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第78話 二人とデート(2)

 変身に限りなく近い幸子の姿は友達の結愛まで驚かせた。別人と思って嫉妬心まで抱き、喧嘩に発展する勢いだった。

 今は興味が上回り、幸子は歩きながら結愛の質問攻めにあっていた。

 僕はそんな二人を後ろから眺めて付いていく。行き先はカラオケボックスが濃厚なので、デニムパンツのポケットに入れていた香水を気付かれないように使った。

「どうやったら、そんな風になるのよ」

「まあ、化粧次第やな。白い肌にするんやったら、それ用のファンデを使えばええ。鼻を高く見せたいならシャドウ系やな」

「あと黒目まで違うよね?」

 結愛は目を見つめた状態で顔を寄せる。幸子は笑って言った。

「これは黒目を大きく見せるカラコンや。今時のもんは色を変えるだけとちゃうで」

「そんなのまであるんだ。なんか、気合を入れてきたのにへこむわ」

「化粧しなくても結愛は元がええやろ。贅沢いいなや。あとはせやな。スキンケアくらいはした方がええかもな」

「そうかな。でも、化粧ねぇ。考えたこともなかったな」

 家の事情が絡んでいるのだろう。出ていった母親は今も帰っていない。アルバイト先は見つかったばかりなので、生活環境の改善にはもう少し時間が掛かるように思えた。

 その辺りの事情を知っているのか。幸子は無理に化粧品を勧めるようなことはしなかった。

「ウチとしては結愛が来たことに驚いたんやけど、どうなってんのやパイセーン」

「えっと、創立記念日で二人が休みだから、ちょうどいいかと思って」

「おかしな話やなぁ。電話の時に結愛の話が出んかったでぇ」

 幸子はきびすを返した。後ろ向きで歩きながら艶やかな黒目でギロリと睨む。

「最初の約束が幸子で、結愛はそのあとだから。二人は友達だし、話を通していると思ったんだけど、違った?」

 幸子が口を開く前に結愛が話に割り込んだ。

「今回はあたしが強引に押し掛けた訳だし。幸子、ごめんね」

「ええって。ウチをもっと知って貰う、ええ機会に恵まれたと思っとくわ」

 帽子のてっぺんに手を当てて後ろに押し下げる。幸子は晴れやかな顔で笑って背を向けた。

 横から迫り出したカラオケボックスの看板が見える。その手前で結愛が立ち止まった。目は右手の小綺麗な店舗。厳密に言えば、その前に置かれた立て看板を熱心に見つめていた。

「ここって有料の化粧室?」

「無料のパウダールームもあるんやけど、ここは有料みたいやな。値段設定は、えらい高いな。一時間で千六百円はぼったくりや、ないわ! めっちゃ安いやん!」

 結愛は困惑した顔で笑う。僕も同じ状態なので代表して訊いた。

「あの、それって結局、どっちなの?」

「先輩は男やから知らんやろうけど、めちゃ安やて。普通、化粧品は持ち込むもんや。ここは手ぶらでいける。値段に化粧品が入って、これやで」

「衣装まで用意されてるって。ここに書いてあるよ」

 結愛が指さした部分を幸子が食い入るようにして見る。

「別料金やない。正味しょうみの一時間で千六百円。しかも内税やで。カラオケボックスどころやない。ここやで、結愛」

「化粧、試していいかな?」

 結愛は恥ずかしそうな上目遣いで僕に訊いてきた。

「いいよ。僕は外で待っているから」

「そんなことせんでもええ。男女で利用できるって書いてあるわ。グループ用に個室まであるやん。決まりやな」

 幸子は可愛い顔で親指を立てた。更に切り込み隊長となって店内を突き進む。僕と結愛は弱々しい隊員として付いていった。

 奥にあるカウンターでも幸子は仕切り、無双状態となった。軽く興奮している様子で先程までとは目の輝きが違う。当てられた結愛は隣で小鼻を膨らませた。

 僕は複雑な気分だった。見た目のせいでボーイッシュな女性と思われた。

 個室専用のカードキーを幸子が受け取る。三人で向かう途中、笑顔で背中を叩かれた。

「マジで先輩、やるやんか。この見た目なら女性専用のパウダールームも使えるんとちゃうか」

「言っとくけど試さないからね」

 なぜか結愛が残念そうな顔をした。

「ここやな」

 スカイブルーのドアに『森のルーム』と書かれたプレートが取り付けられていた。

 幸子はカードキーを差し込んでドアを開けた。

 瞬間、それぞれが感動にも似た声を漏らす。

 室内に入っても目が離せない。中央に地植えされた観葉植物が枝葉を伸ばし、天井近くまで伸びていた。その種類は多く、じっと一点を見ていると森にいるような気分にひたれた。

「こんなん初めてや」

 言いながら幸子はメイクスペースに向かう。置かれた化粧品を手に取り、回すようにして見ていった。

 結愛はクローゼットが気になるようで中を覗いては、凄い、と何度も口にした。

 化粧に関して言えば、なんの知識もない僕は近くのイスに座った。その状態で結愛と幸子を交互に見つめる。神秘的な森に棲んでいる妖精を頭に思い描く。

 そんな取り留めのない空想で安らいでいる自分に気付く。男の僕には少し厳しい値段設定ではあるけれど、リフレッシュルームと思えば悪くない。

 もう一つ、化粧を施された結愛の姿が今から楽しみで、それとなく幸子の手腕に期待を寄せた。

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