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CROSS DAYSTAR JADE -Jewel of Youth ep3-  作者: すこみ
第二十四話 ラストウォーリア
222/232

3 怒りは拳に込めて

 神社敷地内東側、小さな堀に囲まれた建物。

 そこが現在、日本軍の臨時司令部になっている。


 中に入ると見知ったクサナギの隊員がいた。


「こんちはっす」

「おお、翠くんか。クリムゾンアゼリアに侵入したと聞いたが、よく無事に帰ったな」

「苦労したっすけどね。火刃います?」

「彼なら二階奥の小会議室にいるぞ」

「あざっす!」

「あ、だが今は――」


 火刃の居場所を聞いた翠は急いで目の前の階段を駆け上がった。

 東京から山梨、神奈川と、あいつの命令であちこち移動させられたのだ。

 顔を合わせたら嫌味のひとつも言ってやりたい気分だったのである。


 階段の奥には『小会議室』と書かれた札の下がった扉がある。

 翠は小走りに駆け寄ると、派手に音を立ててドアを開いた。


「おい火刃! 命令通りにクリムゾンアゼリアからわざわざ戻ってやっ……」


 室内の視線が一斉に翠の方を向く。

 部屋の中にいたのは火刃だけではなかった。


 まず部屋には長机がある。

 その左右に何人かの人が並んでいた。


 まず向かって左側。

 一番奥には神社の神主のような恰好の人。

 それから手前にお坊さんが三人ほど並んでいる。

 うち一人は以前に会ったことがある亭冠和尚という人だ。

 さらに手前に西洋の教会の神父様みたいな人と、各種宗教の人たちが並んでいる。


 そして右側。

 一番奥にはスーツ姿のなんか偉そうな雰囲気の中年男性。

 その隣には軍服を着た軍人が二人。

 片方は畔木陸相で、もう片方は海軍の制服。

 さらに火刃と元ウォーリアのハクシュウが続く。


 まあ、いわゆるお偉いさんたちの会議中だったわけである。


「あ、どっ、ども。失礼しましたっ!」


 慌てて扉を閉めて退出。

 中から失笑の声が漏れてくるのを耳にしながら、翠は全速力で階段を駆け下りた。




   ※


「あー、焦った……」

「はは」


 建物の外に出て胸をなでおろす。

 そんな翠を見て琥太郎が苦笑いする。

 さらにクサナギ隊員にまで気を使わせてしまった。


「申し訳ない。私がしっかりと伝えれば良かったんだが」

「いや、よく話を聞かなかったオレが悪いっす」


 まあ、悪いのはぜんぶ火刃だということにしておこう。

 とりあえず会議が終わるのを待って、あとでお偉いさんたちには謝っておこう。


 などと考えていると。


「翠」

「げっ……」


 火刃が階段を降りてきた。

 翠は叱られるだろうと思って身構える。


「わ、悪かったよ、会議の邪魔して。でもしっかり伝えておかなかったお前も悪いんだぞ」

「怒っていないからそう構えるな。むしろ助かったところもある」

「は?」

「お前が笑いものになってくれたおかげで場の空気が和んだし、俺もこうして理由をつけて抜け出してくることができた。畔木は頭を抱えていたがな」


 どうやらお偉いさんたちの会議はあまり良い雰囲気ではなかったらしい。

 クサナギ代表として参加していた火刃だが、さっさと退出したくてたまらなかったそうだ。


「なんの会議をしてたんだ? 外の軍艦ってやっぱり日本軍のなんだよな」

「ああ。海軍将官や外務省の職員も来ている」

「外務省……?」

「詳しく説明してやる。社務所の方に移動するぞ」


 クリムゾンアゼリアの調査を中断してまで翠たちをわざわざ呼び戻したのには、当然そうするだけの理由があったからだろう。

 どうやらこちらでも大きな事態が進行しているようだった。




   ※


 社務所の奥座敷で卓に着くと、食事が運ばれてきた。


「おかえり、翠」

「おうリシア。元気だったか」


 膳を運んできたのはなぜか巫女服姿のリシアだった。


