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2 転生

「うぅ……あれ?」


 俺は気づけば草原のど真ん中で寝ていた。

 空は快晴。

 気温は春のような陽気さを感じられ丁度いい。

 あれ、俺なんでこんなところで寝てたんだっけ……マジで記憶がない。


「えーと……あっ!」


 そう思い記憶を辿ってみると、一瞬で思い出した。

 そうだ、俺は神と名乗るおじいさんと話してたんだ。

 確か地球じゃない星に転生させるとか言ってたよな。となるとここは異世界? マジかよ、あの話って本当だったのか? 俺は軽くその場で回転してみる。この現実感はとても夢なんかとは思えない。はぁ、やられたわ。俺が軽く了承するそぶりをみせた瞬間すぐに転生させやがったあのじじい。別にそんな乗り気でもなかったのに……


「どうするんだよ、ろくな説明も受けてないぞ。俺これから本当に異世界で過ごしていくのか? 予備知識ほぼないんですけど。一人暮らしもしたことないしマジでどうやって生きてくんだよ」


 あまりにの無責任さに俺は怒りを通り越して呆れてしまう。


「はぁ、なんとかしていくしかないのかなぁ」


 人間なんだから腹も減れば眠くもなる。

 いつまでもこんな所に突っ立っていても仕方がない。

 俺の生存本能は健在で、こんな状況であろうとなんとか生きながらえていく方向に考えがシフトしつつある。異世界、やっていけるのかなぁ……



「ていうかここどこなんだよ。せめてスタート地点は街だろ。草原に寝かせるやつがあるかよ」


 こんな大自然の中、人なんているわけないんだし……。


 そう思い周囲をぐるりと見回した時だった。

 周囲一帯は本当にただの草原なのだが、その中にポツリと一人分の人影が見えた。

 ん? あれ人じゃね?

 じっと観察してみるが、見れば見るほどやはり人間だ。散歩しているような雰囲気だった。

 なんでこんなところに人がいるんだろう。意味が分からないけどまぁそういうこともあるのかな。ただでさえこんな状況なのだ……こんなところで無視するとういうのも違うよな、よーし。


 俺は勇気を出してその人物の元に近づいてみた。

 こんな場所を一人で歩いているなんて明らかに怪しいが、そんなことは言ってられない。今の俺に選択肢はないのだ。


「あの、すみません!」


「……?」


 近づくと分かったが、その人物は女だった。

 それも二十歳も超えていないくらいであろう年齢……つまり俺と同い年くらいの見てくれだ。でも体格的にはちょっと小柄かな。

 そしてここが大事だが何故かかなり可愛かった。藍色の髪に、桜色の唇。俺がテレビ含め見たことある女子の中でもトップクラス、いやもしかしたら一番可愛いかもしれない。普段の俺ならドギマギしてろくに口答えすらできなかっただろう。しかし悲しいかな今の俺は普通ではない。流石に異世界転生してこれから生きていかないといけないという絶望感の方が、僅かに勝っていた。


「その、こんなところで何をしてるんですか?」


 とりあえず無難な質問から入ってみた。あえて一発ギャグから入ってみてもいいが、変態扱いされる恐れがある。まずは彼女の様子を見ていくのが安定だろう。

 そして俺の質問に対し、彼女はこちらを真っ直ぐと見据え口を開いた。


「何をしているか、ですか? 私はただブラブラしているだけですが。そんなことよりあなたの方こそ何をこんな場所で何をされているのですか? 大自然の中年頃の女の子に急に話しかけてくるなんて明らかに普通じゃないですよね」


「え!?」


 なんか思った反応と違う感じで戸惑ってしまう俺。

 女の子ってこんな感じだったっけ? そう言えば最近話してないからよく分からない。でも頑張って話すしかない。


「いやごめん、確かに俺も大分怪しいとは思うけどさ。でもこんな平原でブラブラしている人がいたら流石に気になるくないか? 近寄って何してるか尋ねるのもそんなに不自然じゃないことだと思うんだ」


「それはまぁそうかもしれませんね。でもあなたに気安く話しかけられるという事実がとても不愉快なんですよね。あなたのようなパッとしない根暗感のある男に好奇心を抱かれているということ自体ホントに耐えられないんですよ。ちょっとでも周囲にあなたと仲がいいと思われたと想像しただけでもう……ということでいち早く私から離れていただけますか、もうホントに無理ですから」


 信じられないくらい敬遠されてしまった。

 えー、そこまで言われないといけないの俺……確かに根暗で陰キャっていうのは認めざるを得ないけどさ……それでも初対面の人にこれはなくないか? 結構くるものがあるぞ。


「分かったよ。そんなに長く話すってわけじゃないから、でも少しだけ教えてほしい事があるんだ」


「なんですか? 発言を許可いたします」


「この近くに街とか村とかってないかな。実は迷子になって困ってるんだ」


 ひとまず一番知りたい情報について尋ねてみた。


「それならこっちの方角にありますよ」


 そう言って彼女はとある方向を指さす。おっと意外と素直なのか? 普通に困ってるところだからありがたいな。


「そうなんだ、ありがとう。真っ直ぐいけば着くってことだよね?」


「そうです。でも一つ忠告しておきます。今のは嘘です」


「嘘なの? なんで? 忠告って言わないぞそれ」


 なんだよこいつ、俺をからかってるのか? さすがの俺でもちょっと腹が立ってくるんだが。あーあ、なんか女子だからって身構えてたけどそんな必要もない気がしてきたな、なんかバカバカしいし。面倒くさいからもう適当に話す感じでもいいよな。


「あなたに教える義理が私にあるんですか。あるというのなら根拠を教えていただけますか」


「いや、義理とかはないとは思うけど……でも多少なりとも親切な心があるなら目の前で困っている人を助けることくらいしてあげてもいいんじゃないかとは思うけども」


「なるほど、つまりあなたは困っているということですか?」


「そうだ、迷子になってるからな」


「それでは仕方ないですね、もう一回教えてあげますよ。あっちかあっちかあっちです」


「明らかに適当じゃねぇか。キレイに別々の方向を指差してんじゃねぇよ。本当の方向を知りたいんだこっちは」


「それは流石に教えることはできませんね。ここまで来て教えるのはなんか違うじゃないですか」


「なんか違うってなんだよ。全然違くないから。普通に教えてくれたで別にいいから」


「逐一ツッコんできますね。悪くないですがもう少し勢いが欲しいですね」


「笑いの評論家なのか? 別に俺のツッコミを精査して欲しいわけじゃないんだよ。あの、本当に道を教えていただけませんか、お願いしますから」


 そう言って頭を下げた。


「はぁ、そこまで言われたら仕方ないですね。いいですよちょうど私も暇だったんで、街まで連れていってあげますよ」


 するとようやく折れてくれたのか、付いてきてください、と言って彼女は歩き始めた。

 え、案内してくれるのか? ありがたいが本当かな。やっぱり嘘ですとか言い出さないか? まぁでも付いていかないわけにもいかないからな……


 俺は微妙な気持ちで彼女の背中を追った。

 うーん、異世界転生ってこんなんだっけ? 想像してたのと大分違う気がするんだけど……まぁいいか。こんな異世界転生もありだろう、知らないけど。

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