五日目~勇者と『私』~
今回で何人かの人がこの作品を見捨ててしまうと思います。
悲しいですが、コレは私の趣味なので認められなくても仕方がないのかもしれません。
TSで一人称が私になるのは邪道ですか?
本質は変わりませんし、すぐに元には戻りますけど。
いや、それとも結構普通ですか?
「おい、起きろ」
俺は誰かに揺さぶられる感覚で意識が覚醒……一歩手前になった。
「うぅ……ぅっ!? ぅぐぅ……。うー…………」
『マスター、起きないのですか?』
うーあー。
ダルイ。
起きる瞬間が一番嫌いだ。
すごくダルイ。
「はぁ、よっと……セイァッ!」
「!?!?!?!?」
ズムッ!
と音を立てて今さっきまで俺が寝ていた顔の部分を通過した獣人女の踵が地面に埋まった。
お、おぉぉ。
「死ぬわ!!」
「大丈夫だったじゃないか。だいたいアタシの攻撃くらい当たっても大丈夫だろ?」
いや普通に死ぬから。
頑丈さも表す『体力』がニンゲンの四分の一なんだぞ?
見たトコ獣人だけあって明らかにニンゲン超えてるし……。
そんなの当たったら顔面陥没した挙句、首折って死ぬから。
普通に即死コースだ。
「あーー、一気に目が覚めた……」
「そりゃあ、よかったね。さ、早く行くよ。もう野宿は嫌だからね」
「はいはい」
「自分だけ空中で快適に寝て……」
あ、やっぱ寝にくかったのか。
はぁ、移動しながら顔でも洗おう。
嫌な汗かいちまった……。
「なー、まだなのかー? 結構移動したと思うんだけど……」
俺は隣で走る獣人女にふわふわ浮かびながら声を掛ける。
「はっは、そうっだな。はっはっは、もっ少し、はっは、だ」
走りながら答えているので厳しそうだ。
『マスター、わかっていて声を掛けるのはどうかと思います』
いいじゃないか別に。
俺は魔王だぞ? 他人なんか気にしないのさ。
『マスター、元が抜けています』
うっさい。
もう少しねぇ……。
暇だ。
何か面白いことでもないものか。
「秘境の里ってどんななんだ?」
とりあえず無難に目的地のことについて尋ねることにした。
「へー、はっは、えっと、は、そだな、あー、あれだ、っはっは」
走りながら必死に答えようとする獣人女。
あら、意外に健気なの。
『マスター、普通に性格悪いです』
だからうっさい。
「っはっは、認識阻害の結界が張ってある」
「へー、認識阻害の結界……」
…………。
認識阻害の、結界?
「え……マジで」
「っはっはっは、どした?」
「な、なななななんでもない!」
え? ウソ?
違うよねそうだよね。
『マスター、現実を見てください』
嘘だ!!
きっと何かの間違いだ!
と、とにかく、里に着けば全てわかるだろう。
結界内部は効力無いし。
もし、そうだったら……、もうアレを使うしかない。
『マスター?』
出来るなら、使いたくないんだよなぁ、アレは。
はぁ。
内心に多大な不安を抱えながら俺達は秘境の里を目指した。
秘境の里は思っていたよりも発展していた。
普通に街々しい村って感じだ。
が、そんなことより。
…………いた。
いましたよ奴らが。
そう、勇者ご一行が。
そりゃあね、途中から不自然に反応消えたからなにかあるんだろうなー、とは思ってましたよ?
でも、これはなくないですか?
なんで逃げた目的地に来るの?
追跡能力高くない?
運? 運なのそれ?
反則過ぎるってそれ。
俺よりもお前らが死んだほうがいいよ。
バランス的に。
「ほらアンタ、着いたんだからとりあえず長んトコ行くよ。……はぁ、でもまぁ、もう勇者様が来てくれたしほぼ無駄かも知んないけどさ」
「うん……」
里の人々は勇者様が来てくださったとかでかなり騒いでいるので探知能力が無い獣人女も勇者来訪はわかったようだ。
とりあえず、勇者と長のトコで鉢合わせしてしまうのは不味い。
髪の色が変わってるだけで他は変わってないんだ。
なにか余計な疑いがもたれてしまうかもしれない。
いや、もしかするともうバレているのかもしれない。
仕方ない、あの魔法を使うか……。
『マスター、≪存在固定≫で姿は変えられませんが』
あぁ、知ってるよ。
でも、≪存在固定≫は外部変化のみだってことを最近知ったんだよ。
つーかフォン、お前の存在がまず邪魔なんだけど。
『私は能力の一つの≪希薄化≫によって任意で姿を消すことができます』
あっそ、ならいいや。
「おい、ほら行くよ」
「あ、うんちょっと待って頼むから」
「? 仕方ないなぁ」
さてと、まずはこのクソ長い髪を前にやる。
今まで顔に掛かって鬱陶しかったので後ろに流していたのだ。
すると俺の顔は髪の毛で隠れた。
さらにその上から目の部分に認識阻害の魔法をかける。
目元が完全に見えなくなった。
これで一瞬でバレるとはないだろう。
次が最も重要。
性格を作る。いや、人格といったほうが正しいか。
『マスター、意味がわかりません』
考えてみろ。
勇者だぞ?
