4 悪のクロスディスター! アンバー&ラピスラズリ!
「か、可能性と申しましたでございますかっ」
琥太郎の無礼を取り繕うかのように瑠那はことさら丁寧な口調で質問をする。
声がうわずっている上に変な言葉遣いなので馬鹿にしているように聞こえなくもないが、ハクシュウは気にせず答えた。
「CDリングを装着して生き残った者。つまり現在進行形で我々に楯突いてるクロスディスターには共通点がある。それはどっちも先天的SHIP能力者だってことだ」
「先天的SHIP能力者?」
SHIP能力というのは常人にはない超人的な身体能力のことである。
現在ではその全容が解明されており、研究成果はNDリングに統合されている。
ウォーリアが持つ肉体的な力は元を正せばこのSHIP能力を人工的に引き出すものだ。
「『特異点』と呼ばれる男をきっかけに爆発的に増えたSHIP能力者だが、元は極めて閉鎖的な血筋に受け継がれるか、一部の天才が持って生まれ一代限りで消えていく才能だった。この本来の意味でのSHIP能力者を先天的SHIP能力者と呼ぶ」
ハクシュウはまず青い宝石がついたリングを瑠那に放り投げる。
「速海瑠那。序列二位のウォーリアであるお前の父親は紛れもなく先天的SHIP能力者だ。とは言え、まさかあの方に実験台になってくれとは言えないんで、息子であるお前に白羽の矢が立った」
瑠那はごくりと咽を鳴らしながら受け取ったリングを眺める。
次は琥太郎が黄色い宝石のリングを受け取った。
「そして琥太郎。JOYも取得してないくせにお前の力は相当なもんだ。あれだけ戦い続けられるのはお前が先天的SHIP能力者だから……というのは都合よく考えすぎだと思うか?」
「しっかり調べてないのかよ」
「ここにそんな設備はないからな」
ハクシュウはからかうようにニヤニヤと笑いながら言った。
調査するより試してみてダメなら廃棄した方が安上がりってことなんだろう。
「ただそれだけじゃあんまりなんで、もしお前らがクロスディスターと同等の力を得たら、重大実験に協力した褒美としてウォーリア序列二桁を約束しよう」
「えっ!?」
「序列……!」
琥太郎と瑠那は同時に顔を上げた。
序列二桁のウォーリア。
彼らからすれば雲上人のごとき圧倒的高位者である。
富も名声も思いのまま、養成所を出てすぐの新米が得られる栄誉ではない。
「さあ、どうする?」
琥太郎が先天的SHIP能力者かもしれないというのは根拠ある話ではない。
瑠那にしても本人にその資質は今のところ認められていないようだ。
どちらも可能性の話であって安全が保障されたわけではない。
やれば惨らしく死ぬかも知れない。
上手くいけば素晴らしい権力を得られる。
流石に簡単に答えられることではない、が……
「やります」
悩む琥太郎より先に瑠那が返事をした。
彼は顔を上げてまっすぐにハクシュウの目を見る。
「いいんだな? マジで死ぬかも知れないぜ」
「このまま落ちこぼれとして生きるよりはずっとマシです。どうせ戦わなくちゃいけないなら、ぼくは父さんの名に恥ずかしくないような人間になる……!」
よくわからないが、弱弱しく見えるこいつにもこいつなりの事情があるらしい。
琥太郎はフッと笑った。
瑠那が不審そうに目を向けてくる。
「そうだな。別に死んだって構わねえもんな」
どうせこの命だって友人たちの犠牲の上に成り立っているのだ。
今さら命を惜しんでたらあいつらに笑われる。
死の恐怖から逃げて醜態をさらすのは人生で一度きりで十分だ。
琥太郎と瑠那は顔を見合わせた。
そして互いに頷き合うと、渡されたCDリングを左腕にはめた。
途端、すでに装備していたNDリングが粉々に砕け散る。
「な、なんだ!?」
NDリングは一度装着したら決して外れることがないと言われている。
これは明らかな異常事態。
これもCDリングの力なのか。
身体が急に重くなる。
ウォーリアとしての力を一瞬にして失ったのだ。
自分の身体はこんなにも力が入らないものだったのかと驚くが……
