六日目~あぁ、シリアスは何処へ?~
おわぁ!!
時間が!!!
過ぎてます!!
こんな作品ですが待ってくれていた人はありがとうございます。
朝。いや、まだ日が昇ってすらいないから朝でもないか? まぁ、なんでもいい。
俺は一人、スカーリッチの住むであろう場所を目指し歩いていた。
『マスター、もう少し先の分かれ道を左です』
「はいはいっと」
フォンのナビ(生体反応、魔力反応を探知している)に従って歩いていくと、なかなか立派な洞窟に着いた。
「ふむ。こんなとこに住んでるのか。リッチのクセに贅沢なやつめ……」
『マスター、偏見です』
うっさい。
さて、とりあえず着いたことだし、目的を果たすとするか。
俺は洞窟の中を突き進んだ。外見で立派だと思ったとおり、中には何故か一匹も生物らしきものがおらず、そこそこ清潔っぽい。
「リッチのくせに……」
『マスター、完全な偏見です』
フォンと共に軽口を叩きながらドンドン進む。
もっと進む。
さらに進む。
深いよ! どんだけ長いんだこの洞窟!
『マスター、おそらくこの洞窟は』
「あー、多分リッチ達が造ったんだろうさ。いい加減疲れる」
忘れてもらっては困るが、俺は体力が無いのだ。正直、もう歩きたくない。
移動のための魔法を使おうとしたところで、奥に扉が見えてきた。
「こ、コイツら……扉までなんて贅沢な……!」
『マスター、ですから偏見です』
洞窟の奥になぜか存在する扉はなんというかこう、重厚感?高級感?とかが溢れる無駄に凝ったディティールによって俺を卑屈な気分にさせていく。
なんでコイツらリッチごときがこんな所に住んでいて魔王である(元)俺がその日暮らしの宿屋生活なんだ?
『マスターがプライドを捨てて城から逃げ出したからです』
それもこれも全部、神のせいだ!!
『マスター、勇者のせいとすら言わないとは……』
うっさいな、チキンですけどそれが何か?
俺は自分の命が何より大事で勝てる戦いしかしないんだよ。
よって、勝てる戦いは進んでする。
「壊そう。このドア。ムカツクから」
『マスター、もはや魔王のすることではなく、ただの小悪党です』
はっ! それがなんだって言うんだ!
幸いなことにこの洞窟には結界が貼られていて余程でなければ外部に魔力が漏れることがない。
たかがリッチのクセに、生意気だったことを恨むんだな!
「喰らえ! 魔王技、閃華烈光脚!!」
魔王技とは、即興でカッコイイ名前とかを考え出して叫ぶ攻撃である。
今回のはただの飛び蹴り。
前から見たらスカートの中が見えるので主に人気がない場所でしか使えない。
いい加減ワンピースは着替えるべきかもしれない。
無論、今の身体はかなり貧弱なので魔力により足をコーティングし、風魔法で速度を上げて威力を高めている。
俺の頭の中ではズガァン!とかボカァン!などの効果音が出ることを想像していた。
が、聞こえてきたのはかなり予想外の
ヂュルン!
というもの。
そして
ガン!
という音とともに曲げていたもう片方の足へ衝撃が来る。
「ぐぉおおおお!! ひ、膝小僧がぁあ……」
そう叫ぶ俺だが、もっと大変なことに気付く。
攻撃した方の足が、
「か、壁を貫いているだとぉ!?」
そう、さっきの音はどうやら俺の足が壁を貫いてしまった音らしい。
~扉の向こう側~
「博士! 突如ドアから足が突き出てきました!」
「なに!? どういうことだね!?」
~魔王様~
今、俺は片足を上げたままの格好である。
「ちぃ、威力があり過ぎるのも考えものだな。ケチらず全身を魔力で覆えばよかった……」
そうすれば足だけでなく全身で壁抜けが出来たからな。
『マスター、技名を叫びながら、こんな結果で、恥ずかしくないのですか……?』
「言うな!!!!」
わかってるさ!! 自分がどんなにカッコ悪いかぐらい!
~扉の向こう側~
「ふむ、どう思う助手よ」
「いえ、なかなかに見事な御御足だと思います博士」
~魔王様~
とりあえず、足を抜こう……。
「よっと。……ぐぬぅ! おら!」
ズルンッ!
ガン!
「ごはっ」
あ、頭がぁ……。
『マスター、さんざん力を込めて抜けなかった挙句、片足の踏ん張りが不足で滑り頭を地面に打ち付け上半身だけで転げまわるなんて……素晴らしい萌え行動ですね』
うっさいわ!! 説明するな!
~扉の向こう側~
「ぷ、プルプルしてますね博士」
「うむ……。ピクピクしておるな助手よ。生きてはいるようだ」
「触ってみますか?」
「…………」
「…………」
さわり
ガン!
