黒魔術好きな少女と全知全能の神ゼウスとゴキブリ
「神様を召喚するわよ眼鏡ボーイ!!」
暗幕で光を遮った真っ暗な教室の中央に、ブカブカの魔道士風の衣装を纏った少女が杖を振りかざしている。
本で得た知識だろうか、燭台や贄台には呪術的な文字がつらつらと書き記されており、やや本格的な一面も見えたが、肝心の生贄はコッペパン(かじりかけ)だった。
「やっぱり止めた方が良いと思うなぁ。せめてデザートに家庭科部で貰ったイチゴも付けようよ」
「いや! このイチゴは帰ってから食べるの!」
少女の後ろで眼鏡の少年が心配そうにしていた。
彼が部員を集められなかったが為部費を賄うべく行われた召喚術に、複雑な顔で成り行きを見守るしかなかった。
「大丈夫よ! アンタの分も部費をせびってやるわ!」
「いや、俺は別に今のままでも……」
「良くないわよ!」
少女が本を開き、息を整える。
「えーっ……と、エロエム~ドエム~、メッサエロ。エロエム~ドエム~、メッサエロ」
胡散臭さしか窺えない詠唱に、少年が失笑を漏らしそうになる。が、燭台の炎が虹色のススを上げ始めたのが見えると、少年は口を閉じるのをも忘れ、ただその一点から目を離せなくなってしまった。
「……我を呼ぶ者はだれぞ」
「はい! はいはーい!」
少女がやってやったぜ、と言わんばかりに右手を高く突き上げた。
その声に呼応するかの如く、二人の目の前の空間が不規則に裂け、たくましい純白の腕が生えるように現れた!
そして贄台のコッペパンを奪い取るように掴むと、左手の指が空間の隙間を更に広げ、白髭白髪白顔の威厳に満ち溢れた男がたくましい上半身を突き出してきたのだった!!
「我は全知全能の神……ゼウスなり」
「やだ、大層なの呼んじゃった。てへ♪」
「黒魔術で神様呼べるんだ(笑)」
二人が和気あいあいとする中、ゼウスは無言でコッペパンを囓った。下半身は未だ裂けた空間の中だ。
「……驚かんのか?」
「別に。降臨の儀式は二回目だし」
「前はこんな小さい悪魔が出ただけだけどね」
ゼウスは少し眉を下げ、コッペパンを囓った。
が、裂けた空間の隙間から女性の声が聞こえると、途端に顔色を変えて焦り始めた。
「む、いかん。すまないが急いでくれないか?」
「このアホンダラ浮気者ー!!!! またあの女とイチャコラニャンニャンしやがってぇぇ!!!!」
二人は互いに顔を見合わせた。
「この人、本当に全知全能の神かな?」
「全痴全態かもね」
「いかん、契約違反だが勝手に出るぞ」
空間の隙間から腰巻き一つの姿でゼウスが飛び出すと、急いで裂けた空間を閉じ始めた。
「このアホ! ボケ亭主! 帰ってこんかオラ!!」
「……すまぬヘラ」
そして残りのコッペパンを口の中へと軽々放り込むと、何も無い空間に、まるで王座に座るかのようにドンと構え、二人を見下ろし始めた。
「さて、要件を聞こうか……」
「部費をちょーだい!」
少女が手を広げ差し出した。
ゼウスは意に介すること無く続けて問いかける。
「いかほどだ?」
「そうね~、たまにマック行きたいし、年間十万は欲しいから~、ひーふーみーよーで三十万円あればオールオッケー!」
ゼウスは少女を無視し、後ろで控えめに立っている少年に顔を向けた。
「貴殿は?」
「え? 俺……?」
まさか自分も願いを聞いて貰えるとは露ほども考えていなかった少年は、あたふたと悩ましく動き始め、そして程なくしてピタリと止まった。
「もし……もし本当に全知全能の神様でいらっしゃるのであれば、俺の願いなんか聞かなくても、知っているのでは?」
ゼウスは口をすぼめ、息を吐いた。
そして重い口調で話し始めた。
「ほぅ? なるほどなるほど。そう来るか、ハハ」
何も無い肘掛けに頬杖を突き、少しだけ笑みをこぼしたゼウスは、人差し指を立てて二人の注目を引いた。
「どんな小さな願いにも代償はある」
と、立てた人差し指を少年に強く向けると、少年はたちどころに小さくなり、羽が生えて一匹の眼鏡顔のゴキブリとなってしまった!!
