表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/105

第80話 アップデート(1)

 夕飯と風呂を済ませて、一番、落ち着ける時間が訪れた。自室に戻ると僕は迷わず、机上にあるノートパソコンを起動させた。

 今日の午前中に電脳世界のアップデートが完了した。撫子から事前に聞かされていたので驚くことはなかった。

 しかし、表示された画面には少なからず衝撃を受けた。アバターの作成画面が以前よりも細かく設定できるようになっていた。

 髪型だけで二十を超える。しかも色まで変えられる。そこで僕はナチュラルショートの黒を選んだ。

 以前にはなかった衣類の選択項目が現れた。上半身と下半身に別れていて、しかも種類が豊富で大いに迷う。髪型と同じで色まで選択できた。色々な組み合わせを試すだけで三十分が過ぎた。

 その十数分後、青いアバターが全身を見せるようにゆっくりと回る。白いランニングシャツにモスグリーンのパーカーを合わせた。ズボンはカーゴパンツを選び、ライトブラウンの色にした。

 靴下の有無。種類や色を選択して最後に靴を吟味する。バッシュを履くこともあるけれど定番のランニングシューズにした。色は白と決めていた。

 顔は以前と変わらず、つるんとしたのっぺらぼう。日頃の服装を模していることもあって親近感が湧く。

 しかも何体も保存ができて、素早く切り替えることが可能となっていた。凝り性であればアバターの作成に何時間も費やすことができるだろう。

 僕は早く動かしたいという欲求に抗えず、電脳世界に踏み込んだ。


 正門を通り抜けたところから始まる。現実の時間を反映してキャンパスは夜になっていた。空は黒雲に覆われているようで月や星が見えない。所々に設置された街灯のおかげで、暗夜というほど視界は悪くなかった。

 早速、アバターを矢印キーで動かしてみる。自然に髪が揺れた。着ていたパーカーの裾も軽微な影響を受けた。

 細かい演出に感動を覚える。今度は意味もなく走らせた。起こる風で髪や衣類が激しく動く。

 操作しているだけで楽しくなる。目的がないままキャンパスを走り回る。

 その過程で別のアバターを見つけた。少し離れていても女性とわかる。

 栗色の髪で桜色のドレスを着ていた。向こうもこちらに気づいたのか。ふわふわのスカートを弾ませて近づいてきた。

 相手の髪型はソバージュだった。答え合わせをするかのように頭上に吹き出しが表示された。


『一年、城山美知』


 再現度が凄い。顔はなくても美知とわかる。

 Xキーを押してメニュー画面を呼び出す。会話入力の欄に手早く文字を打ち込んでいく。


『美知もきていたんだね。それにしても今回のアップデートには驚いた。顔はないけど、髪型と服装で遠目でもなんとなく人物が特定できたよ』

『わたしもパーカーを見てすぐにわかったよー。でも、少し残念なところもあるのよねぇ』

『そうかな。髪や服が揺れて凄くリアルだと思うんだけど』


 その内容を反映した行動なのか。ピンクのアバターは仰向けになった。両膝を立てるようにして広げる。


『下着の項目がなかったんだよねぇ。黒のスケスケや可愛い系の紐パンとか選べたら良かったのにぃ』

『それって必要なこと?』

『必要不可欠だよー。例えば今度の日曜日に拓光君とデートの約束をしたとするぅ。このフリル付きの紐パンにするけど、どうかなーって見せて聞けたら()()まちがいなしだよー』


 成功よりも性交の漢字変換が多いのかもしれない。美知らしいパソコンの使い方ではあるけれど。


『この電脳世界はコミュニケーションツールだからね。髪型や服装は人となりを表現すると思うから、その点はとても良かったと思う』

『それはそうかもねー。あと不満があるのはー、動作のバリエーションが一人に限定されているところだよねぇ。二人でする立ちバックや駅弁の動作もガンガン()()()欲しいなぁ』


 何を挿れるつもりなのだろう。ただの会話文が変換ミスの連続で卑猥な方向へと流れていく。


『それ、合意がない状態でやれたりすると、犯罪っぽくならないかな』

『そのパターンは全く考えてなかったよー。なんか想像するだけでぇ、すごい興奮してきたー。ちょっと玩具で遊んでくるねー』


 ピンクのアバターは光に包まれて消失した。美知のいう玩具とは。ログアウトした自室で何をするつもりなのか。

 深く考えないようにして僕は青いアバターを走らせた。

 いつもよりログインしている人数が多いように思う。服装は個性を浮き彫りにして人々の興味を引いた。至る所で会話が始まり、ツールとしての役割を十分に果たしていた。

 僕は開発者の一人である撫子を探した。建物内を巡り、ドアを片っ端から開けた。どこにも姿がなかった。

 前に話し込んだベンチを思い出し、キャンパス内を走る。以前と同じようにぽつんとピンクのアバターが座っていた。名前が表示されない距離にいても一目でわかる。

 艶やかな長い黒髪。薄青いノースリーブワンピースの上から白い薄手のカーディガンを羽織っていた。清楚な感じが撫子によく合う。

 近づいていくと吹き出しが浮かんだ。


『二年、泉撫子』


 目にした瞬間、青いアバターを全力で走らせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