「ここで働いてんの?」

「いや今日だけの手伝い。偉い人がいっぱいくるから人手がいるんだってさ。この服は可愛いから着てるだけ」


 三つの膳を卓に並べると、リシアは奥へと引っ込んでいった。

 小さな座卓を囲んで右から翠、琥太郎、火刃の順に並ぶ。

 いただきますを言ってまずは玉子焼きを口に運ぶ。


 久々の旨い食事にすこし気を良くしつつも、翠はまず不満を口にした。


「で、オレらを危険な敵地に潜入させたり、急に帰って来いって言ったり、ころころ命令を変えたことにはちゃんと納得できる説明があるんだろうな?」

「それに関しては悪かったと思っている。だが状況は常に目まぐるしく変わっているのだ。優先事項もその都度変化しているのはわかってほしい」

「ファームについて調べる必要がなくなったのはなんでだ?」


 琥太郎が火刃に質問を投げかける。

 紅武凰国が開発しているというファームという名の新型のSHINE精製装置。

 その秘密を探れば世界中の国々がSHINEを扱えるようになるかもしれず、そうなれば紅武凰国の技術的優位性は崩れる。

 だからこそ最優先で調査してこいという命令だったはずだ。


「簡単に言えば、手に入れても意味がないとわかったからだ」

「なんでだよ」

「SHINEの素となるのは『人間』だ」


 唐突な情報に思わず箸を持つ手が止まった。

 翠はゾッとするものを感じながらも恐る恐る話の先を促す。


「え、それって、人間の身体を潰してエネルギーにするとかってことか……?」

「そういう直接的な意味じゃない。正確に言えば人間の脳が発する『感情元素』という未知の粒子をエネルギーとして精製しているものらしい。ファームというのはおそらくそのエネルギーの素となる人間を育て管理する、名前通りの農場ファームなのだろう。わずかなスペースに大量の人間を住まわせておける異空間のようなものだと上の人間は見ている」

「……胸糞悪い話だな」 


 人を人とも思わない扱いに気分が悪くなる。

 眉をしかめた翠はふとあることに気づいてしまう。


「待てよ? ってことは、これまでにそのなんとか元素ってのを採取するために利用されてた人間ってのは……紅武凰国の二等国民と三等国民だってことか?」

「そうだ」


 思わず腕に力が入る。

 翠は無意識のうちに箸を折っていた。


「東京や周囲のコミューンの地下には感情元素の収集装置があった。集めた粒子は一度クリムゾンアゼリアに運ばれ、塔の中にある精製場でSHINEとして加工しているらしい。どちらにせよ精製技術がなければSHINEはエネルギーとして利用できないそうだ」


 自分が何者かも知らず、偽りの常識の中を生きてきた二等国民。

 管理され自由を奪われた生活を送っていた三等国民。

 翠も、琥太郎も、そして彼らの知り合いや友人たちも、ただエネルギー搾取のためだけに生かされて利用されていた……ということなのか。


「それじゃ、オレたちのコミューン攻略がこれだけ上手くいってのは……」

「もはや三等国民地域は紅武凰国にとっては不要だから放棄しても構わないということなのだろう。無駄に土地を多く使うコミューンを維持するよりも、ファームとやらに頼ったほうが効率的にSHINEが得られると判断したのだろうな」


 紅武凰国が真の国民だと認めていたのはあの塔に住む者だけ。

 それ以外の人間はただのエネルギー収集のための家畜に過ぎなかった。

 だからウォーリアは簡単に降伏したし、コミューン奪還に軍隊や天使が出てくることもなかった。

 三等国民地域がどれだけ混乱しようと、人が大勢死のうと、どうでもいいと奴らは本気で思っているのだ。


「……オレたちはこれからどうすればいい?」


 翠の怒りは限界を突破して一周回る。

 この感情をいくら言葉にのせて叫ぼうが意味はない。

 それよりも確実に、あの塔の上でふんぞり返っている奴らに思い知らせてやらなくては。

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