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CROSS DAYSTAR JADE -Jewel of Youth ep3-  作者: すこみ
第二十三話 黒色の修羅
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4 陸夏蓮潜入

 私は細心の注意を払って侵入者の尾行をしています。


「気をつけろよハル、絶っ対に接近しすぎるな」

「わ、わかってるっ」


 スーちゃんに警告をされるまでもなく、私の中の不思議な感覚がアイツとの距離は十分すぎるほどに離しておけと痛いほどに伝えてくる。


 物語のドラゴンみたいな空飛ぶ動物。

 その背中に乗るのは水色の長い髪の清華風美人さん。

 あの人は紅武凰国最大の敵である『シンク』の片腕と呼べる人物だそう。

 名前は陸夏蓮(ルゥ・シアリィェン)っていうらしい。


「ってか私はバリア張ってるからいいけど、あの人たちは寒くないのかな?」

「どうやらあの竜が風をそらしてるみたいだな。じゃなきゃあんな不安定な上に乗って飛べるわけがない」

「見た目だけじゃなく普通の生き物じゃないんだね……」


 正直に言ってメチャクチャ怖いし、すぐにでも逃げ出したい。

 けれど私は愛と正義とクリムゾンアゼリアに住む人たちの平和のため……

 ではなくて、怖くて恐ろしくて恐怖な副局長さんからの命令で仕方なくあの人を見張っている。


「あれ? スーちゃん、あれって……」

「外されてるな」


 どういうわけかクリムゾンアゼリア外周壁の一部が外れていた。

 中からは目立たず、風も入らない角度で、よく見なければ壁面がないとは気づけない。


「たぶん、内部に協力者がいる」


 あいつはそこから塔の中に侵入。

 六十九階層の上空をドラゴンに乗って飛ぶ。

 私も追いかけて塔の中に入った。


「それにしても、私が偶然見つけるまで誰もあいつに気が付かなかったのかな」

「確かに不自然だな。あれだけの大物が日本列島に近づいてるなら、普通は管理局かウォーリアに防衛命令が下るはずだ。なんら天使が直接動くこともあり得るレベルの奴だし。半壊状態のウォーリアはともかく、管理局が動いていなかったのはおかしい」

「監視を完全にごまかしてここまで近づいたってこと?」

「あるいは自ら迎撃に出た天使が取り逃がしたって線もあるな」

「副局長さんには連絡を入れたからもうすぐ来てくれると思うけど……」


 しばらく追いかけ続けていると、ドラゴンが大きめのパイプの上に着陸した。

 六十九階層の天井を支える構造部分。

 下からは見えない位置だ。


 夏蓮はドラゴンの背中から下りる。

 大きな尻尾を優しく撫でると、一人で向こう側の壁面に向かって走り始めた。

 どうやら大きくて目立つドラゴンはあそこに隠しておくみたいだ。

 軽快な足取りでパイプの上を走り、壁面を斜めに支える柱へ向かっていく。


「……えっと、ドラゴンを見張っておくのと、夏蓮さんを追いかけるの、どっちがいいかなー?」

「夏蓮を追いかける方に決まってるだろ」

「やっぱり?」


 まあ、あのドラゴンはただの乗り物みたいだし。

 おとなしくあそこで待ってるつもりらしいから、放っておいても問題はないかもしれないけど。

 楽な方を担当したいなって思ったけどやっぱりダメだったよ。


「いや、待てよ。やっぱりあのドラゴンのところに行け」

「何?」

「帰りの足を断っておくのは悪くない」


 スーちゃんがそんな提案をした。


「ドラゴンをやっつけちゃうの?」

「上手くいけば夏蓮を塔内に封じ込められるし、見つかるリスクを冒してまで本人を追いかけるより効果的かもな」

「なるほど、それで後はアオイさんたちに任せちゃうんだね。どうすればいいかな?」

「そうだな……あの柱の陰から狙えるか?」

「やってみる」


 私はスーちゃんが指定した位置に移動すると、マジカル☆バズーカを召喚して、よいしょっと肩に担いだ。

 これは魔法少女プリマヴェーラの召喚武器の一つ。

 なんか戦車とかも壊せるらしい。


 ここからの距離は500メートルちょっとくらいかな?

