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CROSS DAYSTAR JADE -Jewel of Youth ep3-  作者: すこみ
最終話 交差する明け星
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4 クリムゾンアゼリア爆破計画

「それで、話ってなんすか」


 シンクは先ほど紅武凰国との戦いには干渉しないと言った。

 わざわざ時間を止めて車の中に乗り込んできたからには、翠たちに何らかの用があるのだろう。


「せっかく若い世代が頑張ってるってことで、せめてもの手伝いと思って情報を伝えておこうと思ってな」


 ずいぶんと上から目線だな、隠居老人かよ……

 と思ったが口には出さなかった翠だったが、


「見た目を若く見せてるのは認めるけど、まだジジイなんて歳じゃねーよ」

「……心を読めるなら先に言っておいて欲しかったっすね」

「俺を信用できない気持ちはわかるが、とりあえず聞いとけ。現在、クリムゾンアゼリアには俺の知り合いが潜入してる」

「ミサイルを止めるためってわけじゃないっすよね」

「それとは別件だ。潜入したのはミサイルが撃たれる前の話だしな。目的は天使を滅ぼすことだ」


 翠の脳裏に当該地区で見た天使の姿が思い描かれる。

 C弾で頭を吹き飛ばしても即座に復活するし、何万人もの人間を洗脳できるようなとんでもない奴だった。


「俺としては成功しても失敗してもどっちでもいいんだが、付き合いもあって信頼できる腹心にも協力をさせている。俺の名前を出せば協力してくれるかもしれねえぞ」

「天使はオレも見たっすけど、あれこそほとんど無敵みたいなもんっすよ。あんなのどうやって倒すつもりなんすか」

「空人が言うにはファームとやらを暴走させてクリムゾンアゼリアごと破壊するってことらしい」

「はあ?」


 その知り合いのソラトという奴が何者は知らないが、本気ならあまりに乱暴な手段である。


「そんなことしたら、塔の中に住んでる人たちはどうなるんすか」

「当然、巻き込まれるだろうな」


 クリムゾンアゼリアは単なる悪の本拠地というわけではない。

 塔の上には一等国民が済んでいるし、翠たちが見た最下部には今を生きるのも苦労するような等外民たちがいた。


 すべてを合わせれば一千万人を超える民間人が暮らしているはずだ。

 普通に暮らしている人たちを巻き添えにしてまで目的を達成しようとするようなやり方は、翠には到底許容できない。


「いくら天使を倒すためとはいえ、普通に暮らしてる人たちを犠牲にするようなやり方はダメっしょ」

「そう言うと思ったから教えておいた。なら、空人たちもお前らにとっては競合相手ってことになるな」

「さすがに見過ごせねえっす……って言ったらあんたも敵になるんすか?」

「さっきも言ったが俺はあいつの企みがどうなろうと構わないと思ってる。お前たちが空人と敵対するなら邪魔をする気はないし、お前らが犠牲を少なくしたいならそのために頑張ればいいさ」

「なあ、ちょっといいか?」


 ハンドルを握りしめたまま黙っていた琥太郎が話に入ってくる。


「あんたが言ってる『空人』って、もしかして魔人ソラトのことか?」

「紅武凰国じゃそんな呼ばれ方してたみたいだな」

「知ってるのか、コタ?」

「ウォーリアの序列一位。俺も名前くらいしか聞いたことないけど、天変地異レベルの化け物だって話だぜ」

「……ウォーリアか」


 すでに目標を達成した以上、かつてのようにウォーリアならすべて無条件に敵と見做しているわけではない。

 これまでも速海やアキオのように見逃してきた相手もいる。

 組織としてのウォーリアはすでに壊滅しており、特にこだわる必要もないのだが……


「とりあえず、そいつが大量殺人をしようっていうなら止めるぜ」

「オレもスイに賛成だ。ただ暮らしてる人たちに罪はないもんな」


 翠と琥太郎の意見は一致した。

 残念ながらそいつも翠たちにとっては敵……とは言わないまでも、放置できない相手だ。 


「それでシンクさん、話ってのはそれだけっすか?」

「ああ。もう一つの用も済んだし、俺はもう上海に戻る」

「もう一つの用?」


 シンクは自分の手のひらを眺めながら小さく息を吐く。


「召喚武器やSHINE吸収による身体リセットは無理としても、RACとかいう能力くらいは奪えるかと思ったんだが、どうやら無理らしい。どうやらそいつはJOYとは全く系統が違うみたいだな」

