための魔方陣を構築していく。

「……いっそのこと魔改造でもしてやるか。どうせ本質は変わらず研究一筋だし」

 という思いつきから魔法陣に色々と復活とは関係の無いモノも付け足していく。

「まずは魔力量の底上げをしてやって、おっと、傷の修復もか。んー、あとは、おぉ、そうだ。アイツらの生きてた姿も見たいな。よし、受肉しよう」

『マスター、それはもはやリッチではなく……』

傷付き(スカー)なんてカッコイイ名前が二度と付かないように自動修復も付けて、俺より先に死ぬのもなんかウザイな。かと言って俺より長生きされてもムカツクから、俺の魔力で存在を固定化してやろう。あとあと…………」

『マスター…………』

 そしてしばらく設定に没頭し、リッチーズの蘇生を開始する。

 まずは骨を魔法陣の中心に置いて、魔法を使用。

 ぶっちゃけこれだけだ。

「生命魔法【混合蘇生ミキシマイト・リザレクション】からのー、生命魔法【魂魄不滅化ソウル・イモータリティ】で、供給源を俺の魔力に設定。ふぅ、ここまでくれば、一気に仕上げだっと」

『マスター、さすがです。この世に未だ存在していない魔法を扱えるとは……。マスターの現在使用している魔法は記録されていませんが、オリジナルなのですね』

「んー、まぁな。一時期魔法開発にハマって色々試したし。でもそもそも生命魔法自体がバカみたいに魔力喰われるから、ニンゲンで言えば国二つくらい必要だぞ。あ、でも奴ら運用もヘタクソだしな……」

 などとフォンと雑談している間に魔法は終わりへと近づいていく。

「さぁ、リッチーズの生きていた姿とご対面だ」


 シュウゥゥゥゥゥゥゥン


 という音と共に魔方陣から大量の煙が発生し、魔法陣の中心部、つまりリッチーズの骨へと向かっていく。

「二人同時とか初めてだから成功するかどうか、ワクワクしてきた……!」

『マスター!? まさか実験だったんですか!!?』

 大丈夫だ、問題ない。…………多分。


 ボゥン


 と、煙が晴れるとそこには

「う、む? 私は、たしか爆発を防ぐための魔法で魔力切れを起こしたはずだが……どういうことだね助手よ」

 一人の長過ぎる黒い髪をもった長身の女と

「そのはずです博士。……あの、博士? 声が少し高い気が」

 と少し戸惑い気味の水色の髪を持った青年がいた。

『意外です』

「あぁ、意外だな」

 口調から察するに俺の魔法は失敗していない。

 だとするなら、だ。

「む、その鈴の音のようなお声は、死に際に聴いた魔王様の声のようだ。どうなっている?」

「えっと、は、博士? まさか……」


『「「女だったん(ですね)(だな)(ですか!?)」」』


「は?」

 そう、心底意外だったが、リッチーズの片割れこと博士は、背の高い黒髪を持つ女だったのだ。

「別に私の性別なんてどうでもいいだろう助手よ。それより魔王様のま「ど、どうでもよくなんかないですよ!」

「う、むぅ。どうしたのだね助手よ、そんなに興奮して」

「あ、いえ、その、な、なんでも……ないです。やっぱり」

「?」

 どうやら助手は自分でもよくわからない精神状態になっているようだ。

 うーむ、少し特殊な感じで蘇生したからか?

『ま、マスター、これはあれです。今まで同性だと思って付き合ってきた親友がふとしたことから女だと発覚しいつものように接してくる親友に対して今までなかった異性としての魅力を感じてどう接すればいいのかわからなくなっている状態ですよ!』

「ど、どうしたんだフォン、やけに熱く語るじゃないか……」

 一体何がフォンをここまで熱くさせたんだ?

「魔王様! 我々は急激な魔力切れによって世界に留まることができなくなったはずです。なぜ、ここに? いえ! それどころかなぜ肉体まで持って蘇生されているのですか?」

 おっと、どうやら博士の方が目を爛々とさせて俺に説明を求めてきている。

 流石は生粋の研究者だな。

「は、博士!! その疑問は私も抱いていますが、まずは服、服をお着になってください!!」

 あぁ、言い忘れてたが、蘇生したコイツらは全裸である。

 服は肉体の一部じゃないしな。







 ここが元々コイツらのモノだったこともあり、服は一応あった。

 全て白衣だが。

 そういえばリッチの時にも白衣を着用していたな、生意気なことだ。

『マスター、』

 偏見だろ? うっさいな

『ごもっともな意見です』

「……あ、そう」

 さて、とりあえず元リッチーズは揃って全裸に白衣を羽織っている。

『マニアックですね』

「は、博士……その姿は……。くっ! 選択ミス、いや、むしろ正解、か?」

 などとほざく一個と一人は無視して説明に入る。

 ちなみに博士は真剣に俺の話を聞く姿勢である。

 感心感心。

「えー、まずはお前らの今の状態について話すぞ。お前らは今、既にリッチという種族ではなくなっている」

 バッと手を挙げる博士。

「質問が」

「却下。後から受け付ける。

 さて、では今のお前たちの種族は何かというと、不死者(アンデッド)だ。少し特殊な、な。

 何が特殊かというとだな、俺が色々手を加えている。

 まず、メリットだが、魔力増加、筋力増加、瞬間完全修復、そして、限定的な不滅化ぐらいか。あ、もちろん戦闘力とか俺以下だぞ? 自分より強い奴を作るのはまだ先だな。怖いし。

