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第47話 決断の時

 僕は自室の椅子に座って時が過ぎるのを待っていた。

 午後八時まであと五分。ノートパソコンの下部に表示された時間を見て電脳世界にログインした。

 自身の分身である青いアバターを動かし、大学を模したキャンパス内を走る。

 見えてきた研究棟の内部に侵入。階段を使って三階までいくと右手にずらりとドアが並ぶ。電脳の箱庭から届いたメールに従って八番目のドアの前で止まる。

 普通は開かないドアへ青いアバターを進めると、呆気なく開いた。

 殺風景な白い部屋にピンクのアバターが映える。自己紹介をするまでもなく、頭上の吹き出しに学年と名前が表示された。例外で『社長』の肩書きを持つ者がいる。

 その場を取り仕切るように会話文の吹き出しが浮かぶ。


『坊やもきて、恋敵である五人も揃っている。最後の審判と行こうか』

『おばさんに負けるわたしではないのですー』


 真っ先に美知が噛み付いた。間延びした言葉には挑発の意味が含まれているのかもしれない。

 黙っていられないルチルと要はアバターを前のめりの姿勢にした。


『生臭いビッチは黙っていろ! 拓光、豚の魔の手から私を救い出してくれ!』

『幼馴染のあたしはいいぞ! 拓光の全てを知っているし、またぐらをガシガシされたから他より一歩リードだよな!』


 その吹き出しを見た綾芽のアバターが大口を開けた。軽く仰け反って笑っているようだった。


『私は胸を吸われた。純粋無垢な赤ちゃんのように。それはもう愛らしかった。もちろん一日デートの時ではない』


 目隠しをされた事務所での行為を思い出し、僕は顔の火照りを感じた。

 間を空けず、ルチルが叫ぶ。


『前々から気になっていたんだ! 拓光、今ここで関係を説明しろ! 豚は嫌いだああああ!』


 最後の絶叫は本音で、事情を知っている僕にはよくわかる。大学を卒業する前に恋人を見つけないと、親が決めた相手との結婚が決まってしまう。切実な問題を抱えていた。


『おばさんの垂れた胸よりぃ、わたしの張りのある胸の方が素敵がいっぱい詰まっていてー、アソコの具合も最高ですよぉ。中は狭くてぇ、歪でぇ、吸い付きが凄いらしいですぅー』

『生臭いビッチは黙っていろ! 私は処女だ! それに自分でいうのもなんだが桁外れの大金持ちだ! 逆玉間違いなしの超優良物件なんだぞ! 拓光が選ばないはずがないよな!』


 必死さも他とは桁違い。直接、会わなくて良かったと思う。非力な僕では強引に捻じ伏せられて童貞を奪われるだろう。

 今まで発言を控えていた撫子がおっとりした感じで会話を挟む。


『ここは急ごしらえで作られた空間です。そろそろ本題に入りましょう』

『その意見には賛成だ』

『あとは拓光に任せる』


 綾芽に続いて要が書き込んだ。


『豚のせいで焦り過ぎた。話を進めてくれ』

『アソコをグチョグチョにしてぇ、あの家で待っているからねー』


 ルチルと美知が言い終わると、誰もが黙った。

 その場の全員から決断を迫られる。僕は緊張しながらもキーを打ち込んだ。


『要とは小学生の時に知り合った。とても元気な女の子で、毎日のように遊んだ。気心知れた相手なので一緒にいると落ち着く。恋人にふさわしい相手だと思う』

『あたしが選ばれた! おまえら反論するなよ! 拓光の決定なんだからな!』


 要は嬉しさの余り、勝手に話を進めようとした。そのことを指摘しないままキーを打ち込む。


『美知はエッチが大好きな女性で他の人の目も気にしない。強引なところはあるけれど、心優しい一面を持っていて、それを愛らしいと思う僕がいる。恋人にしたい』

『おい、待て。どういうことだ?』


 ルチルの当然の疑問を無視して話を進める。


『サークル代表の泉さんは優しくて、とても話し易い方でした。それでいて、ある深刻な事情を抱えています。その話を聞いた僕は手助けができるなら、したいと。側にいて共に考えたいと思いました』

『坊や、それは恋人の意味で側にいたいということなのか』

『そう受け取って貰って構わないです』


 綾芽に対してはっきり答えた。続けて想いも伝える。


『綾芽さんと呼びます。この方とは少し前に知り合いました。赤ちゃんプレイみたいなことはしましたが、その時は怖くて。でも、一日デートで素顔を見ることができました。僕への配慮に好感が持てて、とてもよくしてくれました。魅力的な女性でもあるので、正直に言って心がぐらつきます』


 最後となったルチルへの想いを綴る。


『ルチルはゴスロリファッションが大好きな女の王子様でした。腕力もあって柔道の猛者でもあります。強引に迫られたこともありましたが、一日デートでは可愛らしい部分を見ることができました。家の事情と関係なく、深いお付き合いができればもっと魅力を引き出せると思いました』


 五人全員へ、僕の正直な気持ちを語った。ピンクのアバターが漏れなく、青いアバターを取り囲む。


『私を豚から救い出してくれ!』

『坊やは私を選んだ』

『拓光、幼馴染を選べ!』

『わたしのアソコは気持ちいいよー』

『こんな私でよければ、恋人としてお願いします』


 一斉に浮かび上がる吹き出しに僕は迷いながらもキーを打つ。

 心の中に秘めていた想いを解き放った。

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