転移者を見かけたどそのまま馬車で通り過ぎたから婚約破棄をされた令嬢の話
「おーい、誰か!」
森林の中の道を通っていたら、呼びかける者がいたわ。
光沢のある服で上下同じ色。白い線が入っているわ。
見たことのない服に・・・・ここは盗賊の出る森だわ。
「お嬢様、如何しますか?」
「ここは危ないわ。そのまま行って」
「はい、お嬢様」
そのまま通り過ぎたわ。
あれは盗賊の斥候かもしれない。
そして、数日後。お母様が社交会で得たとんでもない情報を教えてくれた。
「黒髪族が出たのよ!何でもチート能力を持っているらしいわ」
「まあ、そうですの?」
じゃあ、私が見たのは?
「じゃーじという物を着ていたわ。隣の領地のサミエル子爵が拾ったのですって・・」
「そう・・・」
「高等遊民級らしいわ」
「まあ、女好きなのかしら・・」
「これ、ミッシュル、はしたないわ。そうでない方もいるわ」
黒髪族、遠い国から来た。女神様の御許から来た。異世界から来た。と諸説あるわ。
かなりの確率でじゃーじという服を着ているのは十代で高等遊民出身だそうだわ。
それから私の評判が悪くなった。異世界人が私が助けてくれなかったと言うからだわ。家門の紋章から分かったようだわ。
「まあ、ミッシェル様、異世界からの客人をそのまま森においておいたそうよ・・」
「ヒドいわ。女神様にお会いしたかもしれないのに」
そして、婚約者からも・・・
「すまない。父上からサミエル家の令嬢と婚約を結べと家長命令が出た・・・」
「そ、そんな・・・」
「後で話合いがある。補償はきちんとするよ」
グスン、グスン、私は泣き暮らしたわ。部屋に籠もって一日中過ごす日々が続いたわ。
「お嬢様、何か食べないと体に悪いですよ」
「・・・グスン、ササキ、放っておいて」
「では、ドアの前に置いておきます。必ず食べて下さいね」
彼女は屋敷の庭園にいつの間にかにいた子だわ。海軍の制服のような物を着ていたので上級平民としてメイドとして雇ったわ。
そうだ。
「ササキ、馬車を出して、まだ黒髪族がいるかもしれないわ」
「分かりました。でも、その前にお食事を取って下さいね」
家門の方々に内緒で馬車を出してもらった。
「あら、遮光器変えたのかしら・・・」
「ええ、そうです」
「そうね。貴女も黒髪、黒髪族だったら良かったのに・・・」
「いいえ、私はただの平民の村娘ですよ」
彼女は生まれつ付目が光りに弱いので、北国の民が雪の光から目を守るためにつけている遮光器が必須だわ。
木の板を眼鏡のようにつけ。木の板には一本の横の孔が掘られているわね。
「ええ、御者をやるので少し孔が広いものです」
「いいわ。私も御者台に上るわ」
馬車で森に向かうが・・・
「見つかりませんわね」
「お嬢様、いませんね」
「お嬢様、ちょっと釣りに行きませんか?」
「こんなところで・・・」
「いいから、気に入らなかったら帰りましょう」
「私、餌の虫は苦手ですわ」
「大丈夫です。餌はいりません」
森の奥に小さな池があった。
「ここにマスがいるのですよ」
「そう・・・」
「これが疑似餌です。これが竿です。ラインはこの世界では苦労しました。ツタを乾燥させた物です。フライフッシングという北国の釣りですよ」
「そう・・この世界?」
「ゴホン、それよりも、まず。姿勢は気をつけして、竿を上げて、礼です」
「こうかしら・・・」
ポチャンとラインが飛び池に浮かぶ。
バシュ!
「釣れたわ!」
「お嬢様、すごい。一度でだなんて・・」
それから釣りをするようになったわ。
今日はラインにマーカーをつけて浮きを使った釣りのように遊ぶ。
ただ水面を見るのもいいわね。
「お嬢様、大丈夫ですよ」
「そう・・・社交会で私はヒドい女だって・・・」
「普通、盗賊の一味だと思いますって」
その時、草をかき分ける音がしたわ。
「みーけ。女が2人だ!」
「ヒーヒヒヒヒヒ、ひんむいてやる!」
ヒィ、盗賊だわ!
「ヒィ!」
私は目をつぶったわ。震えて足腰が立たない・・・・
しかし、盗賊の声がこわばってきたわ。
「・・・おい、その遮光器は・・・異世界人だ・・・」
「待て、改心した。改心した・・・だから・・・殺さないで!」
「言ったよね。一度は家族がいるから許すって・・・もう二度としませんと」
バン!バン!バン!
雷が乾いた音がしたわ。
カランと音がする。
「ヒィ!」
目を開けると盗賊の2人は倒れていたわ。少し焼けたような匂いがするわ。
「何があったの。ササキ!」
「あの、異世界人が突然来ましたね。軍事系の異世界人だと思います」
「嘘・・・是非、当家に来て欲しいわ・・・いえ、もういいの・・・」
異世界人は襲われている令嬢を助けると云うは・・・
助けて出てこないと言うことは・・・何か事情があるのかしら。
「お嬢様、大丈夫ですよ。さあ、帰りましょう」
「ええ、そうね・・・」
死体は衛兵隊に場所を教えたわ。
鉄のツブテが貫通しているとのことだわ。
明らかに異世界の軍事級と判断されたわ。
それから森で大捜索が行われたけども異世界人は出てこない。
軍事級が出たとのことで、サミエル家も焦っているようだわ。
パーティーの招待状が来た。チートのお披露目会だわ。
「ミッシェル、サミエル家でパーティーがありますわ・・・」
「グスン、行きません」
「そうね。何でも異世界人が『まよねーず』と言う物を作ったから披露パーティーよ」
「お父様とお母様は行くの?」
「ええ、これも社交ですからね。貴族は『心を殺して微笑め』と言いますから・・」
「分かりましたわ・・・」
その時、ズドーンと爆裂魔法の音がしたわ。ロビーの方だわ。
「何事だ!」
「馬車が破壊されました!」
「何だと!」
騎士様達が警戒する・・・それ以降の襲撃はない。馬も無事だわ。
「ササキ殿、何か知らないか?」
「さあ、馬車に釣り竿とかあったから片付けました」
「そうか・・・」
結局、お父様とお母様はパーティーに行かなかった。
だが、翌日、サミエル家のパーティーに出席した者の中で大勢が腹痛を訴えた。
まよねーずという物が原因と鑑定士の結果が出たわ。
サミエル家の異世界人は牢獄に入った。
調理法を秘伝として1人で作ったのが原因だそうだわ。
「まさか、異世界の騎士様が私を守ってくれたのかしら・・・ササキはどう思う?」
「そうかもしれませんね」
いつか、きっと目の前に現われてくれると思う。
それまで・・・
「私は負けないわ」
「そうですね。きっと大丈夫だと思いますよ」
・・・卵は日本以外では生で食べられる国はごく少数だと云う。ササキがその事情を知っていたかは定かではない。
最後までお読み頂き有難うございました。