「なんだ、こいつは……!」
同時に新たな力への渇望が生まれる。
気分が異常なまでに高揚していくのがわかる。
頭の中に『ある言葉』が浮かんだ。
琥太郎と瑠那は本能の赴くままに叫んだ。
「クロスチャアァァァジ!」
「クロスチャージィィッ!」
光が溢れた。
物質的な圧力すら持った圧倒的な光が。
「うおっ!」
あまりの光量にハクシュウは目を覆う。
溢れた光は一瞬で消え、中から不思議な格好をした二人の人物が姿を現した。
まるで狼の身体のようなシルエットの量が多い金色の髪。
派手な装飾が施された三段階に濃度の異なる黄金の西洋甲冑。
「大地を照らす太陽の恵み。野生の力みなぎる金色の騎士――」
頭の後ろで束ねられた青色の大きなポニーテール。
同じく三段階に濃度の異なる裾が長い薄青色の軍服風衣装。
「天より注ぐ高貴なる閃光。二極を司る蒼色の神兵――」
琥太郎は髪を振り乱して掌を前に突き出す。
瑠那は二本指を立て口元を隠すようにポーズを取った。
そして彼らは新たに得た自らの名を叫ぶ。
「ディスターアンバー!」
「ディスターラピスラズリ!」
※
「……まあ、なんだ。成功して良かったな」
冷静に言い放つハクシュウを前に、琥太郎は忘れていたとある感情を思い出す。
それは全身を炎が燃え上げるように全身を駆け巡る。
恥ずかしいという感情だ。
「な、なんだこりゃ! 俺はなにを口走っちゃってんだ!?」
「うわあ……」
瑠那も同じように自分の姿を見て呆然としている。
二人はそれぞれ互いの格好を確認して引きつった顔を見せた。
異様に増えた髪の量。
どちらも本来は戦闘職の衣装ではある。
が、どちらかと言えば実用性を無視した奇抜なデザインは、コスプレかアニメキャラのようだ。
「なんつー格好だよ……心なしか、体つきまで変わってるような……?」
「言い忘れてたが、クロスディスターに変身すると肉体も変化するらしい。ちなみに二度と元には戻れないらしいぞ」
「そ、そういうことはもっと早く言って欲しかったです……」
今さら過ぎだろう。
必死に鍛え上げた身体が、まるで女のように細くなってしまった。
やたら柔らかい腕には筋肉なんてほとんど残っていない。
だが、この受け入れがたい現実に後悔したのもほんの数秒のこと。
すぐに琥太郎は前以上の力が身体の奥からわき出ているのに気付いた。
「これは……」
拳を握ると、まるで機械のアシストを得ているように力が入る。
数分前とはまったくの別物。
先ほどNDリングが砕けたときに感じた重さとは全く逆の感覚だ。
まさに生まれ変わったというしかない。
これがクロスディスター。
確かにこれならば現役のウォーリアが倒されたのも納得がいく。
どちらもこの身体で経験しているからハッキリとわかる。
早く試してみたい。
この力を振るってみたい。
候補生相手に?
いや、それじゃ物足りないだろう。
もっと良い相手がいるはずだ。
例えば、ほら目の前に。
こいつさえ倒せばこの施設に敵はない。
真の自由を手に入れることだって――
「あー、くだらねえこと考えてるなら止めておけよ?」
ハクシュウが頭をかきながら言う。
いつの間にか琥太郎は彼を睨み付けていたことに気付いた。
それと同時に強烈な恐怖感が襲ってくる。
「新しい力を手に入れて万能感に浸る気分はわかるが、序列十位を侮ったら痛い目見るぜ。もし俺をやれたとしても紅武凰国全てを敵に回して勝てると思う程バカじゃねえだろ?」
琥太郎は握っていた拳に込めていた力を解いた。
直前までの愚かな思考が霧散する。
よく考えれば当たり前のことだ。
どんな強い力を持っていても個人では組織に敵わない。
何百人ものウォーリアを司っているのは、この紅武凰国そのものだ。
それに手にした力は絶大だが、それでもこの男と戦うのは危険だと何かが告げている。
過ちを犯す危機は寸前で回避された。
ハクシュウはニヤッと笑う。
「それでいい。お前たちはその力を使ってウォーリアとして上を目指せ」




