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CROSS DAYSTAR JADE -Jewel of Youth ep3-  作者: すこみ
第二十三話 黒色の修羅
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7 四十七階層の館

 クリムゾンアゼリアには多種多様な人種が住んでいる。

 数の上で多数派なのはかつて日本人だった者だが、建国時に世界中から『選ばれた』者たちが多くこの塔に招待され、一等国民となる権利を得た。


 そのため塔内では階層ごとに街並みの様相も大きく異なる。

 清国風、アラビア風、あるいはよりSF的な未来都市など。


 ここ四十七階層は現在(2045年)からみるとかなり昔の、古い日本の町並みを模した不思議な雰囲気の階層だった。

 未舗装の道路が多く、背の低い瓦屋根の住宅地が広がっているが、コンクリート造りのビルもちらほらと見られる。

 紅葉が以前に尋ねたことのある松本の景色にも近いが、それよりはやや現代に近い奇妙な街だ。


「こういうの、昭和ノスタルジーって言うらしいですよ」

「そうか」


 紅葉は屋根から屋根の上を伝って移動する。

 やや遅れて瑠那もすぐ後ろを走っていた。


「それにしても紅葉さん、流石の感知能力ですね。監視カメラの位置を最初から知っているとしか思えませんよ。RACに頼るだけではなく忍者としてのスキルがあればこそなんでしょうか」

「頼むからちょっと黙ってくれ。会話しながらだと集中が乱れる」

「ご、ごめんなさい……」


 確かにお互いの過去を語り合った仲だが、それにしても瑠那は馴れ馴れしすぎると紅葉は思った。

 一時的な協力関係を結んだとはいえ別に仲の良い友人関係になったわけではない。

 そもそも瑠那の結論次第ではまたいつ敵に回るかもわからないのである。

 もしかしてこいつ、話し相手に飢えてるだけなんじゃないのか。


 現在のクリムゾンアゼリア四十七階層は夕方の時刻設定らしい。

 西側のスクリーンに夕日の映像が映し出され、空全体がオレンジ色に染まっていく。


 街を歩く人の数はそれなりに多い。

 着物と洋装が半々で、やはりどこかちぐはぐに見える。

 