普通に誤魔化してなんとかなる相手じゃない。
『はぁ、ではどうするので?』
完全な他人になる。
あぁ、少し話しかけるな。
この魔法はかなり集中力を使う。
すぅー、はぁー。
…………よし。
「生命魔法【魂源変化】」
イメージしろ。
俺の今を。
俺の人格を。
俺を。
俺の魂の性質を変えろ、俺を、変えてしまえ。
「決定。魔法、発動」
自分の魂から溢れる『力』としか言えないモノを、コントロールする。
その『力』の性質を変えていく。
少しのミスで俺の、魂は壊れるから、少しずつ慎重に。
『…………マスター?』
焦るな。
まだだ。
得意属性は、闇でいいか……。
「おい、なにして?」
だいたい、出来てきた。
このぐらいでいい……。
そして
パァーーー
と、俺の、体がはっ……こ……うし…………。
…………………………
……………………
………………
…………
『、マスター!?』
……呼ばれてる。
「おいアンタ! 大丈夫なのかい!?」
呼ばれて……あぁそっか。
私あれを使ったんだっけ。
あはは。
どうせこんなことしてもすぐバレるよね。
なーに無駄な努力してんだろ私。
『マスター、目覚めましたか』
あぁ、はい。
目覚めました。
今まですいませんでしたフォンさん。
私なんかがあなたを怒鳴ったりしたりして。
『マスター?』
「おい、アンタ? 急に倒れたけど、大丈夫かい?」
「はい、大丈夫です。私程度がご心配をおかけしました。申し訳ありません。あぁ、何やってんだろう私。依頼主様に迷惑かけるとか……死んだほうがいいかもしんない。今まで意地の悪いこともいっぱいしちゃったし……本当にすいません」
「は?」
『マスター、どうしたのですか?』
「アンタ、どうしたんだい? かなり変わったけど」
「あぁ、はい。ちょっと魔力の質を魔法で魂ごと書き換えました。で、性格とかもそれに伴って変わっちゃいました。……すいません」
『……なるほど。先程の魔法はそういうことでしたか』
「な! 魔力の質を変えるために魂を弄るって……」
「書き換え、です。……そのせいでこんな性格になってしまって……すいませんうざったいですよね私。でも一時的なので安心してください。あ、でももし我慢できなければ離れてますよ? むしろ死んだほうがいいですか? すいませんそれは勘弁してもらえると」
「いや、いいよ……。その、アンタ、すごく暗くなったね」
「はい。そうですね。私、なんだかネガティヴにしか考えられなくなってるので。あぁ、すいません。私の声なんてウザイですよね」
『マスター、もう魔王を完全に見失ってます』
魔王……?
