アポトーシス
仕方のないことだと思った。
来るべき時が来ただけなのだと思った。
けれど、私にはもう、あなたが隣にいない生活
なんて考えられなかった。
あなたがいない世界を、
生きたいと思えなかった。
急に視界が切り替わった。
私は、駅のホームにひとりでいた。
「もう無理だよ、一緒にいられない」
あなたの言葉が頭の中に響いて、遠くから
電車が走って来る音が聞こえた。
足を一歩前に踏み出して、
そこで、
夢から覚めた。
それなのに、いるはずのあなたがいない。
あれは現実じゃない、と自分に言い聞かせる
けれど、どこを探してもあなたはいない。
今日は朝からあなたが部屋に来て、一緒に
ゆっくりと過ごす予定のはずだった。
私がなかなか起きないから、買い物にでも
出掛けたのかも知れない。
昨日あまり眠れなくて寝坊してるのかも知れない。
ありそうな理由を懸命に探して納得しようとするのに、先程の妙にリアルな夢のせいで不安が募るばかりだ。
夢が深層心理を映すというのは、どうやら本当
らしい。
あれは、今まで気が付かないふりをしていた、
私の心の奥底に眠る現実と、その先に待っている
未来への予感。
心臓が嫌な感じに跳ねている。
頭が混乱して眩暈がした。
そのとき、
玄関の鍵を開く音が聞こえた。
この部屋の合鍵を持っているのは、
一人しかいない。
「遅くなってごめんね」
そう言って謝るあなたに何か返そうとしたけれど涙が邪魔をして言葉を紡ぐことはできなかった。
あぁ、神様。
どうか、この言葉の続きが、他愛のない退屈なお喋りでありますように。