「ぐはぁ!」
「博士ぇ!」
~魔王様~
「うぉわ!?」
今、嫌な感触が……。
『マスター、どうしました?』
「向こう側の何かに触られた気がしたからその何かを蹴っただけだ。それよりどうして俺の足は抜けないんだ?」
『どうやらこの扉は自己再生能力を持っているようです。マスターの足の周りが徐々に再生され、隙間が埋まってしまったようですね』
成る程。
なら俺の貧弱な力ずくは不可能だな。
魔力ずくでいくか。
「風魔法で吹き飛ばしてやる……。ひっついてる俺ごと飛ぶといけないから片足は土魔法で地面に固定するか」
『マスター、大丈夫ですか?』
「あぁ、もちろん身体が裂けないように魔力でなんとかする」
ふん、奥にいる奴らにこの扉をぶつけてやるぜ。
~扉の向こう側~
「む? なにやらこの足から莫大な魔力を感じる……」
「ですね……。なんなんでしょうか?」
「どうやら扉前に侵入者がいるらしいな。恐らく蹴破ろうとしてこうなったのだろう。間抜けな奴だ」
「流石は博士! ではトラップを発動しますか?」
「あぁ、地面が飛び出て相手を潰すやつだ」
「了解です」
~魔王様~
「よし、固定完了。あとは、扉めぇ! ぶっ飛べ!!」
俺は扉を吹き飛ばすため風魔法を放つ。
これで綺麗に向こう側にいる奴らを巻き込みながら足が扉から抜けるはずだった。
ボンッ!
「なにぃ!?」
魔法を放った直後に地面が飛び出すまでは
バガァアアアン!!!
と音を立てて俺の最高レベルの風魔法が扉を向こうに吹き飛ばす……俺と、固定していたのに何故か飛び上がった地面ごと。
モチロンだが、扉の大きさは地面ごと通り抜けられるような訳がない。
足がちぎれる!
しかし、そこは腐っても魔王だった俺。
素早く状況に対応し、固定化されていた地面を離して通り抜ける。
やはり扉ごとだが……。
「く、喰らえぇ!! 広範囲・閃華烈光脚!!」
~扉の向こう側~
「ば、馬鹿な! 扉ごt!?」
「そんな! なんてまりょk!?」
バゴン!!
~魔王様~
今の俺の立ち姿に音を付けるならこれだろう。
ドドン!
『マスター、片足に扉を着けたまま大股開きでそのように格好つけても無駄です』
ほっとけ!
さて、とりあえず扉を今度こそ、足から抜いて、扉の向こう側の奴ら改めリッチ(スカーリッチなんて種類は魔族にはない)達に自己紹介をしよう。
「お前ら、俺が誰か解るか?」
魔力を全身に漲らせて睨みながら問う。
「はぁ……(おい! 知ってるか助手!?)」
「えっと……(し、知りません博士! にしてもすごい魔力ですね)」
「………………」
『マスター、今の姿では魔力が幾らあってもマスターを魔王だと認識するには無理があります』
く、悔しくなんかねーし!
「あー、俺は、魔王だ。いや、だった」
「ま、魔王、様……ですか?(おい助手! 魔王様は幼女、いや、少女だったか?)」
「はぁ、魔王様……(いえ、確か性別は雄だったと思いますが……)」
どうやら納得しきれていないらしいな……。
まぁ、いいか。
「そうだ。今は訳あってこんな姿になっているが正真正銘の魔王、だった。納得いかないか?」
「い、いえ。その魔力量からして魔王様であると納得いたします」
「そうか」
「はい。ですが、何故魔王様がここに? ニンゲンの勇者との戦争の真っ最中では?」
こ、コイツら!!
まさか、俺が反則存在から逃げたことを知らないのか!?
ちぃ! 流石は研究一筋で世間知らずなリッチだな……。
「あー、それはだな……」
せ、説明するのか?
俺が?
自分が逃げたことを?
「えー、と」
誤魔化すか?
いやだが、どうせ外に出ればすぐにバレる。
「はい」
い、言うしか、ないの、か……。
「……げた…………」
「はい? すみません。魔王様。よく聞き取れませんでしたので、もう一度お願いできますでしょうか?」
「…………げたんだよ」
「へ?」
「だぁーから逃げたんだって言ってんだろ!!!? 悪いか!!!!????」
真っ赤になってキレる幼女の姿が、そこにあった。
『ま、マスター、なんてかわゆい……』
うるっせー!!!!
