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第14話 電脳世界の入り口

 最近の日課になりつつある。自室に入ると何よりも優先してノートパソコンを起動した。決まってメールの有無を確認しては落胆の溜息を吐いて他のことに当たる。

 今日も同じ過程を歩むと思っていた。そこに新着のメールが。待ち焦がれたサークル、電脳の箱庭からのものだった。

 ついにきた電脳世界への招待状。早速、示されたURLをクリックした。

 画面が一変した。白いつるバラの飾り枠の中に入力画面が現れた。手早く学籍番号と送られてきたパスワードを入力した。


『菅原拓光さん、ようこそ』


 完了を意味する一文のあと、アバターの作成画面に移った。

 青い全身が男性でピンクは女性と説明があった。性別を偽って参加しても意味はないだろう。大学との連携により、本名は把握されている。それだけに電脳世界での新たな出会いを想像すると心が躍る。

 青を選ぶと髪型の選択になった。全身が青いタイツ姿のようなのっぺらぼうでは、さすがに味気ないと思ったのだろう。僕は今の髪型に似ているショートを選んだ。

 次に身長と体重の入力欄に移る。ここで遊び心が湧き出して身長を188センチにした。体重は急いで計って49キロと入力。

「……これは」

 枯れ木のような身体の怪物が表示された。ゆっくりと回転していて、どこから見ても奇妙なUMA(未確認生物)であった。逆に身長を110センチにすると手足の短い樽人間ができあがった。

 遊び心を満たしたあと、正しい身長である165を入れた。


『心のままにコミュニケーションを楽しんでください』


 その一文は三秒くらいで消えて、僕のアバターは白い光に包まれた。

 本格的な電脳世界に踏み込んだ直後、僕は感心するような声を漏らした。3D画面は珍しくないものの現れた正門には目を見張る。大学と同じ作りで奥に見える講義棟の位置まで完璧に模倣していた。しかも空は鮮やかな茜色。今の時間と連動しているようだった。

 アバターの動かし方が画面の下部に表示されていた。キーボードの右下にある矢印キーを使用する。シフトキーを押しながら動かすと走ることもできた。

 感情の表現はXキーを押してメニュー画面で選択するようだ。怒る、笑う、泣く等の基本の他に細々としたものが小型化されたアバターで繰り返し行われた。しかも個々の動作を分解して繋いで自作の表現も可能とあった。かなり会話という部分に力を入れている様子が窺えた。

 僕が機能を読み込んでいる間、アバターは立った状態のままだった。時間の経過によってアクションが変わるようで、苛立ったように片脚の貧乏揺すりを始めた。興味深く眺めていると苛立ちは収まり、今度は頭を上下に揺らし始めた。眠気に襲われているみたいで少し可愛い。

 最後は不貞腐れて体育座りの格好で横になった。いつか見た要の姿と重なって思い付く。


 要は電脳世界に来ているのだろうか。


 操作に慣れる必要もある。僕はアバターを操作して正門を駆け抜けた。

 走りながら方向を変える。人の姿はなかった。右手にある建物に近づくと『実験棟』と吹き出しのようなもので表示された。建物に限らず、記念樹や胸像であっても吹き出しが現れた。広いキャンパスに慣れていない学生のために作られたのだろう。

 さすがは聖母様。サークルの代表を務める撫子の顔を思い出しながら捜索を続けた。

 各所を見ながら、ふと考えが浮かぶ。建物の中に入ることはできるのだろうか。

 左手に見えてきた。研究室で占められた建物にアバターを突っ込ませた。難なく入れたことにまたしても驚いた。

 内部の構造に詳しくなくても、その完成度には感嘆するしかない。個々のドアを開けることはできなくても、とてもリアルに思えた。程々の緊張感を保って一階から順に三階を見て回る。

 長い廊下の奥に中肉中背の青いアバターがいた。近づくと頭の上に吹き出しが浮かび上がる。


『三年、木下きのした栄悟えいご


 自分のアバターにも同じような吹き出しが出ていた。

 アバター同士、一定の距離に近づくと表示されるものらしい。僕は相手に失礼が無いように歩いて近づいた。

 近接した状態でXキーを押した。メニュー画面にある会話入力の欄にキーボードを使って文章を打ち込んだ。会話文の吹き出しがでかでかと浮き上がった。


『この度、電脳の箱庭に所属することになりました一年の菅原と言います。今後ともご指導ご鞭撻べんたつのほど、よろしくお願い致します』


 相手のアバターは掌を上に向けた姿で頭を左右に振った。


『俺は先輩になるが、サークルに入ったばかりだ』

『二日間、行われた勧誘の時ですか?』

『日曜日に決めた。だからあまりかしこまらなくてもいい。俺もおまえと同じ新参者だからな』

『わかりました、先輩』

『俺はもう少しここを見て回る。おまえと同じで探求心が旺盛おうせいなもんでな』


 相手のアバターは駆け足で階段を下りていった。元々のサークル員は何人くらいなのだろう。はっきりした数は聞いていない。部室もないので電脳世界での出会いを期待するしかない。

 代表である撫子に会えれば全てが解決するだろう。その間に要に会うこともできるに違いない。

 僕はわくわくした気分を抑えられず、青いアバターを走らせた。

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