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滅びた世界の、片想い。  作者: 淡月ゆきや
6/7

告白

「エリカさんがいじめられているのは、私が原因なんですか?」


憂いを帯びた表情で瀬乃レイアが復唱した。

皆が居なくなった放課後の教室。

エリカの席には、律儀に花瓶に入れられた花が置かれている。その意味を当の本人は理解していたのかは定かではない。いつも通り無反応でしれっと帰って行った。


「レイア、最近あの子と仲良かったじゃん……。この間、喫茶店で2人でいる所見たんだ……。ミカはレイアに心酔してたから……当て付けみたいな所もあるんじゃないかな」


いじめが日に日にエスカレートしていくのを見兼ねたルカは、レイアを呼び出し、単刀直入に聞いた。


「傍観者を貫いている貴方に責められるとは予想外でした」

「レイアも助けないよね?」

「あの子が救いを請わない限り、私は介入しません」

「……エリカは言わないよ。絶対、誰にも頼らない」

「なら、こんな話は時間の無駄ではないですか?」

「いや……レイアならあの3人にも立ち向かえるかと……」


ルカは言葉を濁らせながら呟く。


「本当、迷惑な話ですよね。空気も汚染されて、もうこのクラスは滅ぶしかありません」

「解ってんなら、どうにかして欲しい……」

「無理です」


満面の笑みで断るレイアにそれ以上は何も言えなかった。


「暴走した列車を素手で止める様なものですよ。何の能力も無い人間には無理ゲーです。ルカも解っているのでしょう?」

「……でも……あんな酷いこと……され続けたら……」

「自分で止める勇気が無いから他力本願ですか。それって結構な図々しさですよね」

「……ごめん……」

「いじめは自然に終わるのを待つしかありません。あの子達が自力で気付くか、それとも反撃されるか……。エリカさんは強い子ですからね。甘く見た代償は大きいと思います」


この時のレイアには既にエリカという少女を理解している節があった。彼女の言う通り、後にエリカは反撃を開始する。それも恐ろしい位静かな始まり方で。


「案外、意地悪な方なんですね。私が貴方を好いている事、ご存知なのでしょう?」


話題を変え、レイアはルカに歩み寄りながら聞いた。


「……そうかなとは思ってたけど……」

「叶わない恋だという事は痛感してます。ルカにはサイという恋人がいますものね。どうしたって勝ち目は無い」

「なんであたしなの……?レイアと関わった事なんてそんなに無いよね……?」

「入学式の日、他校の男子に絡まれていた所を救ってくれたんですよ」

「……あたしが?」

「はい」


ルカには全く記憶が無かったが、レイアは満ちた表情で語った。


「私も今の様に華やかでは無かったので印象は薄かったと思います。誰も助けてくれなくて泣き出しそうになってた時に、ルカが現れたんです」

「……入学式の日か……」

「男子には見向きもせずに私の手を握ってその場から連れ出してくれた。とても嬉しかったんですよ」

「そんなイケメンな事してたんだ……」

「その時に告白すれば良かった……。まさか、サイに取られるとは思いませんでした」

「……違う人なら良かった……?」

「そうですね。そうしたら私に勝ち目はありました。でも、あの子には敵いません。綺麗で凛としていて、更にカッコ良さまで身に付けて。惹かれちゃいますよね」

「まぁ……そうだね」

「相思相愛ですか?」

「……え?」

「なあなあで付き合っているのなら、私に乗り換えて下さい」

「は……?何言っ……」

「貴方は真剣じゃない。好きだと言われたから付き合っているだけでしょう?」


見透かされた目を向けられ、ルカは引けなくなった。


「……サイの事は好きだ……。別れる気も無い」

「そうですか……。残念ですね」


そう言いながらレイアはルカを押し倒した。


「痛った……」

「振られるなら、残酷な形で別れたい。どうぞ、抵抗して下さい」

「……レイア?さっきから変……」

「好きな人を目前にしたら誰だっておかしくなりますよ」

「っ……」


スカートの中から下腹部に触れられ、ルカはビクンと反応した。


「サイとはどこまで進んでますか?」

「……知ってどうするの……」

「同じ様にしたら、靡くかなと思いまして」

「そんな事ない……」

「言い切れますか?」


敏感な部分にまでレイアの指が当たり、ルカはビクビクしながら抵抗しようとする。


