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CROSS DAYSTAR JADE -Jewel of Youth ep3-  作者: すこみ
第九話 悪のクロスディスター! アンバー&ラピスラズリ!
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1 ウォーリア養成所の日々

 東京の府中にブシーズの養成学校がある。


 高い塀で外界から隔離された施設。

 そこでは国民から作為的に選別された女たちが日々過酷な修練を受けていた。


 彼女たちが目指すのは鍛え上げた肉体を持つ屈強な兵士。

 一人前の警察か、あるいは軍人になるため日々死ぬ気で汗を流す。

 彼女たちに人生の選択権はなく、二等国民並みの権利を与えられる代わりに、一生涯国家への奉仕を義務付けられている。


 その隣にはウォーリア候補生の養成所も併設されていた。

 ほぼ無作為に国民から選ばれ徴収されるブシーズ予備隊と違い、ウォーリア候補生の少年少女は『才能あり』と見なされて連れて来られた者たちである。

 国家の適正審査で発掘されることもあれば、先任ウォーリアが作戦途中で拾ってくることもある。


 彼らに中身のある教育はほとんど施されない。

 二人一組で十畳ほどの個室に入れられ、ただひたすら拳を交わし合うことのみを強要される。


 それは格闘技における組み手などと呼ばれる上品なものではない。

 NDリングで肉体を強化しただけの子どものケンカ。

 あるいは生き残りを賭けた獣の争いか。


 自らの暴力を効果的に当て、相手により大きな痛みを与える。

 相手を倒すことのみを目的とした実戦さながらの稽古である。


 稽古は一方が戦意を失っても終わらない。

 彼らに許されるのはただ『止め』の合図があるまで闘い続けるのみ。

 監視役の現役ウォーリアは危険な行為を止めるためではなく、攻撃の手を休めた者を殴り飛ばすために待機している。


 琥太郎こたろうもそんなウォーリア候補生の集まる一室にいた。


「オラ! オラ! オラァ!」


 自分より一回りほど年上の青年に馬乗りになって、ひたすら左右の拳を交互に顔面に叩き込む。

 手を止めればその瞬間に反撃が来るとわかっているので絶対に途中で手を抜くことはできない。


「げ、ごが……」


 やがて敵の青年は戦意を失って身じろぎを止めた。

 しばらく彼はただ殴られるままになる。


 そのうち「やめて、助けて」と呻く声が聞こえてきた。

 しかし琥太郎は絶対に手を止めない。

 止められない。


 ついに相手は気絶したが、まだ『止め』の合図は鳴らない。

 顔の形が変わるまで殴り続けた頃にようやく制止が入った。


「そこまでだ」


 監視役のウォーリア、ハクシュウ教官は振り上げた琥太郎の腕を掴んで止めた。


 その力はさながら万力のよう。

 力を強化されているはずの琥太郎が動けない。

 嫌でも先達との力の差を理解させられる瞬間であった。


「はぁ、はぁ」


 体中の血が急速に冷めていくのがわかる。

 ようやく終わったと気づいた琥太郎は安堵のため息を吐いた。


 負けても勝ってもこの訓練は地獄である。

 このスパルタ修練こそがウォーリア養成機関の日常であった。




   ※


 ウォーリアに必要なのは肉体的な強さでも戦闘の技術でもない。

 そんなものは才能さえあればNDリングから与えられる。

 この訓練で叩き込まれるのは心構えだ。

 自分より弱い者に対して情けをかけることなく暴力を振るえる冷徹かつ酷薄な心。


 相手が年下だろうが女だろうが関係ない。

 ウォーリアは圧倒的な力を持って世界を安定させる義務がある。

 だから心が弱くてはならない。


 逆に序列が高いウォーリアに対しては絶対的な服従を魂に刻みつけられる。

 弱い者はそれだけ地獄を味わい続けることになるので誰もが必死だ。


 琥太郎が今回相手をした青年は養成所に在籍している期間が半年と長い。

 ここ最近は負けに入ってもなかなか制止が入らなくなった。

 おそらくもうすぐ心が壊れて廃棄処分になるだろう。

 そうして消えていった候補生は何人も見てきた。


 養成所に入って間もない新人は弱いこともあって制止が入るのも早い。

 琥太郎がこの施設に入った当初は先輩相手に何度も負けて痛い目を見せられてきた。

 そのたびに監視役がストップをかけ、心折られることなく闘争心を高めてきたのである。


「最近かなり戦績が良いな。その調子でもっと頑張れ」

「はい」


 琥太郎はハクシュウからお褒めの言葉をもらった。

 それに比べて負けた青年は職員に引きずられ部屋から出て行く。

 基本的には候補生の扱いなんて三等国民以下である。


 髪を短く刈り上げたハクシュウの見た目は二〇代後半くらいか。

 一見するとスポーツマン風の好青年であるが、内面は氷よりも冷たいことを知っている。

 かつて二度ほど反抗的な態度を見せたウォーリア候補生を拳で肉袋に変えたのを琥太郎はその目で見ている。


 ハクシュウのウォーリアとしての序列は十位。

 すべてのウォーリアの中で上から十番目に強いということだ。

 この施設に在籍する候補生が束になって反抗しても傷一つ与えられないだろう。


「少し休んだらもう一戦行くぞ」


 今日はこれで終わりだと思っていた琥太郎は苦虫をかみつぶしたような顔になった。

 もちろんハクシュウからは見られないように反対側を向いて。


 候補生に文句を言う権利などあるわけもない。

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