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CROSS DAYSTAR JADE -Jewel of Youth ep3-  作者: すこみ
第三話 戦地
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12 反抗

 瑠那はふらつく足取りで建物に近づいた。

 コンクリート片くらいならウォーリアの力で動かせないこともない。


 もしかしたら、まだ助けられるかも……

 そんな一心で手近な破片を持ち上げる。


「っ!」


 瓦礫の間にくすんだ肌色が見える。

 それは小さな手だった。


 あの二人の少女のどっちかだろうか。

 名前を呼びたかったが、聞いていなかったことを思い出す。


 その代わりに瑠那は必死に手を伸ばした。

 少女のものらしき腕を掴んで引っぱる。

 腕はあっさりと瓦礫の中から抜けた。

 肘から先がない小さな腕だけが瑠那の手の中に残った。


「あ、あああああっ!」


 少女の身体の欠片を抱きしめ叫ぶ。

 溢れる涙を拭って次の破片を動かそうとした時、冷たい声が瑠那の背中にかけられた。


「こんな所で何をしてやがる」


 瓦礫を持ち上げようとした手を止めて恐る恐る振り向く。

 怒りに顔を歪ませた赤い髪のウォーリアが立っていた。


「キルスさん……」

「答えろ。せっかくの休みを返上してまで、なんで人の仕事の邪魔をしている」


 苛立ちを露わにするキルスの質問に瑠那は答えなかった。

 代わりにこちらも怒りをもって問い返す。


「なんで、こんなことをするんですか」

「あ?」


 立ち上がり、拳を強く握り締め、感情を爆発させる。


「無辜の人々を傷つけて、殺して、そんなのがウォーリアの仕事なんですか!」


 しかしキルスには通じない。

 柳に拳を当てるように瑠那の言葉は彼女を通り過ぎる。


「それがウォーリアの仕事なんだよ」

「ここには、何の罪もない子どもたちが――っ」


 瑠那はなおも感情をぶつけようと言葉を吐く。

 その横っ面をキルスの強烈な拳が殴りつけた。


「いい加減にしろ。俺たちが戦う理由は正義なんてくだらないモノの為じゃない」


 殴られて吹き飛ぶ瑠那の手から零れる少女の残骸。

 それをキルスは汚いものを掴むように指先で摘まんだ。

 手の中に赤い光が生まれる。


「やめっ――」

「俺たちが生きるため。俺たちの国を守るためだ」


 炎を生み出す固有能力。

 少女の欠片は瑠那の目の前で灰となった。


「う……」


 その瞬間に瑠那の理性は吹き飛んだ。

 後先を考えることを放棄し、ただ激情のままに立ち上がる。

 そして少年は先輩に挑みかかる。


「うわああああああっ!」


 ウォーリアはまさに全身が兵器。

 瑠那の拳も当たれば岩をも砕くほどの力がある。


 NDリングによって与えられた攻撃力は同じNDリングの防御力を上回る。

 たとえ先輩であろうと一矢報いられる可能性はある。

 しかし。


「ちっ」


 兵器は威力だけでは意味がない。

 扱う者によって容易くその真価を変えるのだ。

 素人が同じ銃を持ったところで射撃のプロには手も足も出ないように。


 キルスは後ろに軽く下がると独楽のように回転して後ろ蹴りを放った。

 彼女の踵が瑠那の肘に当たって攻撃の軌道を逸らされる。

 背後に回ったキルスは瑠那の肩関節を極めた。


「うがっ!」


 瑠那は格闘センスにおいてキルスの足下にも及ばなかった。

 同じウォーリアだからこそ技術の差はそのまま戦闘力の差に繋がる。

 固有能力を使うまでもなく瑠那の反抗はキルスによって容易く制されてしまう。


「とち狂ってるんじゃねえぞ、おい。今なら謝れば許してやる」

「い、嫌だ……」


 それでも瑠那は抵抗を続けた。

 堰を切ったように溢れた感情は彼に保身を忘れさせた。

 殺されても構わないと考え、勝ち目のない戦いを挑ませようとした。


「ボクは、こんなことを認めたくない!」


 全身の力を振り絞って拘束を解く。

 思いっきり後ろ蹴りを当てて距離を離す。

 初期教習で基本を囓った程度の拳法の構えを取っる。


「てめぇ、本気か?」


 キルスの目に殺気が籠もる。

 普段の叱責の時に向けられる表情とは違う。

 どんなに怒っていても、理不尽な暴力を受けても、こんな顔をされたことはなかった。

 瑠那はハッキリと自分がキルスから敵として認識されたことを悟った。


「本気です。こんなことを続けるのが運命なら、ボクはそれに抗ってみせる」

「死ぬぞ」

「覚悟の上です」


 嘘だった。

 怒りで恐怖の感情が麻痺しているだけ。

 それでも瑠那はこの激情に身を任せてしまおうと思った。


 普段の自分ならきっと楽な方を選んでしまう。

 定められた役割を受け入れるという選択を。


 すべては運命。

 狭い土地に閉じ込められて労働を課される三等国民も。

 偽りの自由を与えられたつもりで、しっかりと管理され続けている二等国民も。

 支配者の側に立っていると思っても国家の意志ひとつで地獄に落とされる一等国民も変わらない。


 自分はウォーリアという役目を押し付けられているだけ。

 紅武凰国に生まれた者は誰もが役割を演じている。

 ここで逆らわなければきっと一生この束縛から抜け出せない。

 弱者を傷つけるような生き方なら、ここで死んだ方がマシだ。


「うおおおおおっ!」


 少年はかつてない気合いを込めて地面を蹴る。

 一足飛びで間合いに入り、握り締めた拳をキルスの顔面めがけて突き出す。


 直後、世界が反転した。

 目の前には天地逆になった景色。

 空が遙か下にあると思った次の瞬間、頭に凄まじい衝撃を受けた。

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