「な! 何するのよ!!」
少女が慌ててちり取りを持ち出し、ゴキブリを捕獲した。
「三十万円の代償は、その少年を日付が変わるまで守り抜くこと。知性は少年のままだから、うっかり野垂れ死ぬような事はなかろう」
「何ですって!?」
放課後の教室に、帰宅を促す校内放送が流れ出した。
「ただし、この辺り一帯の人間達をちょいといじってやった。そのゴキブリを潰すと寿司がタダで食べられるとな」
「それは全知全能がやることなのかしら……!?」
「さあ? 全知全能だからやる時もあろう」
ゼウスが指を鳴らすと、教室の前後の扉が開き、今まで何処に居たのかと思うほどの人数が、ホウキや丸めた新聞紙、スリッパや殺虫剤を持って現れた。
誰しもが口々に「寿司……」と呟いており、理性的ではなかった。
「み、皆……! それに先生まで!?」
「伽黒~、この辺でゴキブリを見なカッたかなぁ?」
左右の眼が非対称に複雑な動きを見せ、現国教師が手にしていたバルサンのスイッチを押した!!
「逃げて!!」
少女は窓を開けてゴキブリを空高く放り投げた。
ゴキブリは羽を広げ、校舎から近くの森へと飛んでいった。
「寿司が逃げたぞォ!?」
「スシィィ」
「寿司ぃぃ……」
まるでゾンビの群れの如く移動を始めた群衆。
そしていつの間にか姿を消したゼウス。
少女はすぐに地面にしゃがみ込み、自分が今、何を優先的にすべきか、頭を抱えて考え始めた。
自分のせいで命を賭けられている。
もし死んでしまったら……。
「流石に夢見が悪い」
少女は意を決して今日を乗り切る決意を決めた。
「咄嗟に逃がしちゃったけれど、人海戦術でこられたらいつかは見付かっちゃう……!! いくら頭脳はアイツのままだからって──そうだわ!!」
少女はすっくと立ち上がり、外に向かって駆け始めた。内履きのまま校門を出ると、スマホを取り出し住所を調べ始めた。
「きっとまずは家に帰ってるはず。なにより家が一番安全なんだから……!!」
少女は一心不乱に駆けた──が。
「キャーッ!!」
「誰かぁぁ!! 浴槽にゴキブリがぁぁ!!」
少年は命の危険を顧みず、己が欲の赴くままに飛んでいた。
「オバさん!」
「あら、まだあの子帰ってきてないわよ?」
「知ってる!」
少女は我が物顔で少年の部屋へと上がり込んだ。
幼き頃から顔馴染みであるため、これくらいは日常茶飯事であった。
「窓さえ開けておけば……!!」
僅かに窓を開け、少年の帰りに備えた。
「ねえ魔子ちゃん?」
「…………」
家を出ようとした時、少女はただならぬ気配を感じた。
少年の母親が静かに新聞紙を丸めながら、そうっと歩いてきたのだ。
「今日のお夕飯……お寿司にしようと思うんだけど……」
「へぇ」
少女は決して目を合わせそうとはしなかった。
身近な人が豹変した、その変貌を直視することがとてつもなく恐ろしく感じられたからだ。
「ゴキブリ……見なかっタ?」
「……い、いえ」
少女は逃げるように家を飛び出した!