「えー、その、」
リッチどもは髑髏な顔を俺から背けて言いづらそうにしている。
そんな姿を見て、俺の中の何かが切れた。
「んだよ!! いーだろーが別に!!! だってアイツら反則なんだもんよ!! なんだよ運命が味方についてるとか!! どんなに頑張っても勝てねー存在だってイヤでも判っちまうんだよ!! 眩しいんだよ!! 怖いんだよ!!」
俺は、自分の中から今まで溜め込んだ何かが流れ出ていくのを感じていた。
そして、俺は、泣いていた。
「会った瞬間判ったよ……! 無理だって。 自分の目で直接見ると体が震えてきて、逃げたくて逃げたくてたまらないんだよ!!」
『マスター……』
フォンがなにか言っているが無視だ。
「死にたくないんだ俺は!! 生きて生きて生きたくてたまらないんだよ!! 誇り?尊厳?そんなもの! 命と比べれば全てが紙屑同然だ!! 意味がない、そう、意味が無いんだよ」
自分の命の前では全てがゴミだ。
他人のことなんて知らん。
プライドがなんだ。
全ては自分の命があってこそだ。
「だから逃げたんだよ。 俺は魔王だ。 勇者みたいな逃げない勇気なんてない。自分の命が一番大事な魔王なんだよ。だから、いいだろうが。逃げたって」
『…………』
「「…………」」
全員が何も言わない。
いや、正直、自分で作っといてなんだが、なにこの空気?
え? 途中から気が高ぶったせいで涙を流して俺の考えをさらけ出していたが、なにこれ?
「と、とりあえず、そんな感じだ。解ったか?」
「はい、すみません魔王様」
「いや、わかればいい」
なんで急に殊勝な態度になってんだ?
いや、こっちもそのほうがいいか。
「あー、とにかくだ。俺はお前らと取引をしにきたんだ」
「取引、ですか」
そうそう。
当初の目的はそれだ。
勇者がこの里にいる理由は目の前のリッチだ。
つまり、コイツらが消えれば勇者がここにいる理由も消えて俺は平穏を手に入れる。
「あぁ、単刀直入に言おう。今すぐここから出て行け」
「は?」
後から来た勇者には獣人女(名前忘れた)経由で俺が一人でさっさと退治したと伝える。奴らは恐らく俺に会いに来るだろうが、戦いで怪我したとか言い訳を作ればいい。
あまり長い時間ひとつの場所に留まれないはずだ。
奴らがここを離れたが最後、二度と会わないだろう。
完璧すぎる。
これが昨日夜遅くまで考えていた作戦である。
おかげで寝不足となってしまった。
「それは、正直、簡単に承服はしかねますな。我々もこの場所を造るのにかなり手間をかけていまして。……取引というからにはなにか対等なものをお持ちで?」
「対等? 対等どころかお前らにかなり有利だろう。今もそれを与えている」
「えー、どういうことですかな? 我々にこの研究所以上のものを、既に与えている、と?」
「モチロンだとも」
何を言ってるんだコイツらは。
さっき俺が言ってただろうが
「お前らの命だ」
「な!!」
「っ!!」
掌を掲げ、その上に魔力が渦巻くようにかき集める。
方向性の与えられた魔力は周りに無駄な被害を与えず、ただ強大さだけを示していく。
「俺は、さっき言ったように自分が一番大切なんだ。わかるか? つまりお前らを今すぐ殺してしまえば意味は同じ。それをわざわざ選択させてやってるんだよ。ここから消えるか、この世から消えるか」
『ま、マスター!!』
なんだようるせーな。今いいところなんだが。
『今、物凄く、ものすっごく魔王っぽいです!!』
フッ、知ってる。
「う、うぅ、なんて魔力なんだ……。我々は……」
「博士、この研究所は……」
リッチ達が何かを選ぼうとしたその時。
パキパキパキ
と奥から音が聞こえてきた。
「なんだ今のは?」
「ま、まさか!」
リッチ(博士)は髑髏の顔に焦りを浮かべて奥へ走り出した。
そして
「い、いかん!! 魔王様の魔力に当てられて、研究番号2228578が暴走している!!!」
「そ、そんな!! 以前暴走した222785の三倍の魔核エネルギーの2228578が!?」
え? なにそれ。
「退避! 退避だぁあああああああああ!!!!!」
「うわぁああああああああああああああ!!!!!」
突如として洞窟の出口の方に疾走するリッチ達。
えっと。
「いみがわからn「カッ」っうわ、眩し!」
奥から閃光が放たれ、嫌な予感に駆られた俺が全力全開の防御魔法を構築した瞬間。
ドッゴオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンンンン!!!!!!!!!!!!!!
大爆発が起こった。
その後、見事リッチを一人で撃退した俺は獣人女に報告し、勇者に伝えるように頼んだ。
途中、「あんた、妙に煤けてないかい?」とか言われたが無視した。
今はとにかく帰って休みたい。
その日、俺は宿屋へ着くと魔法で身体を洗った後にベッドへ倒れるように眠りについた。
まったく、フォンのおかげで命拾いする日になるとはな。
複雑である。
余談だが、勇者達はその後大爆発を起こした中心でなぜかほぼ無傷な円形の場所があることを発見。
この爆発がスカーリッチ達のものとして、スカーリッチへの脅威度が上がった。
しかしその場所も周りと比べれば無傷なだけでそこそこ被害は大きかったのでスカーリッチ達は自分の魔法で消し飛んだとされている。
このリッチーズ、消すのには少し惜しいキャラかもしれません。
物語に加わらせるか、迷ってます。
形は変わるかもしれませんが、どうでしょうか?