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第64話 結愛とファミレス(1)

 全く予想しない方向から流れ弾に当たった。

 そのような出会いを果たした結愛に僕の特殊な状況を説明しなければいけない。関係する五人にも話を通す必要がある。現場に居合わせた美知はいいとして、残りの四人は新たな恋人について何も知らない。

 電脳世界であれば、簡単に落ち合える。全員に事情を説明するのもスムーズにいくだろう。ただ、大学のサークル員に利用が限られていることもあって同意は得られないと思う。資金提供をした綾芽は別として。

 そこで僕は帰宅後、行動を起こした。サークル『電脳の箱庭』にある要望という機能を使ってメールを送ることにした。内容はかなり悩んだ。思い付いては消して、指を止めて考える。その末に完成した。


『代表にお願いがあります。明日の午後七時に下記の場所で話し合いをしたいと思います。そのむね、僕と関係する五人にメールで伝えてください』


 五人の名前はえて伏せて送った。運営の一人である隆志に見られると、何かの火種になりそうな気がした。

 あとは結愛を残すのみ。スマホの電話番号は聞いた。よく使うアプリでも繋がった。どちらを利用して内容を伝えればいいのか。

 迷った末に電話を掛ける。たったの二回の呼び出し音で大きな声が返ってきた。


『あなたの結愛っす!』

「その、突然の電話、ごめんね。明日のことで伝えないといけないことがあって」

『パンツならいつでも脱ぐっす』

「うん、そうなんだ」


 場所を選ばずに脱がれると僕が困る。犯罪者として手錠を掛けられる未来が頭の中にありありと浮かぶ。


「結愛に会わせたい人達がいるんだけど、明日の午後七時にファミレスで会えるかな。都合が悪いなら別の日にする」

『全然オッケーっすよ。どんな服を着たらいいっすか。可愛い系っすか。セクシー系でもいいっすよ。あたし、結構、胸あるんで。でも、ビッチ姐さんには負けるっす』

「服には個性が出るから結愛の好きな格好でいいよ。その方が紹介し易いと思う」

『わかったっす。パンツもそうっすけど、胸もいつでも出せるんで』


 これは僕を陥れる罠なのだろうか。そんな疑いで反応が遅れた。


『浮かれて調子に乗ったっす。ごめんなさい』

「そんなことないよ。なんか、可愛いなって思ってさ」

『嬉しいっす! 明日は気合ぶち込んでいくんで、よろしくっす!』


 ファミレスの店名を挙げて話を終えようとした。切ろうとした時、チュッと口づけするような音が耳に残った。

「なんだかなぁ」

 年下にいいようにされているようで認めたくはないのだが、その行為を少し可愛いと思ってしまった。


 緊張を伴う翌日を迎えた。僕は大学の講義を粛々とこなし、待ち合わせ場所に指定したファミレスへ向かった。

 一番乗りを果たし、目立たない奥側の席を確保した。

「私が二番目ですね」

 柔らかい表情の撫子が向かいの席に座る。ベージュのカーディガンと白いロングスカートが本人の清楚なイメージとよく合っていた。

「急な呼び出しをして悪いね」

「気にしないでください。割と重要な話なのですよね?」

「たぶん、そうなると思います」

 他の者がくるまでじっと待っている訳にもいかず、コーヒーと紅茶を注文した。

 僕が紅茶を飲んでいるとルチルと美知が現れた。黒いゴシックと純白のドレスは見慣れたこともあってコントラストの美しさを感じる余裕が生まれた。

 ルチルは席に着く前に顔を寄せる。

「私一人でも良かったのに」

「まあ、今回は皆に関わることだから」

「キス魔の餌食にされるくらいならー、わたしが拓光君を食べちゃいますぅ」

 美知は丸く口を開けた。前後にゆっくり動かすと、生臭いんだよ、とルチルが目を怒らせた。

 僕は立ち上がって二人を奥に座らせた。その横に僕が座り直す。

 次に現れたのは要だった。ジャージの上にレスリング部のウィンドブレーカーを着ていた。

 すかさず美知がのんびりした口調で指摘した。

「ここは部室ではないんですけどぉ」

「仕方ないだろ。着替える暇がなかったんだから。それで拓光、どんな話なんだよ」

 乱れた髪を手で整えながら聞いてきた。

「まだ主役が来てないし、その時に話すよ」

 三人はそれぞれ飲み物を注文した。要は更にエビピラフを追加した。

「食べ盛りの子供か」

「部活のあとは腹が減るんだよ」

 全ての注文が出揃ったタイミングで綾芽が現れた。胸元が大きく開いた赤いイブニングドレスを着て、久しぶりだな、と僕に向かって言った。

「よく来れましたね。綾芽さんは要の横でお願いします」

「坊やの隣が空いているが、そこにもう一人が来るのだな」

「そうです。今回、皆に引き合わせたい人物がいまして」

 右隣にいた美知がしな垂れかかる。ふくよかな胸が腕に当たってひしゃげた。

「あんなのよりぃ、わたしの方が美味しいよー。ね、大きくて柔らかいよねぇ」

「あの、もう少し離れてくれると助かるんだけど」

「えー、わたしぃ、拓光君の彼女なのにぃぃ」

「それを言うなら、あたしもだ」

 要がいうとルチルが続く。

「私の場合は結婚を前提にしている。他の者とは彼女としての重みが違う」

「坊やは私のものだ。大人の女性の良さを知れば離れられなくなる。そう思わないか、撫子」

「……私はよくわかりませんが、拓光さんの意見を尊重します」

 伏し目となって答えた。


 約束の時間から三十分が過ぎた。綾芽は冷静な顔で、どこに沈めるか、と恐ろしい内容をさらりと口にした。

「それにしても遅いですね。迷っているのでしょうか」

 撫子の心配をルチルは真っ向から否定した。

「スマホのナビで迷うはずがない。私の私兵しへいを動かす時がきたか」

「大事になりますよぉ。それに来ないのは好都合ですよー。ライバルが減るんですからぁ」

「美知、なんだよそれ。なんか知ってんのなら教えろよ。あ、蟹グラタン追加で」

 要は通り掛かったウエイトレスに新たな注文を済ませた。

 そこに駆け込むような音がした。僕が振り返る前に滑り込んで止まる。

「髪型が決まらなくて遅れたっす」

 結愛は象牙のような色の歯を見せて笑った。

「そういう格好が好きなんだね」

 茶色い髪をナチュラルに流し、白い長袖のスエットに臙脂のTシャツを重ね着していた。七分丈のデニムズボンは健康的で少年のような若々しさがあった。

「逃げる時に便利っす」

「この小娘はなんだ?」

「ババアは黙ってろ」

 その一言に美知が笑った。

「わたしと同じことを言うんですねぇ」

「それはもう、『最強ビッチ』の城山先輩にマジ、リスペクトっす」

「こいつも同じく、死に急ぐ輩か」

 綾芽はコーヒーを飲みながら冷ややかな目を向けた。

「じゃあ、結愛は僕の横に座って」

「わかったっす。いつでもお触りオッケーなんで」

「ここはそういう店ではないから遠慮しておくよ」

 過去に追い出された喫茶店が良い教訓となった。

 一同の目が僕と結愛に集まる。ようやく話を進められる。


 僕は大きく息を吸って吐いた。ここからが本番だった。

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