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CROSS DAYSTAR JADE -Jewel of Youth ep3-  作者: すこみ
第二十一話 塔下部等外地区
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5 瑠那の正義

「なぜ勝手なことをしたの!?」


 研究所の休憩室にて。

 アオイは携帯端末に向かって怒鳴り散らしていた。


「彼女は特例として連座は適用せず、現状のまま放置しなさいと伝えたでしょう!」

『安定した社会秩序のためには例外を設けるべきではないというのが管理局の方針です。懲罰部の長としては当然の判断と考えて……』

「その結果を考えない杓子定規な決定が余計な問題を引き起こすと言っているのよ!」

『そう言われましてもすでに執行済みなので、今さら覆せませんよ』


 アオイの怒りに対して返ってくるのは困惑気味のお役所的対応だった。

 話にならないと判断し、一方的に通話を切って携帯端末を放り投げる。


「ったく、ちょっと留守にした途端にあのバカは……!」

「おかんむりね。何があったのかしら」


 テーブルの正面に座るのは第五天使アーティナ。

 彼女は紅茶を啜りながらニコニコ微笑んでいる。


 軍から借りたFG乗りがSHINE結晶体の設置作業を終えてから数時間後。

 管理局から連絡が入る前、アオイは天使からとある重要な情報を聞いている最中だった。

 ちなみにオタク博士三人組とアリスは最終調整を行うためコンピュータールームに閉じこもっている。


「部下がやらかしたのよ。反逆した市民の親族を勝手に等外送りにしたの」

「それの何が悪いの? むしろアオイはそういう処置を厳格にやりたがるタイプじゃない」

「余計な恨みを買うことになるからよ」


 ルールに厳しくあるのは体制維持のためだ。

 遵守することで安定が脅かされるなら適時例外は作るべきである。

 できないのならそれは上に立つ者のエゴか、あるいは結果を想定できない馬鹿のどちらかだ。


「速海駿也という男を知っている?」

「第一期L.N.T.の生き残りだったかしら。塔外の警察機構(ウォーリア)に所属していた人物うということくらいしか知らないわ」

「その速海が裏切って逃亡したのだけど、息子は国に対して忠誠を誓っているの。今回、等外送りになったのは速海の妻で息子の母親よ」


 等外地区とはこのクリムゾンアゼリアの下にある大規模スラム街の名称である。


 罪を犯した二等国民は三等国民地域や国外へ追放になる。

 それと同様に一等国民の罪人は流刑地として等外地区に送られることになる。

 これはクリムゾンアゼリア内部の情報を知っている一等国民地域は簡単に塔外に出せないという事情があるためだ。


 ちなみに等外地区は三等国民地域同様に感情元素の収集場所も兼ねている。

 劣悪な環境で負の感情にまみれて生きる人々からは純度の高い感情元素が集まるのである。


「速海さんの息子はそんなに重要な子なの?」

「最近外で暴れまわっているクロスディスターとかいう変身アイテムの被験者も兼ねているの。母親の無事を保証する代わりに管理局の手駒として有効活用していくつもりだったのだけど」

「知らないうちに家族を処罰されてたとなったら心証を損ねられても文句は言えないわね」


 別に瑠那自身はどうしても失えないというほどの人材ではない。

 しかし、意味もなく厄介事が増えるのは勘弁願いたかった。


 アオイが溜息を吐いてソファに背を預けると、


「よし、じゃあ私が一肌脱いであげる」


 第五天使が胸を叩いてよくわからないことを言った。


「は?」

「管理局にはお世話になってるし、ちょうど等外地区に降りる時期だったのよ。追放された速海さんの奥さんを探して連れ戻してあげる。天使の慈悲ということなら誰からも文句は出ないでしょうし、等外の人たちの希望にもなって生活に実りができるでしょうから」


