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3 門

 俺は異世界転生早々、なぞの少女に出会った。

 そしてなんやかんやあり、彼女に近くの街まで案内して貰えることになった。


 そして五分くらい歩いたところで、前方に城壁のようなものが見えてきた。


「着きましたよ」


 彼女はこちらを振り返り告げてくる。

 マジかよ、本当に着いたのか。てっきり変なところに連れて行かれたりするのかと思ったわ。すごいな。


「そうみたいだな、ありがとう。まさか本当にちゃんと連れて行ってくれるとは思ってなかったからビックリしてます」


「私がそんな適当なことを言うとでも? 私真面目なのでめちゃくちゃその辺ちゃんとしますよ」


「そうなのか」


 そうしているうちに門の前付近まで来た。

 門には警備員らしき人たちの姿も見えた。

 門から城壁の中がちらりと伺えるが、何件かレンガ造りの建造物のようなものが見え、すごく期待できる感じだ。ここが異世界初の街になるわけだな、俺にとっての。


「あの、案内してくれて本当にありがとうございました。凄く助かりました」


 一応こればっかりは素直に感謝を告げておく。

 結局かなり近い場所にあったわけだけど案内して貰ったことに変わりはない。


「全然いいですよ」


「それじゃあ俺はこの辺で。君のことはずっと忘れないと思うよ」


 聞きようによっては凄く気持ち悪いことを言ってしまった気がするが、まぁこれきりの人を前に何を考える意味もないよな。どうせ会わないんだろうしな。


「そうですか、それではまたお会いしましょう」


 そう言って彼女は手を振ってきた。

 あぁ、いい出会いだったな。今思えばここで別れるのは少しもったいなかった気がするなぁ。異世界で初めて会った人というのもあるけど、性格はあれとして外見はかなり美少女だったし、久しぶりに接した女の子だったからな。俺にとっては中々レアな体験だったんじゃないか。まぁ今後人生長いんだし、機会がある時に仲良くできればいいか。もう今後二度と女の子と喋らないなんてこと流石にないだろうしな……ないよな? ま、まぁ当分は異世界生活の基盤を固める期間になるだろうから、喋らなかったとしても当たり前だろうけどな。


「とにかくまずは中に入るか。街にさえ入れればなんとかなるだろ。あれ、でも門って俺でも入れるのか?」


 もしかしたら通行税や身分確認などあるのではないかと唐突に不安になった。いや、というか普通はあるだろう。やばいどうやって通過しようか……


「お金持ってないし……どうしよ」


「大丈夫ですよ。お金なんてなくても普通に入れますよ」


「あ、そうなのか。だったら安心だな」


 ……あれ。


 振り返ってみる。

 そこには先程の女の子がいた。


「えっと……どういうこと?」


 ビックリした。もう二度と会うことはない前提だったから一瞬認識できなかったわ。


「ですからこのシモモの街の警備はさほど厳重ではないですからね、よほど怪しいとかでなければ簡単に通ることができるんですよ」


「警備について聞き返したわけじゃないんだよ。なんであんたがまだここにいるのか聞いてんだよ」


「え、ここにいてはダメなのですか? いつの間に私の移動選択の余地をあなたが決めることになっていたんですね」


「そういうことじゃないけど、もうお別れって雰囲気だったからさ」


「私はずっとここにいましたよ。確かに気配は消してましたけど」


「怖いことするな。もういいよ俺のことは気にして貰わなくても。これからなんとか一人で生きていくからさ、用事か何かあったんだろ? 俺のことは捨て置いてそっち優先して貰っていいから」


「分かりました」


 そう言って彼女は再び黙った。

 俺もしばらく黙って彼女の方を見ていた。

 彼女は一歩も動かなかった。


「なんで動かないの?」


「逆になんで動かないんですか?」


「いや、不思議だなと思って見てるだけだけど」


「私も不思議ですよ、なんであなたは動かないんだろうって」


「いや、別れの挨拶的なのしたよな俺ら? それで移動しないってどうなってるの?」


「その言葉がご自分に刺さっているのをお気づきではないのでしょうか?」


「……もういい」


 これ以上言い合ってもなんの益も生まれはしないだろう。

 確かによくよく考えてみれば彼女も動いていないのは勿論だが、俺も別れてからまだほとんど動いていないという事実がある。人のことはあまり言えないのかもしれない。ああ、だったら動いてやる。


 俺はてくてくと門の方向に歩いていった。

 門番の横を通り過ぎるが、特に声を掛けられるということもなかった。

 その間彼女は俺の後ろをずっとついてきていた。


「何がしたいの?」


「私の選択は私が選ぶ。それが私が生きている理由」


「いいこと言ったみたいな顔するな。後ろついてくるとか普通に怖いから」


「私は永遠についていきますよ。本当にそうした場合どうなるのか気になるので」


「え……」


 何言ってるのこの子。やっぱりマジで頭おかしいよ。美少女がどうとか関係ない、普通に怖い。


「冗談はやめてくれ、あんただってやることがあったんだろ?」


「あの状態の私を見てそう思われたのですか?」


「森の中を移動してたじゃんか」


「あれは暇すぎて徘徊してただけですよ。何か新しいことが見つからないかなと思って」


「えー、徘徊してたって自主申告する人初めてみた」


「私はとにかく愉快なイベントを欲してるんですよ。あなたに付いていけば何かがある気がするんです」


「なんだよそれ、俺じゃなくたっていいじゃんか、俺よりも面白いやつなんて沢山いるだろ」


 こんな普通のスペックの男子高校生に付きまとって何が楽しいというのだろうか。


「そんなことはないと思いますけど。私はどこか確信めいたものを感じてますけどね」


「面白くなんかならないから、絶対ない」


「じゃあ勝負しますか。私が楽しめるかどうか。あなたは楽しめないと予想するんですよね、私はその逆で楽しめると予想します。そうなると、やはりそれを証明するためにも付いていくしかなさそうですね」


「もうなんなんだよ」


 やばい……美少女と一緒に歩くって凄く羨ましいなんて前世の俺は思ってたけど、そんなことはなかった……結局人間は中身だったんだ……


「ということで先に行きましょう。さぁ、これからどこに行くんですか。私はどこでもお供しますよ」


 あぁ……ああ……なんでこんなことに……はぁ、もういいや。どうせ適当に転生させられた世界なんだ、俺だって適当に生きてやるさ。


「まずは食料と寝床の確保だ」


「わかりました」


 そうして俺は歩き出した。一人の美少女を連れて。そう、これが俺の異世界転生です。





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