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始まり

ここまで読んでくれて、ありがとうございます

 カタカタカタ……。

 深夜二時。ブラック企業のオフィスに響くのは、俺のキーボードを叩く音だけだった。


「春日井くん、まだ残ってるの? はは、まあ若いから大丈夫だろ」


 上司が笑いながら帰っていく。

 俺は笑えなかった。納期を守れなければ罵倒され、守っても残業代は出ない。休日出勤は当然、ボーナスは雀の涙。


 ――そしてその瞬間、俺の視界は暗転した。



「……あれ? 俺、生きてるのか?」


 目を開けると、そこは見知らぬ草原。頭の中には機械的な声が響く。


【転生者に職業を付与します……職業『村人』を獲得しました】


「は? 村人? なんだそれ。せめて剣士とか魔法使いにしてくれよ!」


【固有スキル『鑑定配信』を獲得しました】


「……鑑定配信?」


 試しに拾った石を眺めると、ステータスウィンドウが浮かぶ。

 同時に、俺の目の前にホログラムのような画面が開き、コメント欄が流れた。


《新しい配信者キター!》

《草、石を鑑定しててワロタ》

《画質いいな》


「……は?」


 どうやら俺の鑑定結果は、この世界の人々に“配信”されるらしい。



 数日後。俺は冒険者ギルドに登録した。だが、職業が「村人」なせいで笑われた。


「おい、村人が来たぞ!」

「お前みたいなのが仲間にいても足手まといだ」


 俺はパーティを組んだが、初ダンジョン探索で真っ先に追放された。


「悪いな、悠真。お前じゃ戦えないんだ」

「せいぜい、村で畑でも耕してろ!」


 悔しかったが、俺には力がない……と思っていた。


 だが配信を試したところ、偶然ドラゴンを遠目に鑑定してしまった。

 すると――


【炎竜バルドロス】

・HP:99999

・弱点:水属性、喉元の鱗に欠損あり


《え、弱点バレたぞ!》

《こんな情報、国家機密じゃね?》

《チャンネル登録した!》


 配信は一瞬で拡散され、冒険者や軍の間で大騒ぎになった。

 弱点を突かれたドラゴンは討伐され、王国の英雄たちが俺の名前を口にする。


 その結果――追放した元仲間たちが戻ってきた。


「悠真……あの時は悪かった! また一緒に戦ってくれ!」

「お前のスキルがあれば、最強のパーティになれる!」


 俺は笑った。

「いや、もう遅い。俺には配信がある。君たちに用はない」


 彼らは青ざめ、土下座した。だが俺はそれを振り切り、配信を続けた。



 気がつけば、俺のチャンネル登録者数は百万を超えていた。

 ダンジョンの未発見ルートを暴き、貴族の不正を暴き、時には料理のレシピや村の祭りを紹介する。


 配信は戦争を止め、腐敗を暴き、人々に笑顔を与える。

 俺はただ「自分の好きなことを話している」だけなのに、世界は大きく変わっていった。


「これからどうするんだ、悠真?」

 隣に座るのは、配信を通じて出会った冒険者の少女リリア。

 真面目で不器用な彼女は、俺の最初のリスナーでもあった。


「俺は……静かに暮らしたいんだ。ただ、それを配信しちゃうのが困りものだけどな」


 そう言うと、コメント欄が一斉に流れた。


《スローライフ実況きた!》

《釣り配信はよ》

《リリアちゃんとの恋バナ希望!》


 俺の異世界スローライフは、どうやら世界中に“実況”され続けるらしい。


――こうして俺は「最弱村人」から「世界最強の情報屋」、そして「スローライフ配信者」へと成り上がっていったのだった。

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