第33話 驚きの告白
七時には夕飯を終えた。歯を磨き、早々と自室に戻った。
何もすることがなく、ベッドに寝転がる。今日の騒々しさが懐かしく思えるくらい静かな夜だった。車やバイクの排気音も聞こえてこない。
眠くもならず、二回の寝返りを経てノートパソコンを起動させた。
なんだろう。メールのアイコンに『1』と表示されていた。早速、クリックして内容を表示させる。
「これは……」
サークル『電脳の箱庭』からのお知らせであった。今回、資金を提供して貰った会社の社長からサークルメンバーに話があると書かれていた。オフ会では人が集まらない。それを見越して電脳世界を利用するらしい。今日の午後八時、場所は正門の近くに作った特設ステージと明記されていた。
隆志の姉である綾芽は何をするつもりなのだろう。反社に相応しい技術の悪用、または乗っ取り。考える程に悪い方へと流れていく。
時刻は七時半を僅かに過ぎたところ。早いのは承知で電脳世界に赴いた。
僕の青いアバターは正門を前にして硬直した。今の時間を反映して辺りは薄暗い。
その中、電飾に彩られたステージは扇形に光り輝く。見物客と化した青とピンクのアバター達が周囲を動き回っていた。
『すごい派手だな』
『なんの話があるのかな』
『このセット、よくできている。誰の作なんだろう』
アバター達の頭上に吹き出しが浮かび、関心の高さが窺える。
頭を前後させ始めた自分のアバターを再び動かす。ステージ近くにいくと要と響輝もいた。この世界でも口喧嘩をしているようだった。
『こんなところまできてナンパしてんじゃねーよ』
『ただのコミュニケーションだろ。これだから処女はメンドーなんだよな』
『あたしのことか? だったらその目は節穴だな。すでに開通済みなんだよ!』
『そうなのか? 相手はナスか? それともキュウリか?』
喧嘩の仲裁をしようと僕はアバターを近づけていく。
『相手は拓光だよ! わかったか!』
『え、マジで!?』
記憶には全くない。精一杯の見栄を張ったと理解はできる。ここで僕が強く否定すれば要の立場がなくなる。それだけで終わらず、響輝の辛辣な言葉の追い打ちで叩かれ、プライドがボロ雑巾になることも。
そこに思いもしない二人が加わった。
『マジかよ。住所まで教えておいて、そりゃねぇだろ』
『わたしはー、そんなの気にしなーい。いつでもグチョグチョにしてー、アソコに導いてあげますよー』
『おまえは生臭いんだよ!』
ルチルと美知はこの世界にきても全く変わらなかった。
『お、拓光。本当のところはどうなんだ?』
吹き出しを浮かべた状態でルチルが走ってきた。他の者も集まり、僕を取り囲んだ。全方向を塞がれて僕のアバターは身動きが取れない状態になった。
『ここで言ってもいいのかな。近くにいる人達にも吹き出しの内容で伝わるし』
『それなら少し離れたら問題ないだろ』
響輝の提案を受けて全員がステージから離れた。
やはり囲みは揺るがない。僕は崖の突端に立たされた気分になった。
『それではどうぞー』
『早くしないと社長の話が始まるぞ』
美知とルチルが吹き出しで急かす。
『わかったよ。実は要が失恋で落ち込んだ時があったんだけど』
『わくわくがとまりませーん』
『本当かよ。おい、ゴリラ、マジなのか!?』
『誰がゴリラだ! まあ、それは本当の話だけど……』
吹き出しが入り乱れる。ルチルが、早くしろ、と迫ってきた。ピンクのアバターが何度も両手を差し出すような動きを見せた。
『僕が慰めにいって、それで泊まることになって。その時にベッドで抱き合って』
『入れちゃったんですかー。先っぽですかー。それとも根元までぇ?』
『おまえは露骨なんだよ! もっとオブラートに包めよ!』
『まさか中ではやってないよな? 避妊はしないとあとが大変だぞ』
響輝のアバターが両手で頭を抱え込む。過去に似たような経験をしているのだろうか。側にいたルチルのアバターが一言。
『男版、美知がいやがる』
『わたしはピル派なのでぇ、中でドクドク注がれても大丈夫ですよー』
『具体的な言葉で想像させるな! 飯が不味くなるだろ!』
ルチルは夕飯を食べながらログインしているらしい。美知はマイペースを保ち、続きはー、と訊いてきた。
『その時、ちょっと興奮してキスをしながら、指を三本、入れてしまって。激しく動かしたから血が出て。たぶん、そのことを要は言っているのだと思う』
『初めての人にガシ○ンはダメですよー。もっと優しくしてあげないとぉ』
『ゴリラ、どうなんだ? これ、本当の話なのか?』
『よく覚えていない。翌朝、シーツの血を見て、やったんだと思った。指とは思わなかったけど』
要との連携が上手くいって、これで辻褄が合ったと思う。問題は経験豊富な美知と響輝がどのような反応をするのかに掛かっていた。
『女性の体操選手はー、激しい動きで処女膜が破れることがあるのでぇ、それと似たような感じでしょうかー』
『あと初めてだから勘違いしたんだな。だが納得した。つーか、恥ずかしいことまで訊いて、悪かったな』
美知と響輝の吹き出しで、その場は丸く収まった。
『なんか始まりそうだ』
ルチルが吹き出しで言った。
ステージが今までにない強い光に包まれた。各アバターを動かして、ステージへ向かう。
僕と要は少し遅れた。
『拓光、ありがとう。話を合わせてくれて』
『いいよ。本当に、しそうになったし』
『……なんか、うれしい』
最後の一言はとても愛らしく、僕の心の中に甘酸っぱく残った。




