第34話 宣戦布告
明るく煌びやかなステージは半円の形もあって、夏の時期に行われる水上花火を彷彿とさせた。
すでに撫子がステージ端に待機していた。吹き出しで、少しお待ちください、と一同に言葉を掛ける。
ステージの中央、光の粒子が瞬いてピンクのアバターが現れた。
『社長、木下 綾芽』
その表示に集まったアバター達が一斉に吹き出しを打ち上げた。
『社長だってよ』
『なんで社長が大学のサークルに資金を提供するんだ?』
『木下って、二年にもいたよな』
集まったアバターの中には隆志もいた。本人は無言を貫き、一言も返さなかった。
『今回、私の都合で集まっていただき、ありがとうございました』
『始まったぞ』
『まずは話を聞かないとな』
珍しくルチルと美知も大人しい。僕は不安ながらも綾芽に注目した。
『私が資金提供した経緯は省きますが、この活動に少なくない将来性を感じました。弊社としてはさらに活動を進めていただきたく、微力ではありますが百万円を提供させていただきました』
『百万だって!?』
『しかも将来性だけでポンと百万かよ』
『百万あったら、焼肉をどれだけ食べられるんだろう』
反応は様々で、一様に驚いたことには変わりがない。僕もそこまで出しているとは思わなかった。余計に悪い予感が加速する。本当の目的はどこにあるのだろう。
『今後のサークルの発展を信じていますが、それだけが担保ですと、少し不安が頭に過ります。そこで私も皆さんと同じように、この電脳世界の住人になりたいと思います。サークル代表の泉さん、よろしいでしょうか?』
ステージ端にいたピンクのアバターが中央に進み出る。
『そのお考えは理に適っていて正しいと思います。皆さんはどうでしょうか。賛成していただけますか?』
『俺はいいぞ』
『あたしも構わないよ。こっちだって無料で使わせて貰ってるんだし』
響輝と要は賛成の態度を見せた。
美知とルチルは綾芽ではなくて僕に向かって言った。
『わたしは拓光君を狙ってサークルに入ったわけだしぃ』
『おまえのようなビッチに拓光は渡さねぇよ!』
『あの二人とも、今はそれが問題ではなくて、社長の電脳世界への参加の話で』
『社長ではなくて、綾芽さんですよね?』
ステージからの吹き出しに誰もが反応した。
『なんなんだ、どういうことなんだよ』
『一年、説明しろよ』
『わけがわかんねーぞ』
『二年の木下。おまえと姓が同じなんだし、何か知ってんじゃないのか』
隆志は無反応の姿勢を崩さない。
ルチルと美知は即座に動いた。ステージに詰め寄って吹き出しで疑問をぶつける。
『社長さん、どういうことなんだ?』
『もしかしてー、拓光君とリアルの知り合いなのですかぁ』
『まずは皆さん、電脳世界への参加を認めてくれませんか?』
『認めるよ』
『わたし達もタダで参加しているのでぇ、別にいいんじゃないですかー』
その声が呼び水となって全員の参加を取り付けた。
『その深い御心に従うまでです』
隆志だけが異様に浮いた言葉を返した。
話が終わったことを撫子が皆に伝える。煌びやかなステージが消えると花火を見終わった直後のような寂しさに包まれた。そのまま電脳世界に残る者とログアウトする者に別れた。
綾芽はピンクのアバターを動かして特定の人物に残るように声を掛けた。
その中には僕が含まれていた。ルチルと美知の二人組もいた。要と撫子までいた。
隆志はお払い箱というようにひっそりとログアウトした。響輝はピンクのアバターを追い掛けて見えなくなった。
残った面々を前にして綾芽は言った。
『ここにいる連中が恋敵というわけだな』
『あのー、社長さんも拓光君狙いなのですかぁ?』
『当然だ。坊やは私のものだ。裏工作は現実だけで十分。今回は真っ向勝負で私のものにする』
『なんだよ、それ! 拓光、どうなってんだよ』
要は混乱した様子だった。撫子は戸惑うような感じで言葉を挟んだ。
『今回の資金提供は菅原さんに近づくのが目的なのですか?』
『はっきり言えばそうだが、将来性について関心があることも確かだ。それとおまえのことも調べた。面白い人生を歩んでいるではないか』
『もしかして、全てを、知ったのですか』
『もちろん丸裸だ。そのおまえも恋敵の一人と認識している』
撫子のアバターが俯いた。一言も返さなかった。
想定していた反応なのか。綾芽は話を続けた。
『そこで提案だ。各自が拓光と、一日、デートをする。もちろん己の性欲に負けて強引に最後までやったら負けだ。相手を尊重しない身勝手な行動に愛はない。そのあとで拓光には恋人に相応しい一人を決めて貰う。これなら公平な勝負になるだろう。違うか?』
『いいですよー。その提案に乗っかりまーす。おばさんもしっかりメイクしてぇ、がんばってくださいねー』
『負けん気だけはあるようだ。あと一人で歩く時は用心しろよ』
『胡散臭い連中に負けるかよ! こっちは指でガシガシされた仲だからな!』
自由奔放な美知に感化されたのか。要の言い方もそこそこ生臭い。
『おまえら、みんな蹴散らしてやる! 私が拓光の隣に、一番、ふさわしいことを証明してやるぜ!』
ルチルの気合の入った言葉は宣戦布告のようだった。
最後に撫子がぽつりと呟く。
『……私に有利な話とは思いますが、やれるだけのことはしてみます』
全員との一日デートが決まった。僕に発言権はないらしく、決定事項と言わんばかりに勝手に話を進める。
デートの順番は僕がいない時に電脳世界で決めることになった。そのような時の結束力だけは見事で、苦笑いを浮かべるしかなかった。