そうだよね。
私なんて下っ端魔族Aで十分だよね。
「とりあえず、普段と区別するために私のことはウランではなく『ネラン』と呼んでください。あ、すいません私なんかがお願いして……。その、できればでいいですから」
「アンタ、ネランってもしかして……」
「ネガティヴなウラン。略してネランです。あぁ、単純ですいません。あまり複雑に考えられるような頭ではないですので」
『マスター……』
「とりあえず、なんでそんな魔法使ったとかは置いとくよ」
「あぁ、すいません。明日には多分治ってますから」
「うん。じゃ、長のとこ行くよ?」
「はい。どうかこんな私程度で出来ることであるならこき使ってください。うふふ、どうせ失敗続きになりますけど。すいません」
『マスター、不憫です』
すいませんフォンさん。
あぁ、なんか、生まれてきてすいません。
あぁ、眩しい。
この扉が眩しすぎる。
いや、正式にはこの扉の奥にいる存在が。
開いた瞬間私の存在ごと消滅するんじゃないかって思うよ……。
獣人女さんに連れられて私は長さんの家に向かったんだけど、その、勇者が、いるんだよね。
だ、大丈夫だ私。
生命魔法【魂源変化】で魔質ごと変わってるし……。
魔質は個人の魂によって違う。
そして同質の魔質を持つ存在はこの世には絶対に存在しない。
どんなに似ていてもこの世に全く同じ存在などいないからだ。
つまりは魔質とは人を見分ける絶対基準なのだ。
だから全ての探査魔法は簡単に言えば『魔質を探る』という行為からなってる。
そして探査魔法に対抗する手段として、高位の認識阻害魔法は姿形だけではなく、自分の魔質を偽ることが出来る。
でも、私が、『俺』が長年の研究で生み出した生命魔法【魂源変化】は魔質を『偽る』のではなく、『変える』のだ。
それはおそらく『俺』が史上初めてのことだろう。
なにせ自分を全く別の存在へと『変質』させるのだ。
魂の書き換えだからかなりの精度とかが必要だけど。
だから、どんなに優れた探査魔法でも無駄。
そう、無駄、なんだけど……。
『マスター、いつまで扉の前にいるのですか』
「早く入りなよあんた。長たちがまってるだろ」
うぅ、やっぱり、無理だよ……。
だって、この時点で私、溶けそうなんだよ?
扉を開けたら五秒で消し飛ぶよ……。
『マスター、一度騙せたのですから、大丈夫です』
だって、初めての時は相手に魔質とか全く知られてなかったし、姿を変えるだけで大丈夫だったけど……。
あぁ、今すぐ逃げ出したいな……。
そもそもなんでこんな所に来たんだっけ?
……あれ?
勇者から逃げるタメだよね?
ならちょっとこの状況っておかしくないかな?
…………うん。
「あー、もう。どうしたんだ?」
………………逃げよう。
「あ、すいません。こんなゴミのような私ですが、トイレに行かせてもらえないでしょうか?」
「え、あ、うん」
『マスター、とうとうそこまで……』
すいません獣人女さん。
私、逃げます。
こんな私ですが、自由への逃亡を決行します。
トイレの位置を聞いてクズな私は逃げ出した。
すると
ドンッ
髪で前が見にくくて誰かにぶつかったようだ。
あぁ、愚鈍な私が、すいません。
「すいませ……」
「いや、いいよ。こっちこそゴメンね? 大丈夫だった?」
相手を見ると一瞬、吹っ飛ばされた。意識が。
「ん? どうしたの?」
勇者がいる。目の前に。
勇者さん、こんなちっぽけな存在をそんなに滅ぼしたいですか?
「おーい?」
誰か、助けて……。
『マスター、諦めてください』
「そんなわけで、我が里はスカーリッチの集団に襲われております。一応、この里にはそこそこな実力者たちがいるのですが、ただのリッチではなく、傷付きでは相手が悪いのです……。魔王が勇者様から逃げ出したのにまだ魔族達は勢いが衰えないとは……。魔王は存在が害悪なのですね。厄介な奴です」
いや、そもそも私、魔族の頂点なだけで統率とかしてないよ?
だいたいスカーリッチって魔法研究の暴発で爆発起こして傷が出来てるだけだし……。
というか
「それで、勇者様、どうか」
「はい、任せてください。スカーリッチ達なんて勇者様が消し炭にしてくれますよ。ね?」
「え、あぁ、うん」
なんで?
なんでこっち見てるの勇者様。
あ、目障りですか?
目障りですよね。
大丈夫。
もう私、消えかかってるから……。
「あの、さ」
うひぃ!!
ゆ、ゆゆゆゆゆゆーしゃさまが!
私に話しかけてきてるよ?
どうしよう。
どうしたらいいですかフォンさん?
『マスター、普通に返事を返せば良いのではないですか? あと、挙動不審気味ですマスター。落ち着いてください』
む、むむっむ無理!
だって、ただでさえ『俺』の時よりメンタルが低くてネガティブな『私』だから……。そう、ゴミのような私。
「な、なんでござござございましょうか?」
「緊張しなくていいよ? 勇者といってもただの人なんだから」
嘘だ!!!!!!!!!!
ただの人がそんな直視した瞬間即死級ダメージを与えられるようなチカラを持っているはずないよ?
