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「あっ、エマが帰ってきた。もうお昼の鐘も鳴ったよ」


エマは書類を課長の机にある決済箱へ入れると、みんなの元へ戻って行った。


「ごめんなさい。ちょっと、遅くなっちゃって」

「エマあなた……課長、ランチにミーティングルームをお借りしてもよろしいでしょうか」


エマの目元を見て何かを察した課長は、快く許可を出した。




「そうだったの、本当によく頑張ったわね」


話を聞いたアリッサが、エマの背中を擦りながら褒める。なんだかそれでまた泣きそうになるエマだったが、なんとか堪え団長の企画を伝えた。


「というわけで皆さん、来週の金曜日はあいてますか?」

「いや、四対四って合コンじゃん! まあ団長の奢りなら行くけども」

「わーい、合コン〜私は行きますよ〜」

「団長に何か考えがありそうね……私も行きますわ」


エマはホッとした。団長にも喜んでもらえるだろう。


「場所はこの前、総務課のお姉さま方に聞いたビストロでどうでしょう」


いいね! と満場一致で決まり、予約はステラがしてくれることになった。


「とりあえずさ、しばらく騎士棟へ行く用事は他の人達でやるから」

「それがいいわ、エマは他の仕事をお願いするわね。一旦、心の休憩が必要よ」

「皆さん、気を使わせてすみません」

「大したことじゃないですよ〜」




その夜エマは官舎の部屋でひとり、枕に顔を押し付け泣きに泣いた。こんなに泣いたことは子供の頃にもないというほど泣いた。お陰で幾分すっきりしたようだが、翌朝まぶたが酷いことになっていた。出勤してきたみんなが、『しょうがない子ね〜』と笑いながら濡らしたハンカチで冷やしてくれる。

エマは子供のように甘やかされてるみたいで、なんだかくすぐったくなるのだった。




◇◇◇◇


それから十日ほど、エマは一度もイーサンには会わなかった。


(今までは仕事や食堂など機会を作っては会いに行っていたけれど、それをしないだけでこんなにも会わないもんなんだなぁ)


と、ぼんやり思うのだった。



一度、普段はめったに来ないイーサンがなぜか経理課に現れ、エマとニアミスするところだったのをクレアの機転で給湯室に押し込められ、事なきを得た。

皆が気を使ってくれ、資料室の整理や事務棟の他部署へのおつかい、消耗品の買い出しなどなるべく外に出る仕事を割り振ってくれたこともある。繁忙期でなかったことも幸いした。エマは平穏な日々を送るにつれ、 


(こうやって段々平気になっていくのかな、また副団長と普通に仕事の話ができるようになれたらいいな)


と、思えるようになってきたのだった。




◇◇◇◇


約束の金曜日。経理課女子達は定時で仕事を上がると、私服に着換え四人でビストロに向かった。店内では、すでに団長と背の高そうなふたりの若い騎士が待っていた。


「すみません、お待たせしましたか?」

「大丈夫だ、俺達もさっき来たばかりだ」


飲み物を注文すると、団長がふたりの騎士を紹介する。


「こっちの茶髪がジェイク、こっちの黒髪眼鏡がダニエルだ」

「団長の紹介が雑っ! 初めまして、第一騎士団のジェイクです。歳は二十三歳です」

「私も同じく第一騎士団所属のダニエルです。団長の副官をしております、二十五歳です」

「今日は経理課のお嬢様方に紹介するからな、真面目で人柄もよいイケメンを揃えたぞ」

「あら、その真面目で人柄もよいイケメンに団長も入ってまして?」

「あぁ、もちろんだ!」


カカカと団長が笑う。なかなか和やかなスタートを切れたようだ。


「ところで、四対四だと聞いてましたけどあとおひとりは?」

「あぁ、遅れるが後で来る……と思う……たぶん」

「ふふっ、まぁよろしいじゃありませんか。お先に乾杯しませんこと?」

「そうだな! では、今日の出会いにかんぱーい!」


と、団長の掛け声で乾杯し、料理も次々とテーブルに並んだ。エマは久しぶりに楽しい気分になっていた。『お料理美味しいーお酒も美味しいー』と、しばらく忘れていた食欲も戻ってきたようだ。なかなかのペースで進んでいる。



一方こちら、ジェイクはまるで大型犬のようにクレアに懐いている。話が弾むにつれ、なんだかブンブンと振る尻尾が見えるようで微笑ましい。

ステラは少し酔っているのか、真顔でダニエルの腕をペタペタと触り『ふむ、細マッチョもアリだな』なんて呟いている。ダニエルは真面目そうな表情でされるがまま、だけど耳だけ真っ赤になるという面白いことになっていた。



「エマちゃん、楽しんでるか? 遠慮せず好きなだけ頼めよ」

「はい団長! 遠慮なく沢山食べてますよ。今日はパーッと飲みます!」

「まあエマったら。食欲があって良いけど、ほどほどにね?」


団長とアリッサが一瞬目を合わせ、エマを見て微笑んだ。ふたりとも今日までずっと、エマのことを心配していたのだ。エマの方もそのふたりの心が嬉しくて、ついついお酒が進んでしまった。

そしてなんだかフワフワと気持ちよくなって、そのままテーブルに突っ伏してしまった。


「あらあら、エマったら寝てしまったわ」

「随分ペースが早かったからな。このままそっとしておいてやろう」



そこへ、息を切らせたひとりの男が近づいてくる。


「なんでこいつにこんなに飲ませてんだよ!」

「やーっと来たな」

「あ、四人目って副団長だったんですね」



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