 ああ、いつものアレの時期か。

 絶大な力を持て余す天使様の暇つぶし。

 自分が気持ちよくなるためのふざけたアソビ。

 考えると反吐が出るが、今回は利用させてもらうとしよう。


「そうね、お願いできるかしら」

「任せて。じゃあ行ってくるわ」


 アテナはふわりと宙に浮かび上がると、床をすり抜けて下から部屋を出ていった。

 どうやら彼女はドアを開けて出入りするという人としての常識すら忘れてしまったらしい。


「バケモノめ……」


 十分な時間が経ってから背もたれに体を預けてアオイは悪態を吐く。

 その直後、また携帯端末が着信音を鳴らした。

 管理局からである。


「今度は何よ」


 端末を拾い上げて不快さを隠そうともせず応対する。

 不機嫌を感じ取ったのか一瞬の間があった後、先ほどの懲罰部長とは違う女性の声が聞こえた。


『お、お忙しいところすみません。監視部より副局長に連絡事項です』

「だから何。忙しいのだから早く済ませてちょうだい」

『クリムゾンアゼリア等外地区に複数の侵入者の形跡がありました』


 それが本当ならわりと大事である。

 しかしアオイはその侵入者の見当がついていた。


「例のクロスディスターかしら」


 三等国民地域だけじゃ飽き足らず、とうとうこっちにまで手を出してきたか。

 まあ奴らが日本の手先として動いている以上は遅かれ早かれあり得たことである。


『片方は仰る通りです』

「片方? 監視部は同時期に複数の侵入者を許すほど無能ということかしら」

『め、面目ありません』

「それで、もう一方の侵入者は何者なの?」

『元ウォーリアの速海駿也です』

「速海駿也?」


 なんで今さらあいつが等外地区に姿を現すのか。

 とっくにクリムゾンアゼリアを脱出したものと思っていたが。

 星野空人たちと合流せず、何の事情があってここに戻ってきたのだろう。


 ……いや、そんなことはどうでもいいか。


「どちらも放置して問題はないから対処は不要よ。むしろ管理局の人間を絶対に等外地区に降ろさないよう徹底して頂戴」

『と、言いますと?』

「第五天使が等外地区に降りたわ」

『ああ』


 監視部の社員はそれだけで察したようだった。

 アオイは会話の空白が生じると迷わず通話を切る。


 クロスディスターにしろ、速海駿也にしろ、絶望的にタイミングが悪かった。

 天使の手を借りるのは癪だがこれで数ある問題のうち二つが片付くことになる。




   ※


 瑠那はクリムゾンアゼリアに向かう列車に乗っていた。


 任務に失敗して戻ると思うと気が重い。

 あれ以来ハルさんとは連絡が取れなくなったし、琥太郎たちの行方も知れないまま。

 管理局に指示を仰いだら一旦戻って来いと言われてしまったのだ。


「はあ……」


 弱い自分を変えるため、国が敵から入手したクロスディスターリングの被験者に志願したのはいいが、これほどの力を手に入れたにも関わらず自分は失敗ばかりしている。


 とんとん拍子に出世しているが、それに見合った働きをしているとは思っていない。

 父の汚名を晴らすどころか無能認定を受けてもおかしくない。

 考えれば考えるほど滅入ってしまう。


 見るでもなしに眺めていた窓の外の景色が白い地下トンネルを抜けた。

 視界が開け、クリムゾンアゼリア下部の等外地区が眼下に拡がる。

 ……と、


「うわっ」


 列車が急停止し、後ろの車両からブシーズの隊員たちが駆け足でやってくる。


「申し訳ありません速海瑠那様! お怪我はありませんでしょうか!」

「どうしたんですか?」


 ただ事ではない様子に背筋を伸ばす。

 まさかこんな場所で何者かの襲撃でもあったのだろうか。


「管理局からの命令で、この列車の使用許可が停止されました」

「使用許可が停止? よくわかりませんが、それではこれからどうすればいいのでしょう」

「我々ブシーズや乗務員たちには数分後に到着する後続列車への移動が命じられています。しかし、瑠那様にその許可は下りていません」

「……えっと、それはどういう意味でしょうか」


 彼女の言っていることが理解できずに問い返す。

 そんな瑠那にブシーズ隊員たちは一斉に手持ちのライフルを向けた。


 瞬間、瑠那は現状を把握する。


「ボクに対しての逮捕命令が出たのですね?」

「はい」

「罪状は」

「存じておりません」


 度重なる失敗に対する責任だろうか。

 それとも父の行動に対する連座が時間遅れで適用されたか。


 どちらにせよ国から犯罪者扱いされたらその時点で終わりだ。

 いや、真面目に罪を償えばまだ浮上の目はあるかもしれない。


「抵抗する気はありません。どうぞ」

「……お父上の件は耳にしております。しかし我々は心情的にもあなたに縄をかけるようなことはしたくありません」

「でも、ボクを見逃せばあなた達が罰せられるのでしょう?」

「捕縛は可能ならばせよとの命令でした。あなたに本気で抵抗されたら、我々ブシーズでは力不足ということは管理局も十分に理解しているかと」


 通路に立っていたブシーズの一人が銃を振り回し、これ見よがしに列車の窓を叩き割った。


「あなたが逃亡したとしても、この場の誰も責を負うことはありません」

「皆さん……」

「瑠那様は我々のような身分の低い者にも分け隔てなく優しかった。あなたのような人格の優れたウォーリアを私は他に知りません。瑠那様の国家に対する忠誠に疑いはなく、この逮捕命令も何かの間違いだと信じております」


 彼女は命令の曖昧さを理由に逃げろと言ってくれている。

 そんな風に部下から慕われていたとは知らず、思わず心が揺れてしまうが、


「心遣いありがとうございます。でも、それはやはりいけませんよ」


 自分は誇り高きウォーリアだ。

 彼女の言う通り紅武凰国に忠誠を誓った身なのだ。

 実力不足への罰にせよ、肉親の罪の連座にせよ、粛々と受け入れる義務がある。


「どうぞ、あなた方の勤めを果たして下さい。どのような罪状であってもボクは然るべき場所で裁きを受け入れて罪を償います」

「く……」


 ブシーズ隊員は苦虫を噛み潰したような顔で歯を剥き、瑠那の両腕に鋼鉄の手錠をかけた。


 これでいいんだ。

 報われなかったなんて思ってはいけない。

 国家あってこその人の営み、ならばその決定に従うのは疑うことなく『正義』なのだから……

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