第23話 餓鬼のように
電脳の箱庭の運営がノートパソコンにメールを送ってきた。新たなメンバーを迎えたことへの喜びと感謝の気持ちが綴られたオフ会の誘いであった。
土曜日、指定された午後七時にファミレスへ集まった面々の数は極端に少ない。
僕の左隣に響輝が座る。右隣には要がいて向かい合わせの席へ遠慮ない視線を向けていた。
撫子は少し困ったように笑みを浮かべた。
「少ないメンバーにはなりましたが、ここで彼を紹介します」
僕はどのような態度を取ればいいのかわからず、ただ姿勢を正した。
「彼はサークルの立役者として活躍してくれました。諸事情により身を引いていましたが、本人の希望によって復帰が決まりました」
「諸事情ってなによ?」
要はレモンソーダのストローを咥えながら言った。
「そこは訊かないで貰えると助かります」
「代表に告ってフラれたとかだろ」
響輝の何げない指摘で一気に緊張が高まる。撫子の笑みが途端にぎこちないものに変わった。
「それはおいといて、彼を紹介します。皆さんにとっては先輩に当たる、二年生の木下 隆志さんです」
撫子は隆志の方に目を向けた。前髪を上げるような仕草をして、すぐにやめた。坊主頭に慣れていない様子だった。
「代表には素晴らしい場を設けていただき、大変、感謝しております。このような私を再び受け入れてくれたこと、その御心の深さに感動さえ覚えます。それと私は皆さんから見れば先輩に当たりますが、同輩と思って接していただければ幸いです」
「おい、隆志。焼きそばパン買って来い」
早速、響輝が茶化すように言った。隆志は笑っているようで、明らかに怒っていた。眼光の鋭さには殺意に似たようなものを感じる。
要は別のことが気になるようで先程から落ち着きがない。
「先輩は野球部にも所属しているんですか?」
「いや、してないが」
「ファッションで坊主頭って珍しいですよね」
「そうだな。確かに珍しいよな。珍獣みたいだろ」
隆志の笑みが消えた。無表情に近い。
「UMAにチュパカブラがいますね」
「要、それくらいで」
そのUMAにはほとんど髪がない。性格的なことから考えて揶揄ではないと思っても、その例えは厳しい。
「ああ、いるな。傑作だな、それは。実に見事な例えだ」
褒めていながら顔は赤い。若干、目が血走っているように見えた。強引であっても、この悪い流れを変えなければいけない。
「隆志先輩のプログラムの腕は代表から聞いています。そのような先輩が復帰されてとても嬉しいです」
「滅相もございません。微力ではありますが、サークルの為に粉骨砕身の覚悟で臨む所存です」
「なんか態度が違い過ぎるよね?」
要の疑問に珍しく響輝が同調した。
「どっちが先輩なんだよ」
「き、緊張しているからね。そんなに不自然でもないよね」
苦し紛れの言葉に二人は胡散臭そうな目を僕に向けてきた。
「拓光、何か知ってるなら教えろよ」
「そうだぞ。なんだよ、この態度の違いは」
「いや、それはだね」
二人を交互に見ながらチラリと隆志の方にも目をやる。片手を顔の前に持ってきて必死の願いを捧げていた。
「僕とは多少の面識があるから。そうですよね、代表」
「はい、そうですね。自己紹介も終わったことですし、あとは食べながら楽しく過ごしましょう」
「あたしはリブステーキ!」
要は挙手して言った。
「じゃあ、俺はサーロインで」
送られてきたメールには割り勘とあった。それを見越して高額狙いで攻めてきた。
「僕はSサイズのピザで」
「俺はA5和牛の盛り合わせだ!」
隆志は怒鳴るように言うとテーブルにあった呼び出しボタンを連打した。
二時間、ほとんど会話がなかった。食べることに全精力を注ぎ込んだ。撫子だけは別で終始、困ったような笑みを浮かべていた。
「もう、無理」
要は仰け反った姿になった。ワンピースでもわかる。産気づいた妊婦のように腹が出っ張っていた。
響輝は多少、余裕があるようで満足そうに腹を撫でる。
「俺は時間がきたので、先に支払いを済ませる」
そういうと二万円をテーブルに置いて立ち上がる。支払う額が多いような気がして僕はすかさず言った。
「少し多くない?」
「いいんだよ。先輩の復帰祝いということで」
「悪いな」
不機嫌だった隆志は軽く頭を下げた。
「まだ余裕がありそうなのに、もう帰るんだね」
「相手をあまり待たせても悪いからな」
「もしかして女性?」
僕の声に答えず、響輝は何かを抱えるような手付きで腰を前後に動かした。
「下品な真似はやめろ!」
要が怒鳴ると、じゃあな、と笑って出ていった。
静かになったところで撫子が一同を見た。
「頃合いということで、ここでお開きにしましょうか」
「そうですね。それがいいと思います」
「もうね、お腹パンパンだよ」
それは見ればわかる。
隆志の方に目を向けた。苦笑いを浮かべていたが、僕の視線に気付いて深々と頭を下げた。
姉の綾芽の怖さは僕も知っている。実弟となれば、もっと深いところまでわかっているのだろう。
それとは別に事務所の出来事を思い出す。僕は要と真逆の前屈みになった。




