5 琥太郎と瑠那
琥太郎と瑠那が晴れてクロスディスターになってから三日が経った。
その間、琥太郎たちは養成所とは別の施設で色々なテストを受けさせられた。
攻撃の破壊力、衝撃への耐久性、瞬発力や跳躍力などの測定。
その他、クロスディスターになってから得た特殊能力などの調査等々……
無茶なこともやらされたが、狭い部屋で殴り殴られを繰り返すよりはマシな生活だった。
そして今日。
琥太郎は初めて東京から出ることを許された。
停車した列車に乗り込み、目的地も告げられないまま出発する。
列車は地下を移動しているため窓の外は真っ暗だ。
等間隔でSHINEの明かりが見えるだけの景色が続く。
車両には十人ほどのブシーズ隊員が一緒に乗っている。
監視されているようで気に入らなかったが、それよりも問題は正面に座っている奴である。
ディスターラピスラズリこと速海瑠那。
彼はいかにも何か会話をしたそうな雰囲気でこっちをチラチラ見ている。
琥太郎は視線を窓の外の暗闇に向けて無視し続けていたが、ついに我慢ができなくなったらしく話しかけてきた。
「あ、あの、アンバーさん」
「琥太郎って呼べ。さん付けもいらない」
視線を逸らしたままぶっきらぼうに答える。
しかし瑠那は返事があったことに安心したのかホッとした様子でさらに話しかけてきた。
「琥太郎はウォーリアになる前はどこで暮らしていたんですか?」
なんで敬語なんだと思ったが、何か言うたびに改めさせるのも面倒だ。
琥太郎は短く簡潔に答える。
「ウラワコミューンだ。埼玉地区の三等国民だった」
「へえ、三等国民からウォーリアに選ばれるなんてすごいですね。よっぽど目立った活躍をしたんでしょうか」
琥太郎は小さく舌打ちをした。
彼がウォーリア候補生になった理由はそんな立派なものじゃない。
こうなったのは一夜の自由を求めて遊び半分のコミューンを脱出したのことがきっかけだった。
結果は大失敗。
一緒にいた友人はみんな殺された。
あの時のことは思い出したくもないし、人に話したい過去でもない。
「は、話したくないならいいんです。えっと、ボクはクリムゾンアゼリアで育ちました。と言っても育った区画以外のことはよく知らないんですけど」
質問に答えず黙っていると、瑠那は慌てた様子で今度は自分のことを語り始めた。
「父が現役のウォーリアなんです。ボク自身は官僚を目指して勉強をしていたんですが、ウォーリアの資質ありと見なされてこの道に進むことになりました。養成所には通っていないんですけどね。代わりに大陸で先輩たちについて一年ほど実地研修をしていました」
「大陸帰りなのか」
意外なこいつの経歴に少しだけ興味がわいた。
海外の戦場と言えばウォーリアの任務の花形である。
たしか序列二桁以上のエリートしか就けない役目と聞いている。
しかし瑠那の感想は琥太郎の想像と少し想像と違った。
「内地の方はエリートなんて言って下さいますけど、実際の戦場勤務は地獄ですよ。先輩たちもみんな早く内地勤務に就きたがってました」
序列の高いウォーリアといえども仕事内容は自分で選べるわけでもない。
どこに勤めていたって無い物ねだりはあるってことなんだろう。
「結局、戦場勤務には相応しくないと見なされて一年足らずで強制送還を食らっちゃいました」
「なるほど。それで落ちこぼれなのか」
「は、はい」
恥ずかしそうに言う瑠那に琥太郎はフッと笑う。
小馬鹿にしたつもりだったが、何故か瑠那は嬉しそうな表情になった。
「それにしても、アニメのキャラみたいな変身をしたのはびっくりしましたよね。ボクはもう慣れましたけど琥太郎はどうですか?」
心を開いたとでも勘違いしたのだろうか、さっきより馴れ馴れしく話しかけてくる。
「さあな。別になんでもいいよ」
「そ、そうですか……」
琥太郎が素っ気なくすると、瑠那はしゅんとして黙り込んだ。
そんな風にしおらしい態度を取られると悪いことをした気分になってくる。
「……まあ、驚きはしたよな」
「そうですよね!」
改めて同意をすると彼は喜んで相づちを打った。
かなり他人の意見を気にするタイプのようだ。
「あ、お腹空いてませんか? ボク、こんなの持ってきたんですけど」
手を叩いて足下のカバンを開け、袋入りのチョコレートを取り出す。
瑠那はそのうちひとつを掌にのせてこちらに差し出してくる。
別に腹は減っていなかったが、菓子など見るのも久しぶりだったので思わず手が伸びた。
口の中に放り込む。
一年ぶりの甘さが拡がる。
「うまいな」
「それはよかったです」
初めて会った時もなよなよした奴だと思ったが、今のこいつは動作の一つ一つが無駄に女っぽい。
クロスディスターになってひょろくなったことを差し引いても女なんじゃないかと疑うほどだ。
少なくとも琥太郎が養成所で殴り合ってきた候補生たちに比べればよっぽど女性的である。
「ところでお前、その髪うっとうしくないのか?」
クロスディスターになったことで増えた異常な量の髪。
毛皮を被っているような状態だったが、琥太郎は今朝ざっくりと切り落としてしまった。
それでも肩に掛かる程度の長さはあるが、瑠那は変身した時そのままの大きなポニーテールを座席に垂らしている。
「ええ、でも短くすると力が入らないですから。何かあったときのために」
研究の結果、どうやらこの髪が周囲のSHINEを吸収してエネルギーに変換しているらしいことがわかった。
短く切れば思うような力が出せなくなってしまうが変身の言葉ですぐ元に戻る。
また、現状でもNDリング装着時に近いくらいのパワーはある。
「あ、別に責めてるわけじゃないですよ。周囲の警戒はボクがやりますから。琥太郎は楽な格好でいてください」
ちなみに変身時の衣装は流石に派手すぎるので、二人とも今はブシーズの隊服姿に着替えている。
強化されるのはあくまで肉体なのであの衣装に何の効果があるのかは現在調査中だ。
一着は研究機関に預けてあるが、どうせリセットするたびに増える。
「琥太郎と仲良くなれそうでよかったです。任務、一緒に頑張りましょうね」
どうやら友だち認定されてしまったようだ。
瑠那は嫌なやつではない。
馴れ合う気はもちろんないが、殴り合いだけの関係だった養成所の奴らよりはずっとマシだ。
どうせこの任務が終わったら別行動なのだし。
瑠那が話題を振って琥太郎が適当に相づちを打つ。
そんなことを繰り返すことしばし、やがて列車は目的地に到着した。
東京の外には地上を走る鉄道は存在しないが政府専用の地下鉄がどこへでも繋がっている。
琥太郎たちが降り立ったのはナリタコミューン。
千葉北部地区の農業都市である。