 ここは紅武凰国が作った偽りの街。

 前世紀の文明を破壊し尽くしておいて、奴らは好き勝手な景色を作っている。

 世界中で多くの人々が犠牲になり、一部地域を除けばあらゆる国々の生活水準が近世レベルまで退行したというのに。


「待て」

「は、はい」


 紅葉が足を止め、注意を促した。

 瑠那は大人しく彼に従う。


 屋根の下を見れば、次の家の近くで和服の男性が空を見上げていた。

 こちら気づいたわけではなく、たぶん特別な理由もない。

 なんとなく夕暮れの空を眺めているだけだろう。


 数秒後、男性は視線を前方に戻し、また歩き始める。


「大丈夫だ、行くぞ」

「はい」


 紅葉のRACは瑠那の言う通り非常に優れており、自分に危険があるような状況は事前に完全に察知できる。

 今みたいなほとんど偶然の発見すら回避してくれる。

 街中の至るところにある監視カメラの視界すらすべて目に見えているようなものだ。


 さらに紅葉は自身の感覚によってRACと実際の問題を即座に結び付けられるスキルがある。

 これが翠だったら「なんとなく避けた」くらいの感覚だろうが、紅葉はきちんと危険の正体を理解できるのだ。

 相手が陸玄のような常軌を逸した達人や、RACを誤魔化す特殊な道具でも装備していない限り、敵や無関係な一般市民に見つかることはないだろう。


 そして現在、紅葉はそのRACの危機感を逆手にとって怪しい人物を追っている。

 こちらに向けてはいないが明確な殺意を放ち、出会えば必ず危機となる何者かを。


 それが兄の陸玄なのかどうかはわからない。

 むしろ、落ち着いて考えれば違う可能性の方が高い気がする。

 何故なら陸玄は自身の技術のみでRACを誤魔化すだけの芸当ができるのだ。


 それでも陸玄である可能性を考えるなら……

 すでに彼は紅葉たちに気づいていて、誘っているというパターンかもしれない。


 どちらにせよ行ってみるまではわからない。

 紅葉は己の感覚を頼りに夕暮れの昭和風の街の空を駆けた。




   ※


 危機感を追っていくと、奇妙な場所に出た。

 住宅街の中、木々に囲まれ、ちょっとした森のような空間がある。

 木の切れ目の一角には大きな門があった。


「階層の有力者の邸宅でしょうか……?」


 門の前に立っているのは黒服を着た男二人。

 瑠那の推測通り、この奥には何らかの重要な施設があるのだろう。


 ともかくあんな門番は相手するまでもない。

 紅葉は木々の間を抜けて敷地内へと侵入した。

 すぐに大きな塀があったが、近くの枝を辿って簡単に越えられる。


「も、もう少しゆっくり進んでくれると助るんですけど」

「別にここで待っててもいいんだぞ」


 クロスディスターの力で身体能力こそ十分に高いが、瑠那はどうも身のこなしが鈍い。

 単純に修練が足りていないのだろう。

 まあ、別に急ぐ必要もないので歩調は合わせてやる。


 少し進むと広い中庭に出た。

 その向こうにはこれまた少し古めかしい感じの洋館がある。

 個人の家ならかなりの大邸宅だ。


 強烈な危機感は確かにこの中から感じる。

 騒ぎになっていないところから見ると館の関係者か。

 はたまた見張りに見つかることなく、完全に気配を消して忍び込んでいるのか。


「扉の前にも見張りがいますね。どうしますか?」

「倒して進む」


 紅葉は草むらから顔を出して召喚武器の飛苦無を投げた。

 カッターナイフサイズのエネルギーの刃。

 これは翠のA弾と同じく、相手の身体には傷をつけずに意識を奪うことができる武器だ。


「ふおっ……?」


 首筋に飛苦無を喰らった黒服の門番は短い声を上げてその場に倒れ込んだ。

 何の能力もない普通の人間なら数日間は目が覚めることはないだろう。


「なるほど、そういう技もあるんですね」

「行くぞ」


 素早く駆けて中庭を横切る。

 二人は見張りを踏み越えて入口の扉を開けて建物の中に侵入。

 赤絨毯とシャンデリアの大広間、そして二股に分かれた大きな階段が目に付いた。

 絵にかいたような豪邸である。


 紅葉はRACの感覚の手を伸ばす。

 おそらく脅威は二階、ちょうどいま彼らがいるところの真上あたりにいる。

 それとは別に中には二人ほどの気配が……


「ひっ、ひぃーっ! たーすけてーくれーっ!」


 やけに間延びした叫び声を上げながら誰かが階段から降りてきた。

 趣味の悪い金色のスーツを着た太った中年男性である。


「この館の住人でしょうかね。今度はボクが気絶させましょう」

「いや、待て」


 召喚武器の槍を取り出し前に出ようとする瑠那。

 紅葉はそんな彼を手で制する。

 降りてきた人物には見覚えがあった。


「あーっ、そこのーっ、変な格好のーっ、お前らーっ! 誰かーは知らんがー助けーろーっ!」


 脂ぎった不快な声。

 独特の間延びしたしゃべり方。

 忘れるはずもない。


「止まれ、それ以上近寄るな」

「ひーっ!?」


 紅葉は小太刀を、瑠那は槍を、その男に向ける。

 転がるように駆け下りてきたそいつは慌てて足を止め、転んで尻もちをついた。


「なーっ!? お前らーも、あいつの仲間ーなのかーっ!?」

「こんな所で何をやっている。中村」

「あーっ!? てめーっ、なんで、俺様ーの、名前ーを知ってんだーっ!?」


 中村は紅葉が東京で二等国民の立場だった頃、住んでいた施設の管理人である。

 醜悪な人物で、施設の子供たちや他の職員に対しても傍若無人の限りを尽くしていた。

 紅葉がクロスディスターになったのはこいつを叩きのめして施設を逃げたのがきっかけである。

 どういう経緯でクリムゾンアゼリアにいるのかは知らないが、まさかこんな所で再会するとは思ってもいなかった。


「あっ! て、てめーっ、紅葉かーっ!? 俺様にいきなり暴力をふるいやがった超クソクソクソガキーっ! どんなツラして現れやがったんだーっ!」

「ここは何の施設だ。上には誰がいる。答えろ」

「うるせーっ! なーに調子にのってやがんだー! とにかく一発ぶん殴らせろやーっ! うおおおーっ!」


 あの日の記憶がよみがえったのか、顔を真っ赤にして拳を握り締めて向かってくる。

 紅葉は自分から数歩踏み込むと、正面から中村の顔面を蹴り飛ばした。


「ぷげーっ!?」

「喋る気がないなら黙って寝ていろ」


 思い出して怒りがこみ上げたのは紅葉も同様である。

 こいつに好きなように扱われてきた日々は屈辱の一言では言い表せない。


 まあ、こんな奴と会話すること自体が無駄だ。

 二階に上がってみれば誰がいるのかなんてすぐにわかること――


「やあ、紅葉じゃないか」

「っ!」


 階段の踊り場にいつの間にか人が立っている。

 機械的な装甲の黒い全身スーツを着た青年。

 彼は片手で人間を引きずりながらゆっくりと下りてくる。


「翠たちと一緒に帰ればよかったのに。ぼくを追って来たということは、覚悟を決めたのかな?」


 頭のメット部分だけを脱いだ黒いクロスディスター。

 紛れもなく紅葉の兄、秋山陸玄である。

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