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1 うっかり告白してしまった

「副団長おはようございます! 今日も好きです!」

「あ~ハイハイおはよ」

「んもう、本気なのに」

「騎士団ん中に、良い男なんかいっぱいいんだろ」

「いいえ! 副団長がいいんです」


ニコニコ顔のエマと呆れ顔のイーサンの掛け合いは、ここ王立第一騎士団ではお馴染みの光景である。あ~またやってる、と通り過ぎる人達も慣れたものだ。



エマ・ブライアントは第一騎士団経理課所属の事務官をしている。田舎の子爵家の出で、兄姉姉エマの四人兄妹。

あまり政略的な野心もない田舎貴族ゆえに、末っ子三女ともなれば『好きな道に進みなさい。もうそんな時代でもないしな』と結婚を無理強いする事もなく、王都で事務官になる事を許してくれた。なんなら『ついでにいい人でも見つけてらっしゃい』と送り出されたくらいだ。


エマは勉強もわりと得意だった。王都の学校で真面目な学生生活を送り、首席でこそないがそこそこ優秀な成績で卒業。王宮で働く事務官の試験を受け、見事一回で突破。二十歳で騎士団の事務官になり、経理課に配属されて二年となった。



「ふふっ、エマ今朝もやってるの?」

「あっ、アリッサさんおはようございます」


経理課の先輩アリッサ・コールマンは、伯爵家のご令嬢なのに驕ったところもなく、とても気さくで優しい人である。仕事もできて頼りになる。ふんわりカールした胸まである赤毛と、銀縁眼鏡が似合う二十六歳の素敵なお姉さまだ。


「そのめげない所があなたの良いところだわ。応援してるわね」

「はい! 副団長に振り向いてもらえるまで諦めませんから」




◇◇◇◇


エマがイーサン・ハワード副団長を好きになったのはいつのことだろうか。いつ……とは明確に言えない。自分でも気付いていなかったからだ。

騎士棟と事務棟は中庭を挟んで離れているため、そんなに毎日接点があるわけではない。


だが騎士は書類仕事は苦手な人が多い。どうしても職業柄、体を動かす方が得意なようだ。

特に経費の請求書類など数字を扱う書類に間違いが多く、経理課でも下っ端のエマが騎士棟へ訂正依頼に行くことがあったのだ。経費の承認は副団長であるイーサンの担当。ぶっきらぼうな物言いだが『悪りぃな、部下がまた間違ってたか』と、申し訳無さそうにすぐに対応してくれた。



それからも書類を持って行くと、貰い物のチョコを『ほら、こっそり口に入れて行け』とおすそ分けしてくれたり、『さっき売店で買ったんだ』とクッキーをくれたり、かわいい飴が詰った瓶を机の上に置いていたり……


(この人、クールな顔をして甘いものが好きなんだな)


と、意外な一面を見てエマはキュンとした。



イーサンはスラッとしてるように見えるが、服を脱げば騎士らしく筋肉もついているいわゆる細マッチョというやつだ。クールな銀髪に深い青色の瞳、男らしく整った顔に高身長。二十八歳で副団長の地位につけるほど剣の腕も立つとくれば、若い女性が放っておくはずがない。当然モテる。


一般公開日の騎士団の訓練場には、どこぞのご令嬢やら町娘達が詰め掛け、キャーキャーと黄色い声を上げている。しかし、あくまでも本人は塩対応である。『めんどくせぇ』の一言で相手にしなかった。



エマもいつしか、騎士棟への書類の受け渡しは他の同僚の仕事も率先して『私が行きます!』と請け負うようになっていた。少しでもイーサンの顔が見たかったのだ。

騎士棟の廊下で顔を合わせた時に『おっ、お疲れ』と、頭にポンっと手をのせられただけでドキドキした。話せなくても、長い廊下の端に姿を見つけただけで一日幸せな気分になれた。




「ねぇ、それもう恋じゃん」


経理課の女性事務官四人で昼食をとっていた時、二つ先輩のクレアが言う。


「へぇっ?」

「ほら、顔が見たいとかドキドキするとかさ、完全に恋する乙女だよね?」

「コッコッコッ恋っ!?」

「やだ気付いてなかったの?」


クレアははっきり物を言うサバサバした女性だ。嫌味なところがなくさっぱりしている。

実家は菓子店を営んでおり、時折クッキーやスコーンなど差し入れてくれている。


「あっ、私は気付いてましたよぉ〜」


クレアの実家の菓子を遠慮なくモグモグと頬張りながら言うのは、今年入った二十歳の新人事務官のステラだ。ステラは服飾品店の娘で、いつもおしゃれな服や小物を身に着けていた。

仕事中は制服だが、それすらもどこかアレンジしてかわいく着こなしている。


「だって、一番下っ端の私の仕事まで請け負って騎士棟に行くんですもん、そりゃ気付きますって。ねぇ? アリッサさん」

「ふふっそうね、もう半年くらい前からかしら? エマはわかりやすいわ」

「うそ……」




(私は恋をしてしまったの? 顔が見たいのもキュンとするのもドキドキしたのも、恋をしてたからなの? え、待って、いつから? たしかに目で追ってたのは認めるけれども……やだっ、なんか恥ずかしい! なんで私より先にみんなが気付いてるのよ!)



「おっと、お前何ブツブツ言ってんだ?」


エマがごちゃごちゃと考え事をしながら歩いていると、廊下で誰かとぶつかりそうになった。ハッとなって見上げると、そこにはイーサンの男らしい整った顔があった。その顔を見た途端、ストンと腑に落ちたのだ。


「あっ、副団長好きです」



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