「ただのコッペパン囓りだと思って侮ってたわ……!! マジでマジモンの神様じゃないの……!!」
少女はようやく察した。
自らが手を出したのは禁忌であることに。
いや、薄々とは分かっていた。
ただ……出来てしまうという事実にフタをする事が出来なかったのだ。
「あのアホゴキブリめ……死んだら許さないんだから……!!」
少女は再び走り出した。
「アイツのことだから、きっと危なくなるまで女湯でも覗いてるに違いないわ!! なんで男子ってこうなのかしら!?」
近場の銭湯から、タオル一枚で身を隠しながらハエ叩きを振るう女子達の一団が現れた。
「スシィィ!!」
「スシスシスシィ!」
羞恥心が何処かへと行ってしまったのか。はたまたそれをも上回る何かに突き動かされているのか。とても激しい動きでハエ叩きを振るい、目を血走らせている。
「やっぱり!」
少女はすぐさま銭湯の裏手に回った。
過去に一度、裏手に逃げる少年を見たことがあるからだ。
「おーい」
やや小声で、辺りを見渡した。
朽ちたプラスチックの黄色いビールケースをひっくり返すと、眼鏡顔のゴキブリと目が合った。
「やっぱり居た」
すぐさまハンカチを取り出し、少女はゴキブリを保護した。少年も暴れること無く、とりあえずは大人しくポケットへと潜むことに決めた。
「寿司アターック!!」
と、いきなり少女の脇腹めがけてバットが振られた!
咄嗟の事で回避も叶わず、少女はほぼ無防備な状態でバットによる一撃を受けてしまった!
「──アグッ!!」
「んん~? 今の感じだと寿司は外したみてぇだなぁ……??」
前髪を赤く染めた腕に夜叉の刺青をした青年が、クチャクチャとガムを音立てながら少女に向かってバットを振りかざしている。
何が起きたのか理解する前に、脇腹から激痛が押し寄せた。
初めて体験する壮絶な痛みに、少女の思考は全てにおいてスイッチが切れてしまった。
「さーて、寿司ぃ~♪」
青年が少女のポケットへと手を入れた。
膨らんだ四つ折りのハンカチを取り出すと、ポンと地面に投げ、無言で右足を上げた。
「や……!!」
咄嗟にゴキブリを庇うように、少女が間に割って入った。青年の右足は少女の背中を強く捉え、激痛からくる汗が止まらなくなっていた。
「おぉん!? 寿司パ邪魔すんなや!!」
二度、三度と少女を踏み付ける。
そして怒りに任せて痛む脇腹をより強く蹴飛ばした!!
「いっ──!!!!」
銭湯の壁まで転がり込む少女。
四つ折りのハンカチが露わになった。
「ふふ、寿司♪」
青年は極めつけの笑顔で、躊躇いも無くバットの先をハンカチに押し付けた。
念を込め、グリグリと、酷く擦り付け、汁が染み出すまでそれを楽しんだ。
「ハハ! 寿司ィィィィ!!!!」
バットを放り投げ駆け出す青年。その顔は満足げな色が現れていた。
そして誰も居なくなり、骨が折れていない事を判断できるまで冷静さを取り戻した少女は、脇腹を押さえながらゆっくりと歩き出した。
「……ただいま」
誰も居ない自宅に、少女の声が寂しく染みた。
共働きの両親が帰るのは早くても七時以降。少女は束の間の休息を得ることが出来た。
「イチゴ、後で買いなさいよ……」
ポケットからカサカサと、眼鏡顔のゴキブリがはいでた。
少女を心配するように、じっとその顔を見て動かない。
「あんまり見ないでよ……ホントは喚き散らしたい程我慢してるんだから」
服をめくると、脇腹は痛々しい赤さが見えた。
「良かった。これくらいなら痕に残らないわね」
部屋に寝そべり、ゆっくりと深呼吸。
ゴキブリはその傍で少女を見守っている。
「……そう言えばアンタ、何を願ったの?」
触覚がピクリと動いたが、言葉は無かった。
