第87話 無人島で過ごす一日(4)
意気込む要に反してルチルはすっと身を引いた。余裕の笑みで腕を組む。
「一番は要に譲る」
「いいんだな。インパクトの差で泣きを見ることになるよ」
「それは楽しみだ。フリルなどで胸の大きさをごまかしていなければいいが」
身長差を活かして要を見下ろす。
「まずは下から」
黒いストレートパンツのホックを外し、ゆっくりとファスナーを下ろす。ウエストに親指を引っ掛けて腰をくねらせながら足元に落とす。オレンジ色のチュニックに隠れて水着は見えない。
要は僕に視線を合わせた。チュニックの裾を摘まんで焦らすように上げてゆく。
「こういう演出も悪くないだろ?」
「そんなことを訊かれても……」
口には出せないが目は正直で食い入るように見つめていた。
要は十分に目を引き付けたところで思い切って引き上げた。赤いハイビスカスの絵柄が鮮烈な紐パンだった。
「これなら簡単に脱がせることができるよ」
「いや、脱がせないから」
「それで上はこれだ!」
チュニックの裾を捲り上げて一気に脱いだ。少し乱れた髪を軽く頭を振って直す。
ルチルは少し驚いた顔をして即座に素に戻る。
「チューブトップか。前に美知が言っていたように少しは成長したようだな」
「女性ホルモン、ドバドバよ。拓光のおかげだな。そうだ、『生乳タダ揉み券』、ここで使ってもいいよ」
「まだ使わないから! それに持ってきてないし!」
要はハイビスカスのチューブトップを嬉しそうに揺らす。僕は薄っすらと割れた腹筋を見て興奮を鎮める。
その様子を見ながらルチルは平然と言い放つ。
「余興としては悪くない。だが、インパクトで私を上回ることはできないな」
「無理するなよ。どうせ、ビキニなんだろ? あたしと同じなら最初の衝撃は超えられないぞ」
「見てから判断した方がいい」
ルチルは左手でスカートを押し下げ、右手でチュニックを捲り上げる。同時に行い、一瞬で脱いだ。
目にした瞬間、僕は頭を下げた。
要は飛び掛かる勢いで怒鳴った。
「全裸じゃねーか!」
「よく見ろ。これはマイクロビキニだ」
「どこが、え?」
驚く要の声を聞いて僕は恐る恐る頭を上げた。
ルチルは腰に手を当てて胸を張る。胸の膨らみに目を凝らすと細長い三角が浮かび上がるようだった。
「驚いたか。私の肌の色を模した特注のビキニだ」
「なんというか、これでプールに行くのはやめようね」
「もちろんだ。拓光の前だけで見せたかったのだが」
要をギロリと睨む。
「後ろはこんな感じだ」
ルチルはその場で緩やかに回る。
瞬時に要が反応した。
「ケツ丸出しかよ!」
「これは、かなり過激なんだけど」
「肌色のTバックだ」
ルチルは楽しそうな声で言った。
「次は拓光の番だ。どのような身体をしているのか。個人的に興味がある」
「あたしは小学生の時のプールで見たことあるからね」
「それよりは、マシだと思うよ」
先にデニムのワイドパンツを脱いだ。波飛沫が描かれたサーフパンツは丈が長く、膝の辺りまである。
ルチルは股間に熱い視線を注ぐ。
「ブーメランパンツではないのか」
「それはサイズ的に穿けないというか」
「一瞬でいいから、下ろして見せてよ」
要は僕の背後に回るような動きを見せた。
「洒落にならないよ」
「要も美知と同じか」
ルチルはわざとらしく溜息を吐いた。
「そんなわけ、あるかー! 冗談に決まってんだろ!」
美知と同一視されると瞬間的に頭が沸騰するらしい。友達にしてはあまりに酷い扱いなので苦笑いを止められなかった。
ルチルは話を戻して言った。
「拓光、上を脱がないと泳げないぞ」
「もちろんだよ」
特になにも思うことなく、上半身、裸になった。
ルチルと要の目が僕の身体に集中する。口が僅かに開き、刻むような足取りで近づいてきた。
「ゴツゴツした、男の身体ではない。白くて艶やかで、ずっと愛でていたい」
「あたしの知っている、身体じゃない。その、なんだ。取り敢えず、触らせろ」
明らかに二人の様子がおかしい。僕はTシャツを拾い上げて急いで着た。
「暑さのせいで頭がボーっとするんだよ。だから冷たい物を飲んで冷静になろう」
「そう、なのか?」
「そう言えば、なんだろう。急に身体が熱くなった感じがする」
ルチルと要は正常に戻りつつある。Tシャツを着たことで香水の影響を軽減させることができたようだ。安易に脱ぐのはやめようと、心に強く誓った。
水分補給を終えるとルチルがサンオイルを手にした。
「泳ぐ前に拓光に塗って貰いたい。私の身体、全てにその手で」
「それは、即答しにくいんだけど」
「勝手に話を進めるな」
「要も塗って貰えば平等ではないか」
ルチルはサンオイルを振って見せた。
「どこがだ! 塗って貰う面積を考えろ。おまえ、ほとんど全裸じゃねーか。反則だろ。だからあたしと勝負しろ。勝った者だけが拓光にサンオイルを塗って貰える。それで、どうよ」
「いいが、どのようなことで勝負をするつもりだ?」
「それは、拓光。なんかある?」
突然、話を振られた。僕としても無関係ではないので真面目に考える。
その過程で目を伏せる。白い砂浜を見ていると頭にある競技が浮かんできた。
「ビーチフラッグスは、どうだろう。ここにフラッグはないから木の枝で代用して」
「腹這いの姿勢でフラッグを奪い合うあれか」
「そう、それ。スタートの合図は僕が手を叩く音ってことでいいかな」
「あたしはそれでいいよ。現役選手の力を見せつけてやる」
「全国制覇の実績を忘れて貰っては困る。今でも家の道場で身体は鍛えている」
ルチルは腰に両手を当てた状態で全身に力を入れる。浮き出る筋肉で身体が一回り大きく見えた。
青い空の下、いきなりビーチフラッグスの決勝戦が始まる。