 次にデメリット。これはあれだな、お前らは俺が死ぬと死ぬ。あ、これじゃ不死者(アンデッド)じゃないとも言えるか。

 で、質問は?」

 非常に簡単に重要な点だけ抑えての説明。

「色々とお聞きしたいことはありますが、まず、魔王様が死ぬと我々も死ぬ、とは?」

 うんうん。

 やっぱそこだよなー、まずは自分の命だ。

「お前ら、普通の不死者(アンデッド)が光魔法の聖系統で浄化されるのは知ってるよな?」

「もちろんです。そもそも不死者(アンデッド)は」

 余計な説明やめい。

 まぁ常識だったな。

「だが、お前らは浄化されない」

「ほぅ、それはそれは」

「な、なぜですか?」

「いや、正式には浄化されても元に戻ると言ったほうが正しいか……。まぁ、理由としては即座に俺の魔力が供給されるからだな。肉体から魂が浄化されて世界から消える前に俺の魔力が魂へと介入し再び肉体に戻るようになってる。あー、まぁ、だから物凄く単純かつ簡単に説明すると、俺のおかげで存在してるから俺が死ぬと消えるだろ普通、ってことだ」

『マスター、説明が面倒になりましたね……』

 うっさい、その通りだよ! 悪いか!?

「魔王様、もう少し詳しく……」

「馬鹿が!! 自分で考えろ!! 研究者だろーが!!」

『ぎ、逆ギレですマスター』

 だってなんか俺今日頑張りすぎじゃないか?

 朝から勇者が襲撃してくるわ、必死で誤魔化すわ、コイツらの蘇生の準備するわ……うん、頑張りすぎだ。

「た、確かに……我々は研究者であり不思議があれば自らで解明していくことを目的としていると言えなくもないですが……」

「は、博士、いいんですかそれでって、うわ! ちょ! こっち向かないでください博士!! まえ、見えてますから前!」

「む? それがどうしたんだ助手よ。なにか問題でもあるのか?」

「も、問題というか、その……」

 どうやら蘇生によって性欲まで復活しているらしい。

 でも、見ていてなぜかイライラする。

 なんだこの空気は? ウザッ!

『青春、ですね』

 なんだそれ?

 まぁ、どうでもいいか。

 さて、さっさとコイツらをわざわざ復活させた目的を果たそう。

 俺はどうやら目的を忘れがちになる癖があるな、なんとかしないと……。

「でだ、アリスン・バーダーとヴィラン・ランドル、だったか? 本名」

「……ふむ、懐かしいですな」

「な、なぜ知ってるんですか!?」

「魂魄情報を読み取った」

 ちなみに性別とかは別段興味がなかったので知ろうとしなかったのだ。

 よって、博士、アリスンの性別には素で驚いた。

「魂魄情報ということはやはり、魔王様は生命魔法を扱えるのですね……」

「ん? そうだが?」

「せ、生命魔法って、我々の到達目標そのものじゃないですか博士!」

 あ? なんだ? 

 コイツら生命魔法研究してたの?

 なら、ちょうどいいな。

「魔王様、その、大変厚かましいのですが我々に生命魔法を」

「いいぞ、教えても」

「そ、そんな簡単に?」 

「うん、そのかわり、お前ら俺を養え」

「「『は?』」」

『あの、マスター、もしかして』

「養う、とは、つまり……」

「どういう?」 

 いや、なに言ってんだコイツら?

 養うと言ったらつまり

「だから、俺が生活する金を稼いでこい。俺、もうお金無いんだよね」

「……はぁ」

 実は宿屋でほぼ全財産を使い切ってしまったのだ。

 お金を使いきったということはつまりまた働く必要がある。

 でも働きたくない、勇者に見つかる可能性もある、つーか動きたくない好きなことだけしていたい。

 ならどうする?

 そうだ、ちょうど部下にできそうなのあるし、代わりに働かせよう。

 という単純な思考から俺は生命魔法なんて結構疲れる魔法まで使ってコイツらを復活させたのだ。

 疲れないために疲れることをするとはこれいかに? と思わないでもないが、まぁ、もう終わったし、あとはこの二人に養ってもらうだけだ。

 一番の問題だったコイツらを素直に従わせる対価には生命魔法を教えることで成立。

 今、俺の引きこもり計画が達成された!