「ま、いいわ。明日には分かるんでしょ? てかさっき勢いで素手でアンタ触っちゃったけれど、清潔かしら?」
触覚が縦に動いた。しかし衛生的に見えるわけのない見た目なのでどうしようもない。
「……ま、いいわ。アンタだから許してあげる」
少女はゴキブリをそっと手にとると、柔らかく包み込み、少しだけ眠りについた。
「……やだ、寝過ぎた?」
ハッと目覚めスマホを見ると、夜の七時を回っていた。そろそろ少女の両親が帰宅すると思われ、恐らくしているであろう変貌に、少女は不安と苛立ちを募らせた。
「生きてる?」
手の中のゴキブリがカサカサと動き出した。
少女はそっと机に引き出しを開け、空き缶の中へゴキブリを入れてカギをかけた。
「きっとパパもママも寿司マンになってるわ……」
少女はスマホを急いで叩き、事に備えた。
「ただいまァ」
「魔コー?」
父親と母親が二人同時に帰宅した。
語尾から察するに二人ともゼウスに弄られてしまったいるようだった。
「魔子ォォ?」
少女は急いで魔道士服制服を脱いでパジャマへと着替えた。
そしてジッと息を潜め、事が収まるのを待った。
「……寝てるのかァ?」
誰かがドアノブを下げた。少女の父親だ。
少女の部屋へ一人の影が伸び、スーッと現れた。手には殺虫剤とスリッパが見えた。
「まコ……?」
少女はベッドの中、父親の気配を感じた。
決して微動だにせず、やり過ごそう。その意思で震えを押さえていた。
「…………」
やがて部屋のドアが再び開く音がすると、少女に安堵が訪れた。
──ガチャ
「……!?」
が、同時に引き出しを開けようとする音がした。
少女の母親だ! ドアの音は父親が出て行くものではなく、母親が入ってくる音だった!!
「ここかラ寿司の臭いガ……?」
「ほんとカァ?」
少女は咄嗟に口を押さえて不安を呑み込んだ!
カギはかけてある! 開けられはしない!
だが、それでもなお胸を覆うヘドロ感が拭えないのだ!
「鍵穴から殺虫剤を入れてみるかァ?」
その発言に少女はたまらず飛び起きそうになった──!
──ピンポーン
ノズルが鍵穴へ押し当てられた瞬間、家のインターフォンが鳴った。
「どーもー! 江戸っ子寿司でーす! 出前でーす!」
「寿司ダァ!」
「寿司スシぃぃ!」
寿司の出前の到着に、二人が燥ぎ駆けだした。
少女はその隙に引き出しから空き缶を取り出し、ベッドへと潜り込んだ!
缶を握り締める手は既に押さえられるレベルを超えており、自分ではどうしようも無いくらいに、まるで自分の身体では無いかのように、強ばって言うことを効かなかった。
「魔子が頼んでくれタのかァ! ハハ、父さんの誕生日は来月ダぞぉ!?」
玄関に寿司を広げ、両手でバクバクと寿司を頬張り始めた両親と出前。場所も人も関係なく、ただひたすらに三人は寿司を口へと押し込み続ける。
夜の十時を過ぎても、少女は波乱の終わりを感じてはいなかった。
「ハハ、おかわリぃ~!」
ノックも無く、挨拶も無く、父親が少女の部屋へと突然に姿を見せた。手にはスリッパと殺虫剤。殺る気の気配に満ち満ちていた。
──プシューッ!
何の前触れも無く殺虫剤が注がれた!
少女はベッドの中で震え、すぐ隣の狂気と戦っている。
「……ノ?」
引き出しが開いた。
口から大量の米粒をボロボロと落としながら、ゆっくりと少女の居るベッドへと迫る父親。
勢い良くシーツが剥がされた!
少女が驚きビクンと跳ねた!
狂気に満ちた父親の顔の奥。開いている引き出しを見て、少女は自分の失態を悟った。
「寿司……」
父親の口から海老が落ちた。
「お、おかわりならもう一度頼もうか……?」
空き缶を背中に隠す少女。その顔は父と子の間柄で交わす物では決して無かった。
「寿司ぃ!!」
父親の手が少女の背中に伸びた!
