2・初仕事
仲守春達は近くの町、エルダムに到着した。
「駅から直行でダンジョンに潜ったけど、テオリアの町を見るのは初めてだな」
と感慨深く街の様子を眺める。
町並みは地球とどこか似て異なる作りで、西洋を思わせる雰囲気だった。
「海外に来た感じね。買い物したくなっちゃう」
旅行気分で辺りを見回す筱咲里実。
「俺たちは旅行に来たんじゃないんだぜ」
彼女の言葉に春は一言添えた。
周囲にはテオリア人以外に地球人も見受けられる。彼らも探索者らしく武器を持ち、仲間同士で何かを離しているようだ。
「さて、まずは探索者ギルドに寄ってみるのが良いかな」
テリオスは二人に行くべき道を伝える。
「確かに俺達探索者だからよるべきところだよな」
春達はテリオスの提案に従い、探索者ギルドへ寄ることにした。
ギルド内はテオリア人、地球人と見分けがつくように服装が違う。
「まずは席に座ってこの世界の説明をするね」
「世界の説明?」
「たしか魔法が使えて、武器にも魔力を使えば威力が上がったりするのよね」
春は首を傾げ、里実は知っている事を言葉にする。
「確かにそうだけど、これ、マトリクスプレートに魔法陣を描くことで魔法を覚えたり、オリジナルの魔法が作れるんだ」
テリオスは春達にマトリクスプレートと魔法辞典を渡す。
「これが俺の魔法の書になるのか、使うのは初めてだ」
そう言いながら指でマトリクスプレートに魔法陣を描き始める。
「知ってる魔法と言えば、バレットだな。昔テリオスが見せてくれた魔法」
この世界には火・水・地・風・光・闇・無の七つの属性があり、バレットは無の属性に入る。
「無属性の魔法陣に、バレットの魔法陣を重ね描きして、完成!」
同時にマトリクスプレートから春の体内に魔力が流れ込み、バレットの魔法を習得した。
「これ、家庭用のマトリクスプレートとは作りが違うんだな」
地球で売られているマトリクスプレートは厚みがなく、決められた魔法陣が刻まれており、魔法陣に合う属性のマテリアルオーブを与える事で家庭用として使える。
探索者用のマトリクスプレートは、魔法陣が刻まれていない多重式プレートなので分厚く、一冊の魔導書として自ら魔法を創る事が可能なのである。
「地球用に作られた簡易型よ。探索者用のプレートを使うと下手したら国が滅びるの!」
里実が教えると、春はハッと気付く。
「そういえばそうだったな。すっかり忘れてたよ」
「里実ちゃんはどの魔法を使いたいかな?」
テリオスは魔法辞典を里実に渡し、好きな魔法を選ばせる。
「わたしは魔力の矢を外したくないし、高速魔法かな」
そう言いながら、里実は拘束魔法バインドを習得した。
二人は初めての魔法習得に歓喜を見せる。
「じゃあみんなでダンジョン行こうぜ!」
仲守春は里実とテリオスを誘い、ダンジョンに向かおうと催促するが、テリオスは春の行動に注意する。
「ダンジョンも良いけど、薬草集めから始めたほうがいいかも」
異世界テオリアではダンジョン探索よりも外回りを優先する。
ダンジョン内に潜って死ぬ地球人が多いからだ。
「薬草集め? 面倒だよ」
と春は嫌がる素振りを見せるが、里実はテリオスの意見に賛成する。この町に着く前に入ったダンジョンで苦労したことを思い出す。
「簡単なダンジョンで一苦労したのを思い出しなさい。地球人のわたし達よりもテオリア人のテリオスの意見のほうが優先順位が上なの」
春は叱られた気分になるも、その回答は正しいことを思い出し、薬草狩りに向かった。
「エルダムから少し離れた場所に森林があるんだな」
春は周囲を見渡して森林浴を始めるが、足元に綺麗な植物が生えていることに気付く。
「春くん、足元にあるそれが薬草だよ」
テリオスが親切に教えてくれた。
「これが薬草?」
春は足元にある植物を優しく抜くと綺麗に輝く緑の植物に見惚れる。
「わたしも見つけた! これ、探索には必需品なのよね」
里実は詳しく話す。
「探索者ギルドに持っていくと買取してくれて、この素材がメントドリンク《回復薬》に必要なのよ」
意気揚々と答える里実。
「そうだね、メントドリンクには必要な素材だよ」
里実の答えに正解と伝えるテリオス。
「じゃあこれをたくさん集めて探索者ギルドに持って帰れば、準備は完了というわけだな」
そう言いながら周りを見つつ、薬草を探し始める。
その時、近くからガサっと音が聞こえ、三人は武器を構える。
「魔物かな?」
春の質問に里実は、
「わたしが知るわけないでしょ」
二人の疑問に、
「魔物だけど優しい部類だから安心して」
とテリオスが答える。
姿を現したのはウサギに似た魔物、ラビルだった。
「食肉魔物だ、捕えるよ!」
いち早く反応したのはテリオスだった。その反応にこたえるかのように、里実は覚えたての魔法を使う。
「アル・バインド!」
ウサギ型の魔物、ラビルは大地から現れた鎖によって縛り付けられる。
「よし、アル・バレット!」
春も覚えたての魔法をラビルに放つ。
拘束されたラビルは身動きできず、バレットを喰らい、倒された。
「一撃で仕留めるなんて、凄いね」
「そ、そうかな」
「まぁ、これもテリオスのおかげよ」
テリオスの一言で春と里実は自信を持つようになった。
「よし、探索者ギルドに戻ろう!」
春はワクワクしながらギルドへ戻る。里実とテリオスも彼の後ろをついていく。
「この薬草、いくらで売れるのか気になるわね」
里実の疑問もすぐに解が現れる。
探索者ギルドに着くと、春達は手に入れた薬草を鑑定に出す。
「薬草の買取ですね。質の鑑定をしますので少々お待ちください」
受付嬢が鑑定に回し、待たされることになった。しかし待ち時間は1分もかからなかった。
「鑑定結果は上質な薬草ですので、一本100ゼルで買取します。4本あるので400ゼルですね」
1ゼル=1000円、100ゼル=10万と地球では大金だ。それが4つもある。それは40万という大金だ。地球からすれば楽な仕事だが、地球にテオリアの紙幣は持ち帰られないのだ。
「春くん、地球に持ち帰れるのはマテリアルオーブと道具だけだから、気を付けてね。違反者は異世界駅で即逮捕につながるよ」
テリオスの警告に春は頷くと、里実の顔を見る。
「持って帰れたらお金持ちなのにな」
少し残念そうに言うと里実も「そうね、持って帰れれば一夜にして大金持ちなのよね」
「地球のどこで換金する気だよ!」
とテリオスがツッコミを入れると二人は「ごめん」というように頭に手を置いた。
「でもこの後授業があるんだよな」
春はカバンからデバイスを取り出し、ため息をつく。里実も同じデバイスを取り出し「授業よりもこのまま探索したい気分なのよね」とつぶやく。
「まぁ、仕方ないか、俺達の高校は授業受けないと父さんや母さんに生存報告として通達できないからなぁ」
そういいながらデバイスを起動させた。
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