 ドラゴンは武器を構えている私に気づく様子はなく、退屈そうに頭を下げて身を伏せている。


「撃ったらすぐに身を隠せよ。夏蓮が戻ってくる前に……どうした?」

「いや、ちょっと可哀想かなって……」


 さすがに無抵抗な相手にバズーカを撃ち込むのは心が咎めるんだよ。

 動物虐待になりそうだし。


「じゃあやっぱり夏蓮を追うか? あたしはどっちでも構わないぞ」

「うーん」


 夏蓮さんはすでに柱から柱を伝わって地上に向かっている。

 いまから追いかけるにはかなり急がなくちゃいけないし、そうしたら見つかる可能性もありそう。

 闘うのは怖いし、このまま何もしないでいたら副局長さんが怖い。


「やっぱり撃つよ」

「そうか」


 私はマジカル☆バズーカの砲口をドラゴンに向けた。

 召喚した武器にはとくに撃つ相手を狙うような装置はついてない。

 自分の中の危機を察知する感覚を伸ばして撃てば、だいたい狙ったところに飛んでいく。


「絶対に建物の構造部に当てるなよ。万が一にも外したらすぐに消せ」

「わかってる」


 感覚で狙いを定めて、発射スイッチを押す。

 可哀想だけど、わるい奴の仲間だしっ。


「……ごめんねっ」


 ぽひゅうっ、と軽い音を立てて小型のロケットミサイルが発射。

 発射から約五秒くらいしてドラゴンの大きな翼に直撃した。


「キャウゥッ!」


 ドラゴンの悲痛な叫び声がここまで聞こえてくる。

 この距離で聞こえるってことはかなりの大声を出したみたい。

 翼を大きく広げ、暴れるように身をよじる。


「あれ……やっつけられなかった?」

「バカ! 撃ったらさっさと逃げろって言っただろ!」

「でも外したら弾を消さなきゃ――」


 がきんっ!


 ガラスを叩くような音。

 音はすぐ近くで響いて、視界がわずかに薄緑になる。

 何が起こったのかと考えて、どうやら自動ガードが作動したようだと気づく。


「なにやってる、お前」


 とても澄んだ、けれど怒りを湛えた底冷えのする声。

 すぐ傍に水色髪の美人さんがいた。

 夏蓮さん。


 ……えっ?

 だって、あんなに遠くにいたのに……


「ドンに何をする!」


 がきんっ!

 もう一度激しくバリアを叩く音。

 夏蓮さんが思いっきり拳でバリアを殴りつけている。


「ど、どどど、どうしようスーちゃん!?」

「いいから代われ! こいつは、ヤバいっ!」

「ちっ」


 簡単には破れないとわかると、夏蓮さんは腰を落として右腕を後ろに引いた。

 後ろに回した右の拳が眩しいほどの光を放つ。


「龍撃破ッ!」


 拳を叩きつけられる直前、一瞬だけ東洋風の龍みたいなシルエットが見えた。

 ぱきぃぃぃん!

 夏蓮さんの攻撃は私のバリアを粉々に打ち砕く。

 ディスタージェイドにしか破られたことがないバリアが、あっさりと。


「スーちゃ――うっ!?」


 頭の中にスーちゃんが入ったのとほぼ同時。

 私は夏蓮さんに首を掴まれ、ものすごい力で締め上げられる。


『バカっ! 早く接近戦用の武器を召喚しろっ!』


 マジカル☆バズーカは連続では撃てない。

 この距離で撃ったら私も爆発に巻き込まれる。

 他の武器もどれもこれも威力が大きすぎるのと武器自体が大きすぎて、ここまで近づかれたららららら痛い痛い痛いっ!


「うげぇっ……や、やめ……」

『くそっ!』


 首を絞められる痛みで頭が回らない。

 体のコントロールを代わってもらっても何もできない。


 えっ、やばくない?

 もしかして私、このまま、死んじゃ――

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