「ダメッ!」
抵抗するもスリッパで頬を叩かれ、空き缶はすぐに父親の手に渡ってしまう。父親は嬉々として蓋を開け、そして少女を睨み付けた。空き缶の中は消しゴムと鉛筆しか無かったのだ。
「まコぉ……とうさんにかくシ事はよくないナ。……その手の中を見せてみなサイ」
両手を合わせるように握る少女に、殺虫剤が向けられた。少女は酷く震え、何も言えなかった。
「開きナさい!!」
「…………!!」
それでも少女はその手を強く閉じ、意志を貫いた。
ノズルが指の隙間へ捻じ込まれると、少女は泣き出した。
──プシューッ!
「寿司ッ!」
指の隙間から液が漏れた。
やがて観念した少女が指を開くと、そこには液体だけしか無く、父親は酷く戸惑い始めた。
「寿司ッ……!?」
顔を歪めボロボロと涙をこぼす少女に、父親は慌てて謝り始めた。
「ご、ゴメンヨ……魔子! とうさン寿司かと思って……!!」
逃げるように退室する父親。
少女は確実に部屋を去った事を確認し、口を開けた。
「……うぇ」
涎だらけのゴキブリをそっとティッシュで拭く少女に、ゴキブリはそっと心配そうな目を向けた。
「これで三十万とか、辛すぎでしょーよ……」
スマホの時計は十一時にも満たなかった。
しかしもう何も無いだろう。少女は心の何処かでそれを確信していた。
ゴキブリをそっと握り締め、涙を拭いてベッドへと戻ると、少女はすぐに寝入ってしまった……。
──翌朝、少女は寝起きに顔面パンチをお見舞いした。
「何でアンタが隣で寝てるのよ!!」
「いや、ほら、アレだよ!」
「──あ! ……ごめん」
朝日を浴び、お互いの無事を確認する二人。
少女の両親も元に戻っており、玄関の後片付けをしていた。
「やだ、誰? 玄関でお寿司ぶちまけた人……?」
少女の母親が不満を漏らしながら掃除をしていた。
「……行こっか♪」
「何処に?」
「部費を確認しに」
二人がへ部室(不法占拠)へ向かうと、ゼウスが何も無い空間に座っていた。ただ、その顔は誰かにやられたのか、やけに生傷が多かった。
「まずは生還おめでとう」
「クソボケ神様のせいでゴキブリ口に入れる羽目になったわよ!!」
「まあそう言うな」
と、ゼウスが一枚の紙切れを飛ばした。
「今週のメインレース。7-5-11に百円だ。それ以上は賭けるなよ? 結果が変わって外れるぞ」
「高校生に競馬やらすなやオッサン」
「父親にでも買ってもらえ」
「神様ならもう少しスマートにやりなさいよ」
「──さて、貴殿だが……」
ゼウスが少年を見た。が、少年の顔はやや険しかった。
「貴殿は『二人で平穏な日々を』だったな。一日ゴキブリ署長お疲れさん」
「……違う」
「ん?」
少年はゼウスを睨み付けた。
「『俺の願いはゼウスを下僕に』だ!」
「なんだと? 貴様! あの時貴様の心はそう言っていたでは無いか!! 現に代償もそれに合わせて──」
「それはそっちの手違いだ!! 俺の本当の願いはゼウスを配下に加える事! 既に代償は支払った! 後は契約を守るだけだぞゼウス!!」
「なっ!!」
「眼鏡ボーイ……」
「それともアッチで更にヘラにとっちめられた方が良いか!?」
「グ、グヌヌ……!!」
「人間の手下なら数十年! ヘラとの夫婦喧嘩は何百年!! 単純な計算だろ!!」
「グ、グヌヌゥゥ!! 全知全能の我をハメたなぁ……!!」
ゼウスは項垂れ、渋々契約を結んだ。
「さて下僕よ」
「……」
「貴様に命ずるのは一つだけだ」
「……?」
「我々二人が平穏に暮らせるよう、たまに助言してくれ」
「…………」
ゼウスは頭を掻いて、自らの不始末を後悔した。
「やだ、眼鏡ボーイが格好いい……」
「魔子ちゃんを酷い目に遭わせたからね。これくらいはしないと」
こうして二人は全知全能の加護の下、末永く幸せに暮らしたという。