「えっと、君もリスティさんから依頼されてスカーリッチ討伐に参加するんだよね?」
「はい。こんな弱小な私ですが、一応……」
「いえ、そんなことありませんよネランさん。直視していても私が魔力を薄くしか感知できないような認識阻害魔法を常時使用しているのですから」
ちなみに、自己紹介はすでに済ましてる。
獣人女さん、改めリスティさんから紹介される前に「ネランです。闇魔法使いです」と一言。
リスティさんからは偽名使ったことになにか言いたげだったけれど、私ごときの名前を正しく知る必要なんてないんじゃないかな。
「そうだぜぃ? 聖女であるミリティアちゃんが感知しにくい魔法が使えるなんてぇのは弱小じゃあないさぁ」
「バロルの言う通りだ。相当の実力者と見受ける。常時使用ということが気になるが」
そう言ってこちらを少し睨む勇者の仲間その1さん。
やーめーてー。
そんな目で見ないで。
「あ、あははー」
とりあえず笑って誤魔化す私。
もうなんていうか、死んだほうがいいのかも……。
「ルーウェン、きっと色々と事情があるんだよ」
と、フォローしてくれる勇者さん。
ありがとうございます。
でもあんまりこっち見ないで。
視線だけで殺されそうだから私。
魔王? ナニソレ?
私なんて子インプにも劣るから。
最弱だから。
『マスター、これ以上、ご自身を傷つけないでください』
あぁ、フォンさんすいません。
私ごときの存在に装備されて。
『マスター、落ち着いて、落ち着いてください』
はっ!
危なかった……。
また自虐ループでネガティブの底に沈むところだった……。
「ふむ。まぁ、いいが」
いいなら言わないで!
いたずらに私のガラスハートを神の大槌で粉砕するような行為はやめてよ……。
「では、勇者様。着いてすぐではお疲れでしょう。明日に討伐をお願いします」
「えぇ、わかりました。あ、そういえば、ネランも僕らと一緒に行くんだよね?」
無理ですやめて不可能です死ぬたすけて壊れる消える溶ける浄化されるから!
「いえ、その、べ、別行動を、できたらなぁ、なんて」
「え、どうして?」
「あ、はは。わ、私、その、戦ってるところを、み、見られたくないのですよ……」
「ほう、それはあれか? 戦力の秘匿なのか?」
「そ、そう、そうです」
お願いだから理解して!
戦闘中の勇者様なんて見たら私、召されますから。天に。
「うーーん。そう、だね。最近過保護過ぎるって注意受けたばっかりだし、ネランは見た目は小さい女の子でも強そうだからね。わかったよ」
え、理解、してくれた?
うそ……。
明日死ぬんじゃないかな私。
「は、はい。それでは今日はこれで。明日、お互い頑張りましょう。」
そう言うと私はその場から即座に逃げ出した。
前が見えづらくて何回かコケたけど頑張ったよね、私。
もう、ゴールしても……いい?
なけなしのお金で宿をとった『俺』は、明日のことを考えていた。
リスティ?
知らん。どっか行ったしアイツの役目は果たしたからな。
これ以上干渉しようなんて思わない。
「ふぅーーーーー。上手くいったな。さすが俺だと思わないか? フォン」
『マスター、戻ったんですね』
あぁ、宿でベッドに倒れ込んだら戻った。
勇者のせいでかなり不安定になってたからな。
性格にズレが生じかけてたし、いつ戻るかヒヤヒヤしてたぞ。
『マスターがその魔法を避けたがる理由がわかりました』
だろう?
全く、有り得ない程プライドが低くなるからな。
『え?』
え?
『…………』
…………。
『…………そうですね』
なんだよ?
『いえ』
はぁ、にしてもスカーリッチ討伐ねぇ。
他の魔族の動向なんて知らんぞ。
なんでもかんでも魔王魔王魔王。
ニンゲンどもめ。
そのうち老衰まで俺のせいにする気だな?
「あー、くそ。涙出てきた」
『マスター……』
そんなに俺の存在が悪いのかよ……。
『マスター、私は』
俺が何かしたか!?
ちょっと試作品の魔核兵器を王国に試しただけだろうが!!
『…………』
ん? どうしたフォン。
『マスター、自業自得という言葉を知っていますか?』
は?
そして、明日のことを計画しながら夜が更けていった。
魔王ェ……。
いつにもましてヘタレな魔王はどうでしたか?
魔王様は勇者の仲間達の名前を覚えません。(※関わりたくないから)
魔核兵器によって王国に大きなキノコが出来ました。
しかし爆発だけなので副次的な作用はない……ハズ。
魔王様はかつて、暇潰しに何かを作ったりしてました。