「嫌だ……レイア……」

「身体って不思議ですよね。人を選ばずに快楽に沈んでしまう……。ほら、もうこんなに息が乱れてますよ」

「……変態……!」

「あら。敵わないと知ったら罵りですか?愚昧も良いとこです」

「やっ……!」

「嫌なんですか?身体は素直ですけどね」

「っ……レイア、やめて……」

「私の事、嫌いになりますか?」

「……なるよ……」

「それは良かった」


レイアはルカから離れ、穏やかに微笑んだ。


「……レイア?」


ルカは身体を起こし、様子のおかしい彼女を見つめる。


「お別れですね、ルカ」

「……付き合ってもいないけど……」

「そうですね。サイとは、続けるんですか?」

「多分……」

「それじゃあ……私の付け入る隙なんて無いですね」

「……レイアの事好きな子は沢山いるよ」

「知ってます。片想い程、厄介なものはありません」

「なんであたしに惚れるかな……」

「運命じゃないですか?若しくは、赤い糸」


小指を立てながらレイアは可愛らしく言う。


「赤い糸ねぇ……」


呟いた瞬間、ガラッと扉が開き、サイが現れた。


「──なんだ。此処に居たのか、ルカ」

「サイ……。先に帰ったんじゃ……」

「忘れ物。お前らは何してんの?」

「野暮ですねぇ、サイったら。密会に決まってるじゃないですか」

「は?」


イラッとした表情がレイアを捕らえた。


「取りませんよ。貴方の大事な彼女でしょう?私は振られましたので」

「……脅かすなよ……」

「奪える訳無いですよ……。ルカは貴方にベタ惚れですもの」

「そうなのか」

「大切にしないと殴りますからね」

「怖ぇなぁ……。話着いたんなら、一緒に帰るか?」

「どうぞ、お二人でデートして下さい。私は先生に用があるので」

「そう。気を付けて帰れよ」

「ありがとうございます」

「行くぞ、ルカ」

「うん……」


教室から出ていく際にレイアを見ると、柔らかな表情で2人を見送っていた。その表情に些か不安を抱いたのは間違いなどでは無かった。



ルカとサイが出ていった後、レイアはカバンからロープを取り出し、その辺の椅子や机を並び替えた。


「──レイアちゃん……?」


静かに室内に入ってきたエリカが驚いた声を上げた。


「あら、エリカさん。ごきげんよう」

「……何してるの……?」

「洒落た準備を少々。エリカさんは?」

「あ、忘れ物しちゃって……」


ぎこちなさそうに自席へ行き、机の中から教材を取り出した。色々と落書きされた教材はとてもじゃないが勉強には適さない。


「エリカさん。全て、私の所為にして下さい」

「……え?なにを……」

「いじめが始まったのは私が原因です。貴方を傷付けてしまって本当に申し訳ありません」


頭を下げるレイアにエリカはあたふたしながら顔を上げてくれるよう頼んだ。


「レイアちゃんの所為じゃないよ。ただ運が悪かっただけ」

「……でしたら、限界だと思った時は反撃して下さい」

「……そんなこと出来ない……」

「エリカさんなら出来ます。貴方はとても強い。嫌だと言葉で言っても伝わらない様なら武器を使って下さい」

「武器……」

「なんでも良いです。貴方が反撃をしたらあの子達も目を覚ますでしょう。例え、罪に問われようと貴方がする事は無駄じゃない。ヒーローだって悪者を破壊します。それと同じです」

「……レイアちゃんに言われたら、勇気になるね」

「決して、イジメに屈してはダメです。耐えて耐えられなくなったら、反撃して下さい」

「……わかった。がんばる」


エリカの笑った表情にレイアも安堵した。


「レイアちゃんはまだ帰らない?」

「はい。もう少し残っていきますので」

「そっか。そしたら、また明日」

「……はい。また学校で会いましょう」


何の疑いを持つことなく、エリカは帰って行った。

レイアは静寂の中、着々と準備を進めていく。


「…………また明日、ですか……。嘘ではありませんけどね」


クスッと笑い、レイアは外を見る。


「あら……。今日は一段と冷えると思ったら雪が降ってましたか。積もる頃には、私はきっと空の上でしょうね」


降り出した雪はしんしんと都会を白く染めていく。まるで世界を白紙に戻すかのように。


ガタン、と椅子が倒れ、影が揺らぐ。


その光景を偶然目にしてしまったアカネは、動揺も恐怖も無く、ただ彼女の死を受け入れていた────。

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