6 初クエスト
少女が見せてきた依頼は鉄コガネムシの駆除といものだった。
「ランクもEランクか……まぁ虫だしドラゴンとかに比べればマシだよな」
俺はFランクということで、Eランクの依頼まで受けることができる。
冒険者として最初の依頼が昆虫なのはちょっとあれだが、しょっぱなは簡単なくらいが丁度いい気もする。
「私としてはドカンと一発いってやりたい気分だったのですが。即英雄、Sランク爆誕!」
「アホな事言うな、そんなの夢のまた夢だ。それよりもその依頼の報酬はちゃんとしてるんだろうな?」
何せ虫退治なのだ、思いっきりケチられてる可能性もあるのではないか。
「一応三匹の討伐で六千アポロですね。サブ報酬で甲殻の納品一個千アポロとあります。まぁ一日分の宿代にはなるんじゃないですかね」
「そうか、じゃあそれに決定だ。でもどこに生息してるんだ?」
「シモモの草原北東の洞窟地帯と書いてますよ」
「……どこだ」
当然地形なんぞ知るわけもない。
マップか何かあればいいんだけど、そんな都合よくあるわけないよな……。
「私が案内するので大丈夫ですよ」
「え、あんたも来るのか?」
「それはそうですよ、私たちパーティーじゃないですか」
「ごめん、ものすごく初耳だった」
「言ったじゃないですか、あなたに死んでも付き纏うって。だからこれからもよろしくお願い致しますね、ユイタさん」
少女はニコリと微笑んでくる。
くっ、いい笑顔なんだけどな、これで性格を知らなければまた違ってたんだろうが……というか俺の名前登録の時聞いてたな?
「まぁ、案内してくれるなら別にいいけど……因みにあんたの名前はなんなんだ?」
「え、聞いてくださるんですか? やっぱり呼び捨てにしたいんですか?」
「何言ってんだよ、普通に呼ぶ時不便だと思っただけだ」
「まったく、照れ屋さんなんですから」
「どうなってんだよ頭のなか」
「早くしないと置いていきますよ」
「切り替えの早さ!」
ということで俺は初依頼をクリアするため、街の外へと出発することになった。
あれ、名前聞けてない気がするんですが。
その後先ほどとは別の門から町の外に出て、目的地を目指した。
はぁどんだけ歩けばいいんだよ、もう一時間近くは歩いてるんじゃないか? 何故か足腰は全然ダルくないけど、暇すぎて精神的に疲れた。風景が草原とかで全然変わらないのが効いてるよな。もう眠りたい。
「着きましたよ」
そうこうしてようやく目的地らしき場所にきた。
確かに草原地帯だったのがちょっとした荒れ地みたいになっていて、なんかいそうな気がしなくもない。
「やっとか、よし虫探しますか。あれ、でも思えば虫取り網とかなんにも準備してきてないけど大丈夫なのか」
虫退治ということで完全になめていたが、何か対策とかが必要だったんじゃないか。
「倒して終わりなんで、特にこれといった物は必要ないかと思いますよ」
「そうなんだ、なんか自信ありげだな」
「ユイタさんが倒してくださるんでしょ?」
「俺だよりかよ……でもこんな場所に本当にいるのか?」
ここまで移動してくるのに魔物らしき生物の姿は一匹たりとも見かけていない。それに虫となるとサイズも小さいだろうし尚更見つけづらい気がする。
「依頼に出てるってことはそれなりに繁殖してるのではないですか? 何でも通りかかって怪我をした人がいるみたいですから」
「え、怪我……? それはどんな感じの?」
「分かりません、そこまで詳しくは書いてませんでした」
虫ごときで怪我って、何が起きたんだ?
もしかして攻撃してくるタイプの虫だったりするのか? いや、でも名前が鉄コガネムシだろ? 蜂とかじゃあるまいし大丈夫そうだけど。いきなり出てきてビックリして怪我したんだろ、恥ずかしいやつもいたもんだな、俺も虫はそんなに得意じゃないけど。
「とにかく走り回って見つけだすか。一応二人いるんだし手分けすれば――」
「あ、噂をすれば、アレじゃないですか?」
そう言って少女は上を見上げた。
俺も一緒に見上げる。
太陽の光で眩しいが、空に何か黒い影が浮いている。
あれは鳥か? いや、それにしては挙動が変だ。空中に留まってそのまま降りてきてる感じというか……
「やっぱりそうですよ」
「よく見えるな」
やがてその何かは、俺でも見える位置まで降りてきた。
少し離れた岩場に着地する。
ズシーン
重い音が鳴り響く。
そいつは確かに生物だった。
黒光りする骨格を持ち、二足歩行で直立している。背中に折りたたまれた羽で空を飛んでいたのだろう。それが三匹。
うん、急で驚いたけどここまではまだいい。でも俺も目がおかしいのかな、どう考えてもそのサイズが人間の大人くらいある気がするんだけど……
「あの、こいつらはあんたの知り合いか?」
「いえ、この方達が鉄コガネムシですよ。図鑑で見たことあります」
「サイズ感おかしくない!?」
え、ちょっと待って、虫って聞くからてっきり手の平より小さいくらいのものを想像してたんだけど……話がちがくね? 普通に襲われたら殺されそうな感じだよ? 赤い目でこっち見て凄く警戒してきてるよ?
持って帰る容器どうしようかなとか考えてた俺を殴りたくなってきていた。