表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/105

第65話 結愛とファミレス(2)

 何をどのようにして話せばいいのだろう。結愛は感謝の気持ちで突っ走っている。押し掛け女房のような状態は暴走に近い。正しい情報を得ていないからできる行動に思えた。

 まずは結愛の認識を変えるところから始めよう。

「結愛、この五人の女性を見てどう思う」

「どうって。幅広い交友関係的な?」

「普通はそう思うよね。だから聞いて欲しい。この五人の女性は全員、僕の彼女なんだよ」

 結愛は反応しなかった。数秒遅れで、え、と目を丸くしてこちらを見た。

「全員っすか!? あたしを入れたら六股じゃないっすか」

「この小娘が参戦するのか?」

 綾芽は笑いを含んだ声で言った。

「最初はメス奴隷だったんですけどねぇ」

「どういうことだ! 拓光、説明しろ」

 美知の言葉にルチルが半ば立ち上がる。

 同様に要は顔を突き出し、おい、と怒りの目で言った。

 控え目な撫子も、これは、と困惑した声を漏らす。

「菅原先輩、どういうことなんっすか。先輩はヤリマンであたしはやっぱりメス奴隷なんっすか」

 腕に縋りついて揺さぶる。女性らしい膨らみが当たって思考の邪魔をする。

「えっと、五股がスタートだから浮気とかじゃないんだよ」

「なんなんっすか。先輩は王族っすか。そんなファンタジーあるんっすか」

「まあ、あったみたいだね」

 実に普通の反応で意外とすんなり話が進むかもしれない。

「だから、この状態が嫌なら別れてくれてもいいよ。結愛が僕のことをよく知らないのと同じで、こちらもよくわかっていないから」

「それは、そうっすね」

 しょんぼりした声で手を離した。やや俯いた状態で座り直す。

 そこにパンと乾いた音がした。撫子が両手を合わせて笑顔を見せる。

「ここにいる皆さんも最初は抵抗がありました。恋人の座は一つと思って争ったこともあります」

「今は結婚の座を賭けて戦っているぞ」

 力強い言葉でルチルは闘志を燃やす。

「何度も言わせるな。坊やは私のものだ」

「その前におばさんはぁ、アンチエイジングを頑張ってくださいねー。あー、そうでした。今がもう若々しくなかったのでー、効果はないですよねぇ」

「口は災いの元という言葉を知らないようだ」

 美知の間延びした煽りを綾芽は静かな殺意で返す。

 そこに珍しくルチルが割り込んだ。

「一応、美知は私の友人だ。金と暴力は比例する。わかるよな?」

「お嬢様の論はごもっともで。だがな、証拠を残さない方法もあることを知れ」

 敬意を払いつつ静かに脅す。目立った威嚇ではないが、その迫力にルチルは口を閉ざした。

 撫子は場の空気を変えようと努めて明るい声を出す。

「このような状態ではあっても、今の皆さんの立場は変わりません。どうでしょうか。結愛さんはその中に加わる意志はありますか?」

「……あたしは菅原先輩が好きっす。めちゃくちゃにされてもいいくらい、大好きになったっす。でも、先輩をよく知らないのは本当っす。だから、もう頭の中がぐちゃぐちゃなんっすよ」

 俯いたまま苛立つように言った。

 ここで撫子は提案した。

「そこで一日デートです。皆さんも一度は体験しています。どうでしょうか」

「菅原先輩とデートっすか。あたしはいいっすけど」

 結愛は顔を僅かに傾けて横目で僕を見た。不安げな眼差しに少し胸が痛くなる。

「結愛、僕とデートして欲しい。いいかな」

 膝の上にあった手に軽く掌を合わせる。結愛は自ら掌を返した。どちらともなく握ると顔を上げた。

 真っすぐな視線で僕を見つめる。一重の目が円らで鼻筋は通っている。青春の象徴のニキビは僅かで気にならない。唇の色が少し悪い。表面が荒れているように思えた。

「……頭の中がぐちゃぐちゃなのに本当に嬉しいっす。それと、先輩。あたしのこと、疑ってるっす。そんな目をしてるっす」

「え、なんのこと?」

「口だけと思われたくないんで、行動で証明するっす」

「どういう」

 僕の口を塞ぐようにキスをした。舌まで突っ込んで中を掻き回された。

 離れると、どうっすか、と訊いてきた。

「どうって言われても」

 周りを見ると興奮したような目で返された。撫子は目を伏せた姿で動かない。綾芽は、ただ笑っていた。その表情が全く変わらないので少し怖い。

 美知は何も言わず、胸を押し付けてきた。

「いきなり何してんだ! 締め落とすぞ!」

 ルチルが怒鳴ると結愛は不機嫌な顔で言った。

「そこ、うるさいよ。証明だって言ってんだろ」

「その行為がなんの証明になるんだ。説明しろ!」

 何故か、ルチルは僕を見て言った。

「僕に言われても」

「ねえ、先輩。タバコ臭くなかったっすよね」

「そんな感じはしなかった」

「ちゃんと約束を守ってるっすよ」

 僕が唇を見ていたことが原因らしい。周りの怒りを鎮める意味で、その流れに乗ることにした。

「疑ってごめんね」

「いいっす。ヘビースモーカーだったのは本当のことなんで」


 その後はなごやかとは言えないまでも、一波乱はなく、九時には解散となった。

 一日デートは今週の土曜日。待ち合わせ場所は意外と近く、歩いて五分も掛からない小さな公園に決まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