「その、どうやってお金を稼げば?」

「知らん。ギルドにでも登録すれば?」

『ま、マスター、もう魔王ではなくそれではただのニー……』

 元々こんな生活だったけど?

『…………』

 なんだよ?

 とりあえず、俺は腹が減ったので夕飯が食べたいです。

「生命魔法」

「ぅぐ!!」

「教えて欲しいんだろ? とりあえず何か食べ物買ってきてくれない? あ、安心しろ。お前らは普通にしてればニンゲンにしか見えないから。里に入っても大丈夫だ。…………多分。ほら、さっさと行け」

 一瞬迷う素振りを見せた博士(アリスン)

「致し方ない、か。行くぞ助手よ」

 と言って里へ出発する。

 全裸に白衣で。

「は、博士! さすがにその格好はまずいです!! な、何か、なにか他に着れるものがあるはずです、いえ、無ければ作りますから、少しお待ちを!!」

 などと言いながら助手(ヴィラン)も後を追っていった。

 






 二人がいなくなった部屋で、俺はリッチのくせに生意気にもベッドを部屋に置いていたのでそこに寝転がることにした。

 

 ボスッ


 と勢いをつけて飛び込むとプツっと音がして長い髪が抜ける。

「いだっ」

 あー、そういや俺、女だったなー。いや、肉体年齢的に幼女か。

 勇者のせいで完全にフォンの呪い(ウザさ)を忘れていた。

『いいことですね』

 うっさい黙れ死ね。

 まぁ、なにはともあれ、

「馬鹿だよなー、あいつら。どうせ生命魔法使えないのに」

『……はい? どういうことですか? マスター』

「あれ? お前知らないの? あぁ、でも生命魔法とかもほぼ俺のオリジナルだからなー」

『そもそも生命魔法自体を私は知りません。そんなものはなかったと記憶しています』

 なるほど、フォン製作当時にはまだ生命魔法はなかった、と。

「そもそも生命魔法ってのはさ、一度言ったけど莫大な魔力がいる。それは基本だけでも魔力900以上が必要なんだよ」

『それはつまり……』

 神でもかなり上位の存在にしか扱えないということになるのだ。 

 ちなみに、ステータスにおいて899と900は完全に別物である。桁が違う。

 というよりもステータスが1や2違うだけでその実力も全く違ってくる。

 少しの数値を上げることもかなり困難だ。 

 そこにさらに輪をかけて899と900では明確な差があるのだ。

 努力などでは絶対に届かない。ある意味、才能の壁。

 もっと言えば種族によっても届かないし、というよりむしろ種族でだいたい限界が決まっている。

 例えば、ニンゲンは絶対に全ての項目において500を超えることが出来ない。

 努力とかそんなものではなく、ニンゲンという存在の構造的に不可能なのだ。

 なのでニンゲンはどんなに頑張っても上級魔族を倒すのが限界である。

 ならなんでニンゲンである勇者を俺が恐れてるんだって話だが、今回は置いておくとして。

「あの二人は900を超えていないし越えられない。つまり生命魔法を使うことは出来ない」

『それは、嘘をついた、ということですか?』

「違う違う。生命魔法は教えるさ。やり方はな。でも、誰も使えるようにしてやるなんて言ってないから」

『…………性悪ですね』

「魔王的と言え魔王的と」

 さてと、この後どうするか。

 勇者たちはまだあの里にいるのか?

 いや、でも俺が魔王だって気付いていないわけだから近いうちに出ていくだろう。

 なら、しばらくここで安定した生活ができるようになってからあの馬鹿に会いに、いや、むしろ呼ぶか?

 あ、でも、それで勇者が勘付かないとも言い切れないし、うーん。

 とりあえず、もうしばらくは魔王でいるしかないか。

「面倒だなー。勇者さっさとで死ねよー。いくら神が関わってるからって、神!! 忘れてた!! アイツら(うえ)から俺を監視できるんだった!! くそ!! 地下シェルター引きこもり計画がパァだ!! となると、なるべく急ぎで別の場所に行って、神どもの目が届かないようにして、…………あー、もう! 今日はもういい!! 明日だ明日。今日はとりあえずご飯食べて寝よう」

 俺は思考放棄してアリスンとヴィランを待つことにした。

 






 そして、今日が終わった。

『おそらく、迷っているか、何かあったのだと思いますが』

 と、いうフォンの声が空きっ腹に響いて、お腹を抱えながら眠ることになった。 


 キュゥーー


 と腹が鳴る。

「おなか、すいたよー」

『ま、マスター!? あまりの空腹に幼児退行ですか!? なんという萌えヴォイス!!』

 フォンの無駄に興奮した声を最後に、俺は自らに魔法をかけて無理矢理眠った。





 

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