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7 初クエストその2

 初クエストで意気揚々と荒れ地へとやってきた俺だったが、現在それどころではなくなっていた。

 鉄コガネムシのサイズが異様にデカかったのだ。

 背丈は人間と同じくらいあるし、体重はもっと重いだろう。つまり一般人にどうこうできるような虫ではなかった。


『キチ……キチ!』


 鉄コガネムシが威嚇するような声を上げる。


「ひ、ひいいいいいぃい!」


 俺は思わず尻もちを付いてしまった。

 怖い、怖すぎる……あぁ、殺される、絶対殺される、襲われたら殺される……ヤバいちびった……結局転生した意味なんてなかったんだ……!


「何してるんです? リアクションするにしても大げさすぎて白けてますよ」


「そんな余裕ないから!」


 なんでこの少女はこんなに余裕なんだ、噛みちぎられたらどうするんだよ。


「そう言えば一つ言い忘れていたことがあります」


「な、なんだ?」


「私の名前ですがズリカです」


「そんなこと今どうだっていいわ!」


「あ、来ますよ」



 そうこうしているうちに、シビレを切らしたのか知らないが、鉄コガネムシが俺たちに向けて羽を広げ突っ込んできた。



「ど、どひゃああああーー!!」



 俺はたまらず両手を上げて逃げ出す。

 こんなの相手になるわけない。逃げるが勝ちだ! 逃げればまた何度でもやり直せる! 

 あれ、でも待て、ズリカは!?


 俺はとっさに少女の存在を思い出し、足を止める。だめだ、ここで逃げてしまえば彼女の身が危ない。女の子を見捨てて俺だけ逃げる? そんなこと許されるわけない、他人がどうこうじゃない、俺自身のプライドの問題だ!


 俺は意を決して振り返る。

 そこには、少女を標的に捉えたのか、少女に向けカマを振りかざす鉄コガネムシの存在があった。

 やばい、間に合わない! なんとか彼女だけエモーショナルな感じで押し出すか? あぶなーい、ふっ、俺の分まで生きてくれよな……みたいな。ダメだ、それすらも間に合いそうにないぞ。ええい、こうなったら魔法でも使うしかないか。異世界だし適当に念じたりすればなんとかなったりするだろ。というかもうそれしかない。頼む、なんでもいいから出てくれ……!


 俺はダメ元で手を鉄コガネムシに向かってかざし、念じた。

 手から巨大な炎の球が放出され、カマを振り下ろそうとしていた鉄コガネムシを飲み込み、そのままどこかに飛んでいった。


「……え?」


 この声は俺ではなく少女のものだ。

 何が起こったのとばかりに目を丸くしている。


 うん、なんか出ちゃったな。

 控えめに言ってなんかヤバいのが。これが……魔法なのか? だとしたら凄く感動だ、でもなんか実感ないんだよな。いとも簡単に出せすぎたというか……。まぁでも魔法なんてこんなものか、深く考えて撃つようなものでもないよな。こういうのは勢いが大事なんだ。よーし。


 魔法を使えたっぽいので余韻に浸りたくもなったが、現在は絶賛戦闘中、まだ戦いは終わっちゃいない。

 すぐさま切り替えた俺は、残りの二匹にも炎の球を食らわせて消し飛ばした。

 ああ、これホント凄すぎだな。もう絶対助からないような速度で飛んでいってるもん。炎の球というか大砲みたいだな。


 まぁそんな感じで結構あっさり鉄コガネムシを狩ってしまった。


「えっと、今のは……」


「あぁ、なんか凄いもんが出ちゃったな。怪我はなかったか?」


「いえ、私は大丈夫ですけど。……今のはなんという魔法ですか? 瞬発的に捉えた限りでは炎の塊のようなものが見えましたが」


 なんか少女が柄にもなく真面目な顔になっている。え、そんなに凄かったのかな、結構簡単に撃てちゃったけど……。


「まぁ一応魔法なんじゃないか? 適当に炎をイメージしたってことなのかな、必死だったから覚えてないけど」


「……宮廷魔術師ですらそのレベルの魔法を放つ姿を見たことありません。この力は、一体……」


「そんなことどうだっていいだろ、とにかくこれでミッションクリアだ。ぼちぼち日も傾いてきたし、早く街に帰ろうぜ」


 長く話すと魔法に詳しくないことがバレてしまいそうだったので、適当に話を進めてごまかすことにした。


「……そうですね。帰りますか。ユイタさんの得意顔をいつまでも見続けるのはとても耐えられそうにありませんし」


 どういうことだよそれ……ホント一瞬でいつもの調子に戻りやがった。あーあ、もうちょっとくらい優越感に浸っても良かったのかな。


「なんか腹も減ってきたし、とっとと宿探して飯食って寝ようぜ」


「そうですね。じゃあ寝床は馬小屋で餌は雑草にしときますか」


「なんでだよ、馬みたいな生活は嫌だよ、馬は可愛いけどさ」


「あの、調子づいてる所大変申し上げにくいのですが……討伐証明はどうやってするおつもりです?」


「………………え」




 その後話しを聞くと、どうやら魔物を討伐したということを証明するには、魔物ごとに定められてる討伐証明部位を持ち帰らないといけないということらしい。鉄コガネムシの場合は右触覚だということだ。うん、触覚どころか全身残ってないな。

 ということで、俺は再び鉄コガネムシを三匹分探して狩り直すハメになった。終わった頃には日が暮れかかっていた。あー、なんか色々疲れた。帰ったら風呂に入ってとっとと寝よ。


 


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