繋いだ手に爪を立てて、
目が覚めた瞬間、夢と現実の境界線が曖昧な世界であなたを探した。
時計を見て、もう昼過ぎであることに気づく。
部屋に人の気配はない。
つい先程まで目の前に広がっていた光景を思い出して身体が震えた。
大丈夫、あれはただの悪い夢だ。
あなたがいつも淹れてくれるコーヒー。
あなたからのメモ。
物を動かした形跡は?
必死になって部屋の中にあなたの痕跡を探す。
そのどれもがないと理解したとき、これは夢の中なのだと思った。
私はまだ、あの悪夢の中にいるのだと。
けれど、いま私がいるのは、
紛れもない現実だった。
「もう無理だよ、一緒にいられない」
あなたにそう言われたとき、
特に疑問は抱かなかった。
この人は、至極真っ当なことを言っている。
私は、あなたに全てを預け過ぎた。
全身で寄りかかって、
ひとりでは歩けないほどに。
2人分の荷物を背負って歩くのは、
どれほど苦しかっただろう。
私にとってあなたは、生きていく理由そのもの。
無条件の優しさがあると教えてくれたのは、
あなた。
体温に包まれて眠る安心を教えてくれたのも、
あなた。
息苦しくて仕方なかった場所から連れ出してくれたのも
あなた。
どこにも居場所がなかった私の、
帰る場所になってくれた。
あなたが隣にいてくれる生活が心地良くて、
大切にされている感覚が嬉しかった。
それなのに、幸せを知るたびに怖くなった。
あなたが私から離れていく可能性を疑っては、
拒絶した。
あなたが大切な存在になればなるほど、あなたを失う恐怖も増していった。
もう、ひとりぼっちの夜には戻りたくなかった。
どこにも行かないで。離れていかないで。
ねぇ、一人にしないで。
手を強く握って、寄りかかって。
あなた無しでは生きていけないのだと伝えることに必死だった。
離したくなくて、失いたくなくて、そればかりを考えていた。
私を支えて歩くあなたの苦しそうな表情なんて、見えていなかった。