「おい、まさかオレたちの力を無断でコピーしようとしてたのか?」

「無理だったけどな」


 悪びれもなく、くっくと笑う。

 話をしに来たのはついで。

 本当はいきなり現れる事で翠たちに警戒心を抱かせ、RACや召喚武器の能力を盗もうとしてやがったのだ。


「油断も隙もねえ……やっぱりあんた、敵か?」

「別にコピー成功したとしても減るもんじゃねえし怒るなよ。騙した詫びに近くまで送ってやるからよ――ほら、八王子だろ?」

「え……」


 一瞬、シンクの身体がブレて見えた気がした。


「じゃあな。頑張れよタクトの息子」


 その直後には別れの言葉を残してシンクは煙のように姿を消した。

 彼が居なくなった向こう、窓越しの景色が変わっていることに気づく。


「おいおいマジかよ」


 琥太郎もまたフロントガラスから正面を見て声を上げる。

 車の先には巨大な壁、三等国民地域を隔てる街壁が聳え立っている。

 街壁の手前には小さな河川が流れていて『この先、二等国民地域により三等国民の立ち入りを禁ず』と大きく書かれた看板が立っている。


 ただし、街壁の門は開いていて、見張りもいない。


「時間を止めて、その間に運んでくれたってことか……?」

「リシア、ここがどのあたりだかわかるか?」

「痛たた……あっ。うん、ちょっと待ってくれ。いま調べる」


 翠が声をかけると、リシアはハッとして、それから携帯端末を操作して地図を確認する。

 シンクが車内に入ってきてから彼女はずっとフロントガラスにぶつけた頭を押さえて痛がっていたが、とりあえず深刻な怪我ではなさそうだ。


「現在地はハシモトコミューンってところだな。壁の先は東京の……マチダっていうところだけど、そのすぐ向こうはハチオウジってなってる。ついでに言うと、出発してからまだ七分しか経ってないぞ」

「サンキュ。それじゃ行ってくれ、コタ」

「ああ」


 琥太郎は再びアクセルを踏んで車を走らせる。

 誰もいない街壁を超えるとそこはもう二等国民地域の東京都内だ。

 町田西部の細長くくびれた部分を超えるとすぐに八王子に入る。


 カマクラコミューンからここまで、普通に来れば軽自動車でも一時間程度はかかる。

 体感的にはワープをさせてもらったような気分である。

 食えない奴だったが、まあ役に立ったと思っておこうか。


 それにあいつが持ってきた情報はけっこう重要なことでもあった。

 魔人ソラトとか言う奴と本格的に敵対するかどうかはまだわからない。

 けれど本当に一般市民を犠牲にするやり方を考えているなら、絶対に止めなくてはならない。


「クリムゾンアゼリアに繋がってるトンネルは高尾山の近くにあるらしい。近くまで行ったら詳しく説明するから、このまままっすぐ進んで二十号線に向かってくれ」

「以前にスイと再会した辺りだな。トンネルには車で入るのか?」

「入れないようならこっそり侵入するしかないな。リシアはどうする?」

「その時は悪いけど猫に変身するから運んでくれよ」

「おう」

「強行突破できそうなら蹴散らしてもいいけどな」


 ひと騒動あったものの、三人は順調にクリムゾンアゼリアに近づいている。

 核ミサイルの再度の発射も、塔の爆発も、必ず阻止してみせる。

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