第88話 無人島で過ごす一日(5)
別荘の周りに生えている木々から適当な枝を調達して砂浜に突き刺す。
少し離れたところに立っていたルチルと要は目標を確認して後ろを向いた。腹這いの状態になってスタートに備える。
「いつでもいいぞ」
ルチルが声を上げた。Tバックで剥き出しになった尻は瑞々しい白桃のようだった。
視線を逸らし、軽く目頭を揉んだ。大きな溜息を吐いて、ざわつく心を落ち着かせた。
「わかった」
垂直に刺した枝から少し離れる。二人は身じろぎしないで、その時を待つ。
僕は掌を合わせた。肩幅くらいに広げて思い切り打ち合わせる。
乾いた音に反応した二人は回りながら立ち上がる。どちらも一歩を踏み出し、弾けるように飛び出した。
ルチルは大きな歩幅で力強い走りを見せる。
要は脚の回転を上げて対抗した。
二人は肩を並べた状態で枝に突っ込む。低い姿勢の要は早々と右手を伸ばす。ルチルは跳んで上から狙う。もつれ合うようにして倒れ、派手に砂を巻き上げた。
最初に立ち上がったのは要であった。握り締めた枝を空に向かって突き上げる。
「あたしの勝ちだ! 拓光、そうだよな!」
「まあ、そうなんだけど、出てるよ」
チューブトップが下にずれていた。気付いた要は素知らぬ顔で引き上げた。
胡坐を掻いたルチルは不機嫌そうな顔で言った。
「あざといな」
「わざとじゃねーよ」
「まあ、いい。今回はおまえの勝ちだ」
ルチルは立ち上がるとパラソルへ向かう。勝利者トロフィー代わりにサンオイルを投げた。
見事にキャッチした要は笑顔で僕の手を引っ張る。
「拓光、背中からやって」
「わかったよ」
連れて行かれたシートで要は素早く俯せになった。
「はい、これ」
サンオイルを受け取ると膝立ちの状態で掌に垂らし、首から背中に掛けて塗っていく。要はむず痒さに耐えるように身体を小刻みに動かした。
腋の下に目がいく。そこも塗った方がいいのだろうか。手を入れると急に挟み込まれた。
「そこは弱いからしなくていい。お尻の方をして」
「水着の部分はどうする?」
「こうすればいいよ」
俯せの状態でサイドの紐を解いた。
なるべく見ないようにして丸い膨らみに掌を滑らせる。急いだことで指先が深いところに入りそうになり、慌てて引き抜いた。
「今のは、セーフだよね?」
「……バカ、言わせないでよ」
要は手探りで生地を引っ張り、サイドの紐を結び直した。
なるべく意識しないようにして脚に取り掛かる。
終わると要は仰向けになった。
「じゃあ、次は前だね」
軽い口調で言うと目の部分に手の甲を当てる。陽射しの眩しさよりも羞恥心が勝っているのだろう。やや頬が赤くなっていた。
僕は黙々と掌を滑らせた。胸の部分を避けてウエストにいくと腰を微妙にくねらせる。口元が笑いで歪んでいた。
太腿の付け根は用心して手を動かす。そこから下は大胆に掌を滑らせた。
「終わったよ」
「まだ胸が残っているよね」
「そこは……いいの?」
「あたしは拓光の彼女だよ。当然、いいに決まってるじゃん」
躊躇う僕の横にルチルがしゃがみ込む。怒りの目で無理に笑い、こちらに掌を差し出した。嫉妬心と半分は助け船のつもりなのだろう。
「拓光、まだなの?」
「もうすぐだよ」
サンオイルに塗れた両手をチューブトップの下に滑り込ませた。揉むようにして全体に塗り込む。その激しさに要は身体を揺らす。
「ちょ、激しい、拓光……でも、嬉しい」
「それはよかった」
ルチルの声に要は目に当てていた手を瞬時に退けた。
「これがいいのか」
「おまえかよ!」
振られた手をルチルは難なく躱す。僕は少し下がったところで苦笑いを浮かべた。
「そろそろ泳ぐか」
ルチルは砂浜を走る。やや遅れて要が追い掛ける。
「紛らわしいことをしやがって!」
「でも、気持ちよかったのだろう」
「だ、誰がだ!」
ルチルは波を蹴散らして頭から海へ飛び込んだ。
潜る時間は長く、要は波打ち際で足を止めた。完全に姿を見失い、こらー、と方々に向かって怒声を上げた。
今がチャンスと思い、僕はTシャツを脱いで走り出す。海に腰まで入っても、まだ砂地が続いていて足を柔らかく包み込む。
すぐ近くで波飛沫が上がった。ルチルが顔を出し、両手で搔きながら急接近した。
「準優勝の栄誉を貰いに来た」
「え、それって」
キス魔らしく、自然な動作で唇を合わせた。ぬるりと入ってきた舌は口内を舐め上げてあっさりと引いた。
目にした要が猛然と迫る。
「なにしてんだよ!」
「準優勝の副賞みたいなものだ」
ルチルは笑って言うと、再び海に没した。あとを追い掛けるように要も潜る。それに僕も続いた。
海中で思い切って目を開けると揺らめく中に多くの魚が泳いでいる。要は平泳ぎの動作で泳ぎ、驚いた小魚は逃げ出した。
陽光が降り注ぐ中、ルチルは微笑むような顔で両脚を揃え、何度もドルフィンキックを見せた。肌色のマイクロビキニもあって全裸のように見える。
本物を見たことはないけれど、ルチルが人魚のように思えた。目で追い掛けるだけでは収まらず、要と一緒に後を追い掛ける。
胸が高鳴り、いつの間にか全力で泳いでいた。疲労さえも心地よく、大海原に抱かれて時を過ごした。




