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第15話 デートの誘い

 建物を出てアバターを走らせていると学生会館の近くで人だかりを見つけた。

 青いアバターにピンクのアバターが四人。取り囲むようにして立ち話をしているようだった。気になった僕は目立たないように歩いて、そろそろと近づいていく。

 一定の距離を満たしたことで集団のアバターの正体が判明した。

 ピンクのアバターは一年と二年の混合でしきりに青いアバターに話し掛けている。次々と浮き出る吹き出しの内容に注目した。


『今度、一緒に行ってもいいですか』

『その店には行ったことがあるけど、新作のパフェは知らなかったわ』

『それにしても、あなたって人はどこにいても同じなのね』

『何学部ですか。もっとあなたのこと、教えてください』


 ナンパというか、逆ナンもあるのだろうか。青いアバターは両手を出して、なだめるような動作を見せた。現実でも接点があるようで、落ち着いて、という吹き出しが浮かぶ。僕が想像していたよりも響輝は女性にモテるようだった。

 土曜日の時にはいなかったので日曜日の時に参加を決めたのだろう。巻き込まれると面倒なので僕は気付かれる前に離れた。

 どこに行こうかと迷っていると辺りが暗くなってきた。空を見ると夕焼けから星の瞬く夜空へと変わる。現実の時間では六時を過ぎていた。少し離れたところにいる集団を見るとぼんやり光って見える。

 本当によくできた電脳世界だと思う。僕は走り回ることをやめて適当に歩いた。

 キャンパスに設置してある幾つかのベンチを見ていると、ピンクのアバターが一人で座っていた。近づくと頭上の吹き出しが現れた。


『二年、泉撫子』


 僕が探し求めていたサークルの代表にドキッとした。その様子を反映した青いアバターが動きを止める。自分の名前の吹き出しを見て、逃げられないと思い、ゆっくり歩いて近づいた。


『ベンチの隣に座っていいですか』

『どうぞ。いろいろと話をしてみたいので』

『ありがとうございます』


 青いアバターをベンチに近付けて画面の下部にあるCキーを押した。滑らかな動作でベンチに座ることができた。まるでデートのような状態と緊張ですぐには話す内容が頭に浮かんで来ない。


『この電脳世界はどうですか?』


 内情を察したように話を振ってきた。僕は思った通りの言葉を返した。


『びっくりしました。ここまで精巧に作られているとは思いませんでしたので』

『楽しんで貰えているようで私も嬉しいです』


 ピンクのアバターが口の辺りに手を添えて微かに上体を動かした。その仕草は笑っているように見えた。


『多くのサークルの人達が知恵と努力を結集して作られているように思います』

『……そうですね。今回、サークルに入ってくれた人達を除くと私一人だけになりますが』


 思いもしない言葉に僕の手が止まる。突っ込んだ内容を控えて、もう一つ、疑問に思ったことを訊いてみた。


『泉さんは二年生なのですね。僕は三年生を想像していたので少し驚きました』

『この「電脳の箱庭」は私が立ち上げたサークルになります。二年で代表を務めていることにも関係しています』

『そうでしたか。僕はプログラムに疎くて、その発想や行動力が羨ましいです』


 ここで会話が途切れた。ピンクのアバターは顎先に手を当てている。何かに悩んでいる様子をこちらに伝えてきた。


『このサークルは目標を掲げています。技術の向上と社会貢献を成すと。その言葉に嘘はありませんが、私のエゴでサークルを立ち上げた経緯があります』


 またしても僕の手が止まった。重要なことを話そうとしている。サークルに入ったばかりの一年生が聞いてもいい内容なのだろうか。微かに震える指先でキーを打った。


『入ったばかりの一年生が聞いても大丈夫な内容でしょうか』

『隠しているより気分が楽になると思います。ですから、私から話がしたいという風に思ってください』

『わかりました』


 椅子に座っていた僕の背中がぴんと伸びる。画面の向こうに伝わるはずはないんだけど。


『下世話な話になりますが、この技術でお金を稼ぎたいと思っています。得たお金は私の手術代に使おうと思っています』


 一気に話の深刻度が上がった。不治の病ではないと思うけれど、これ以上の質問を許さない雰囲気がピンクのアバターを通じて伝わる。膝の上に置いた手が、いつの間にか拳の形になっていた。


『悪いことではないと思います。まだ一年生ではありますが、将来のことを考えると心配になります。就職先があるのかどうか、とか』

『もしかして何か持病みたいなものを抱えているのですか?』

『病気と言えるかわかりませんが、かなり特殊な体質の持ち主なもので』


 代表が正直に話している手前、こちらも本音で語りたいという思いが強まった。


『失礼を承知の上で、訊いてもいいですか?』

『……いつからこのような体質になったのかは覚えていませんが、どうやら体臭のせいで異性に嫌われるようです』

『異性だけですか? 酷い体臭であれば同性にも嫌がられると思いますが』

『無臭に近いので同性には影響がないみたいです』


 赤裸々に語ってしまった。すっきりした一面を否定できないので、良かったとも思える。


『一度、行ってみたいと思っていたところがあります。ご一緒しませんか?』

『体質の関係で、代表に迷惑を掛けると思いますが』

『ビルの屋上に大観覧車があります。目立つので菅原さんも知っていると思います。あれに乗ってみたいと思っていました』


 その先の話が想像できて急いでキーを打った。


『密室のようなところは本当に影響が大きくて』

『大丈夫です。日時はあとでメールで伝えます。夕飯の用意がありますので、これで失礼します』


 ログアウトしたようでピンクのアバターは星屑となって消えてしまった。

 僕の青いアバターは頭を抱える格好で頭を左右に振り出す。深い悩みと表示されているように、それらしい動きを見せた。

 情けなくて滑稽こっけいで、現実の僕は僅かに口元を緩めた。

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